小説 6 流れる雲が時々、太陽を隠し緑が広がる大地を暗くする。冷たい風が木を揺らし、そして鳥達は鳴き声をあげて仲間と歌う。 「…静かだね」 『ル・プティ・ボワ霊園』 小さな墓が並ぶ霊園の中、一つの墓の前でロッドは話かけた。 愛おしそうに石をさすり、手に持っていた酒が瓶入ったをかける。 「レオンとルイは、野ウサギを見つけて追いかけてるんだ。すぐ来ると思うよ」 答える事のないアンリにロッドは笑顔でそう話かけた。 今日は3人で墓参りに来たレオン達。森の中、野ウサギを見つけたルイは捕まえようと追いかけ、レオンもそれについていってしまった。一人、先に墓に来たロッドは毎度の事、たわいもない話をする。 「聞いてよアンリ、レオンったら俺が最初にウサギを見つけて捕まえようとしたら『可哀相だろっ』て殴った癖に、ルイには優しくってさ…アンリが生きてたら今のレオンを見て笑うと思うよ。生きてたら……」 ただ笑う、穏やかな顔の中に寂しさがみえる。 「アンリを殺したロベスに俺達は復讐をした…終わった今もね、優しいアンリが喜んでくれるとは思わないよ?だけど、それは俺が生きる為には必要だったんだ…だから、もう今は何していいか解らなくて。レオンはルイという生き甲斐を見つけれたけれど…」 雲が太陽を隠し、ロッドの顔が暗く沈む。唇が震えて次の言葉が言えず黙り込んだ。そしてゆっくりと唾を飲む。 「俺はどうしようか?アンリ…お前のそばに行ってやりたいよ」 石を何度も何度も撫でて目をしかめさせる。ロベスを捕らえるまで、幾度となくこうしてレオンと二人して来た、この霊園。あの頃は笑顔もなく、二人して話かけるだけだった。 慌ただしいが平和な毎日が戻ってきた。しかし、時折はこうして過去を思い出す。記憶はフラッシュバックし繰り返し悩ませる。 「ロッドさん」 少し時間がたった後、ロッドの耳に小さな声が聞こえた。振り返ると服を引っ張り声をかけてきたルイだった。 胸には子供なのだろう小ぶりな茶色のウサギが抱かれている。ムシャムシャと口を動かし、昼食に持ってきていたサンドウィッチのレタスを食べている。 「…ああ、捕まえたんだね」 立ち上がったロッドは笑顔で話かけると、こくりと頷くルイ。 「初めて図鑑以外で見ました。生きてるウサギ。とても可愛いです」 嬉しそうな顔で抱く。 また最近、言葉も流暢になりそして、ロッドや仕事場の仲間達に話かけるまでになった。 「人馴れしてるよな。最初は警戒してたけれど、自分から近寄って来たよ。餌でも貰ってるんだろう」 後ろから来たレオンは摘んだばかりの野の花を墓に置いた。そして目をつむりブツブツと小声で話かける。 それを見ていたルイもレオンの横に立ち目をつむった…。 「そのウサギどーすんの。飼うつもり?」 アンリの墓まいりが終わり帰ろうとする3人。 ウサギを抱き離さないルイにロッドは話かけた。 「もうサヨナラします。このコにも仲間がいるからってレオンが教えてくれたし。ただ…ロッドさんとアンリにもウサギ、見せてあげたくて」 柔らかくてくすぐったい茶色の毛を撫でながらルイは微笑む。 あまりに幸せそうな顔を見たロッドは首から下げていたカメラを手に取り反射的にシャッターをきった。 ルイの優しさにロッドは先程までの寂しさが癒されるように胸があつくなった。 そしてファインダーの中に写るルイの笑顔で、いつの日かアンリに打ち明けた夢を思い出す。 「ありがとうな…ルイ。アンリも喜んでるよ」 そう言うとロッドは頭を撫でた。 「ルイをもう学校に通わすの?」 森の中にある公園に座り、3人はバスケットを広げ食事をしだす。 サンドウィッチを両手に持ち、口に含みながらロッドはそう言った。 「勉強だけなら俺達だけでいいんだが…やはり、コミュニケーションが大切だ…早い方がいいからな」 時々、ルイの食べこぼしを拾いあげ口を拭き取るレオン。 「学校は俺達の行っていた所にしようと思う。学費は安いし、年齢制限もない。まだ、覚える事は沢山あるが経験しなきゃ解らない事もある。荒療治かもしれないがね…」 そう続けると、レオンも食べはじめた。 雲が途切れ、青空になった空と風の気持ち良さに目をつむったロッドは何かを悟ったように口を開いた。 「大丈夫だよレオン。ルイが傷ついたら俺も助けるよ」 「…ありがとうロッド」 後押しされたようにレオンもしっかりと声をかえした。 [*前へ][次へ#] [戻る] |