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小説




電信をする機械音、タイプライターを打つ音色、カメラのフラッシュ。

相変わらず、仕事場には仕事をする男達が机に向かい作業をしている。

「静かだな…」

静かさに耐え切れなくなったジムは机に頬杖をつきながら独り言を言う。


「今日は編集長とルイ君がいないからね」

ジャックは答えてまた仕事に集中する。
ジムは書きかけの記事に目を通したが、どうも集中する事が出来ずに、いつも一緒に騒いでくれるロッドに目を移した。
カメラを磨いたり、出来上がった写真を見ているロッドはいつになく真面目で真剣な顔だ。
そんなロッドに話かける事が出来ないジムは仕方なしに書類を見だす。

「早く帰って来ないかな二人とも」





一方、深い緑色をした草と花が咲く道を歩くレオンとルイ。
頭上には晴れ渡る青空が広がる。


「ルイ、転ぶから走るなよ」


歩く人の少ない川辺の道をルイは駆けていく。
初めは歩くのを見慣れない道に戸惑いレオンにすがっていたが、慣れたのか楽しそうに走ってゆく。
叱りながらもレオンも嬉しそうだ。



「レオン、病院が見えてきたよ」


息を切らしながらルイは嬉しそうに病院を見た。一ヶ月ぶりの病院受診。
いつかは傷だらけで抱えられて見た道をルイはしっかりと足をつけ歩いて行った。



「ルイくん!?大きくなって…解らなかったよ」


トゥーレ医師のいる医務室に入るなり、笑顔で迎えいれてくれた。
恥ずかしいのかルイはモジモジとし、レオンの後ろに隠れる。肩を叩き促した。


「お久しぶりです。トゥーレ先生。また、お会い出来て嬉しいです」


レオンが教えた挨拶をルイは丁寧にはっきりとした言葉で言った。
確かに成長したルイに安心したトゥーレ医師は穏やかな顔をみせる。





「身体も異常がないよ。顔色もいいし身長も驚くほど伸びたね」


レオンは自分が褒められたかの様に嬉しそうに聴き入る。

二人はルイの最近の状況を話だした。
大人の話に入る事が出来ず、つまらなくなったルイは窓の外を見たり部屋の中をウロウロとしだした。
だが、急にレオンの腕を掴み


「レオン…トイレに行きたい」

と手を引いた。


「行っておいで。場所は知ってるだろ」


慣れた病院。看護師もルイを知ってる人間ばかりだ。安心してルイを医務室から出した。





ルイはトイレを済まし、久しぶりの病院内を歩いた。少し前に居たはずなのに何故か違和感を感じる。
すれ違う看護師に声をかけられ、はにかむ笑顔を見せながらルイは医務室に戻ろうとした時にの事だ…自分より少し上であろう少年達、3人組から声かけられ立ち止まった。


「なあなあ、お前ルイってヤツだろ?」

少年の一人が名前を呼んだ。見知らぬ顔に警戒したが、ルイはうなづく。


「久しぶりだよな退院したんだろ?今、何してるの」

もう一人の少年が聞くが、馴れ馴れしい態度に後込む。


黙り込むルイに少年達は質問するが、答えられないでいるとニヤニヤしながら少年は


「お前…ロベスってヤツに強姦されてたって本当?」

と言った。
久しぶりに聞いた名前…身体が震えてルイは逃げる事も出来なかった。


「お前だよな?本で読んだんだけどさ、監禁してご主人様って呼ばせてレイプされてたんだってな。可哀相だな」

「酷い話だね。信じられないよ男同士でさ。俺だったらそんな事されたら生きてられないって」

口々にそう言いルイの知らない言葉をはき心配する様なそぶりをみせるが、表情から本心ではないとルイは思う。
帰ろうとするが足がすくむ。

だが…

「今日一緒に来てたオッサンって誰?」

「あの厳ついヤツ、お前の新しいご主人様?」


意味こそ、はっきりと解らなかったがレオンの事を言ってるのが解った。


レオンの顔を思い浮かべルイは少年達を押しのけ走った。
耳には大きな声で少年達が笑うのが残った。



「遅かったな。迷ったのかルイ?」


医務室の前ではレオンとトゥーレ医師が立っていた。ルイはレオンに飛びついた。


「もう抱っこはダメだって何度もいっ…」

レオンはまた叱ろうとしたが、ルイの元気のない顔を不思議に思い言うのをやめた。



「じゃあ、ルイ君。次はまた一ヶ月後に来て、その次からは体調が悪い時に来てくれれば…受診だけじゃなく、いつでも遊びに来ていいから」

トゥーレ医師の優しい言葉をルイは聞こえてないのか黙りレオンに抱き着いてたが「はい」と小さく返事を返した。



トゥーレ医師と別れルイを背負ったレオンは何があったのかと思いながら家路を歩く。身体が大きくなった少年は力のあるレオンでも重いが無言で何も言わないルイを案じ背負う。


