小説
7
男娼館の営業は夜な夜な休みなく行われていた。日が沈み暗くなると夜の闇に紛れる様に卑猥な遊びが始まる。
明け方まで乱痴気騒ぎが行われる為、男娼達は昼過ぎまで寝てその後は客に見せるダンスやアリア等の演技の練習をする。
「リオネル、真面目に練習しなさい」
大広間で数人の男娼達がダンスの練習をしてる中、隅に座りつまらなそうにそれを眺めているリオネルをダンスの先生は叱った。
「…練習したって、客はダンスより身体目当てだから意味ないもん」
リオネルは自分より大分年上の先生に生意気にもそう言った。
「それに僕はココで一番、お金を稼いでるしさ」
ケラケラとリオネルは笑いだした。周りの男娼達は自分より年上であり、生意気な態度にムッと表情を変える。
その時
「お前達、頑張っているか」
と中年の男が入ってきた。巨体に派手なスーツを着て指や首には金、銀、宝石をジャラジャラとつけている。
その姿を見た男娼達は手を止めて頭を下げて男を迎えいれた。
この館の主人、旦那だ。
「ご主人様、いらっしゃい」
リオネルはただ一人、主人に駆け寄り抱き着いた。
「おお、リオネルは元気だね」
主人は頭を撫で微笑む。周りの男娼達はこそこそとその様子を見て影口をたたいていた。
それをちらりとリオネルは見ていたが嘲笑うように笑むとまた抱き着いた。
練習も終えて主人も帰ると夜の営業をする準備をする為に解散になった。
リオネルも部屋に戻ろうと大広間を出ようとすると、最年長の男娼が声をかけてきた。
「リオネル、何お前の態度?」
と。
リオネルの周りには4人の男娼が集まり睨んでいる。萎縮してしまいそうな雰囲気だがリオネルは楽しそうに、にやけた。
「ご主人様の機嫌ばかり取りやがって…いやしいヤツ。お前いつも、ご主人様の悪口を言ってる癖に」
違う男娼がリオネルを罵ったが、
「当たり前だろ?ご主人様の機嫌さえとれば上客を回して貰える。金を稼げなきゃ僕達の商売は終わりだよ。まあ…お前に上客は捌けないだろうけど」
と言い高笑いを始めた。
我慢できなくなった男娼達はリオネルに掴みかかり、争いになった。
男娼達が喧嘩になるのはよくある事だった。閉鎖され抑圧された生活、みな鬱憤がたまっていた。また、人気を取る為に他人を蹴り落とす事は日常的に行われていた。
髪を掴んだり、顔を叩いたりと男娼達は大声で罵りあった。
「何をやってるんですかリオネル様」
なかなか戻ってこないリオネルを心配し来たジルは大広間に入って男娼達を止めた。ジルはきたものの一度ついた火は止まらず喧嘩は止まなかった。
「何をしているんだ!!」
大広間に響く野太い声を聞き男娼達はみな手を止めた。館の主人がドアの前に立って怒った顔をしている。みな、俯き震えた。誰かが告げ口をしたのだ…つかつかと近づくと主人は男娼達ではなく、ジルの顔を思いっ切り殴った。
「ジ…ジル!?」
リオネルは駆け寄り、床にしゃがみ込むジルに抱き着く。
「大事な商品達に傷がついたじゃないか!どうして見ておかなかったんだ。お前の不行き届きだ」
主人はそう言うと今度はジルを蹴り飛ばした。
主人は男娼達を咎めず、仕事の準備をと返したが難癖をつけられながらも俯き謝るジルの傍をリオネルは離れられなかった。
「リオネルも仕事に行きなさい」
主人は冷たく命令した。
「ご主人様、僕が喧嘩をしかけたんですっ。ジルも許して下さい」
リオネルは主人に抱き着きねだるが
「可愛いリオネルがどうして、こんな汚い男が好きかね?」
と、ポケットに入っていた馬を調教する鞭を持ちジルを勢いよく叩いた。「…ぐがっ」とジルは叫び顔を歪ませた。
リオネルは顔を背けたが、また主人に抱き着くと懸命に願った。
「リオネル、お前が欲しいと言ったから貸してやってはいるが、ジルは身分の卑しい人種の男なんだ。私が買ってやったのだから何をしても許される。身体中に傷があるこの醜い男は男娼にもできないしな…」
そう言うとまたジルを叩きだす。
そんな主人をもうリオネルは止められなかった。何度もこうして罰を受けるジルを見てきたが、自分が止めると主人は更に苛立ち酷さを増すからだ。気が済むのを目をつむり、愛おしい人が痛めつけられる男を黙って聞いていた。
数分、この悪夢の時間が過ぎ
「…リオネル、お前ももうケンカをしてはいけないよ」
と言い残し主人は帰っていった。
すぐ、床に横になるジルの傍に駆け寄る。服はボロボロにちぎれて、肌からは細い鞭の跡から出血している。
「や…やだ。ジルごめんなさい」
オロオロとジルに声をかけたが、無言でジルはゆっくり起き上がり
「リオネル様、早く部屋に戻って下さい。仕事の時間です」
とだけ発した。
「痛いよね!?歩けるジル?」
リオネルは心配そうに声をかけてジルから離れれないでいたが、ふと床が濡れている事に気がついた。痛さのあまりにジルは失禁してしまっていた…見ないフリをしようとリオネルは目を反らしたがジルは気がつき、笑った。
「別にいいんですよ。笑っても?」
とだけ言い。
「可笑しくないッ、可笑しなんかないよジル。本当にごめんなさい」
「早く仕事に行って下さい」
そう冷たく突き放すジルの顔を見てリオネルは涙を流しだした。
ジルはリオネルを慰める所か
「泣かないで下さい…商品の顔が腫れていると私がまた主人に咎められますので」
とまた突き放し、リオネルはやっと腰をあげて広間の戸口に立った。
「この館…ううん、世界中で僕の大切な人はジルだけなのに」
とリオネルはつぶやく。
返事が返って来ないのは解っており、リオネルは走り部屋に戻った。
ジルは冷たい床にまた寝そべり目をつむる。
そして
「リオネル様も私も…所詮は旦那様の物。そろそろ理解すべきですよ」
と独り話す。
この晩、ジルが部屋に返ってきてもリオネルは何も言わず淡々と仕事をこなした。
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