「ねぇ…レオン」

家が近くなりやっと口を開いたルイ。
耳を傾け「どうした?」と声をかける。

「僕はカンキンされてゴーカンされて恥ずかしいの?」


ルイは震える小さな声で言った。


「なっ…誰がそんな事」


レオンはルイを降ろし、顔を見つめる。真剣に目を逸らさずまた


「気持ち悪いって…ロベス様にゴーカンされて。どうして?」

と聞く。


何があったのかとレオンは川辺のベンチにルイを座らせ話を聞いた。



「そんな事があったのか…」

険しい顔をしたレオンは頭を抱えつぶやいた。
かける言葉が見つからなかった。どう説明していいのかと…ごまかす事は出来る。ただ、いつかは社会に出るルイにとっていつかはぶつかる問題だ。
隠していてもバレる事もある。そして、ルイもロベスから受けた行為の意味はいずれかは理解するであろうから。



「外に出ても辛いだけだよ。だってもう汚い身体になったから」


何も言わないレオンにそうルイは言った。


「ロベス様がずっと言ってたから、僕は覚えてます。あの人達はだから僕の事を笑ったんですよね?」

レオンの手を取り、言ったルイはギュと握った。

「ルイ…気にするな。お前は悪くない。ロベスに強要された事に対して酷い事を言う奴らもいるが、そんなヤツらは…」


声を荒げたレオンだったが、腕を顔に寄せるルイは微笑んでいる様子を見てしゃべるのを止めた。


「大丈夫です。だって今の方が嬉しいから。中より外の世界の…今のあったかい手にいる方が…恐かったけどもう大丈夫」


ルイの笑顔にレオンもつられ、ため息を吐くと

「気にするな、もう帰ろう皆の所へ」

と立ち上がった。
まだ理解こそしていないが、ルイなら少しずつ乗り切っていくのだと信じて。




仕事場につきドアを開けると、香しい匂いが鼻についた。


「お帰りなさい!レオンさんッ、ルイ」


鍋を抱えたジムが出迎えてくれた。鍋にはビーフシチューが入っており湯気を立てていた。
そしてレオンのデスク上には下手くそな字で『祝一ヶ月!ルイの快気祝い』と書かれいる垂れ幕が下がっていた


「勝手な事をしてすいません。ジムがパーティーをするってきかなくて…」

ビルが申し訳なさそうに話かけてきた。
仕事場は片付けられ、クロスをかけられた机に花が飾られて料理が並ぶ。

「ジム!お前なあっ、ルイが来てから何度もパーティーって事あるごとにしただろう…何度すれば…」

「まあレオン、せっかくジムが作ったんだから祝おうよ。本当に俺達もルイの成長が嬉しいんだから」

奥で大人しく座っていたロッドはジムを庇うように話かけてきた。
レオンは少し考えたが、ルイの為に懸命にしてくれた料理を見て「始めるぞ」と開始の合図をした。


レオンの合図でみんな特定の位置につく…年齢や性格は違えど騒ぐのが好きな仲間達なのだから。





酒も入り仲間達は話が盛り上がる。長年、馴れ合ってきたのだからやはり一人でもかけると寂しいのだ…最近はルイも入り違う話題も増え談笑をする。



「久しぶりの病院はどうだった?」

今日あった出来事を知るはずもないロッドは笑顔でルイに話かけた。
皆も気になってたのか

「遠くまで歩いて大変だったろ」

「先生はお元気でしたか?」

と話かけた。
レオンは黙りルイの様子を伺った。
質問に答えながら、嫌だった出来事に触れない様に話す…レオンは黙って見守る。

一通り答えたルイはいきなり俯き、険しい表情を見せた。


――嫌な事を思い出したか…

レオンは庇おうとした瞬間、ルイの重い口が開いた。


「ねぇ、レオンはイカツイ、オッサンなの?」

と。

急な発言に一同は爆笑しだす。

「ぎゃははっ、何処で覚えてきたんだよ」


皆が笑う姿を不思議そうな顔で見てたルイはレオンを見る。


「イカツイってオッサン?オッサンってレオンでしょ?」


きっと少年達が言った言葉を覚えたのだと思うが、ルイのストレートな声で言われると笑いが込み上げてきた。


ただ…目の前で必要以上に笑うロッドを見たレオンはだんだんと苛立ちを覚えた。


「笑いすぎだ!バカ」


頭を叩くとまた仕事場は笑顔に包まれた。





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あきゅろす。
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