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短品
仲間の気持ち


「いくよミラ!」

「あぁジュード!」

『炎穿陣!!』


ジュードとミラのリンクアーツ『炎穿陣』で止めを指し、同じくリンクをしていたアルヴィンとエリーゼのペアも戦闘を終了させていた。


「これで依頼完了だな」

「うむ。中々手応えのある依頼だったな」

「このくらいならアドリビトムでもやって行けそうだね」

「じゃあ早くバンエルティア号に戻りましよう!!」

「お腹ペコペコー!」


アルヴィン、ミラ、ジュード、それにエリーゼにティポがそれぞれ言葉を発した。
この4人と1匹?が今回の依頼に参加したメンバーだ。
バンエルティア号には他にもローエンとレイアもいる。

この6人はつい最近ギルド、アドリビトムに入ったばかりだった。
精霊の主マクスウェルであるミラを狙ったアルクノアと言う組織から逃げている際、アドリビトムに助けられたのだ。
そして事情を聞いたアドリビトムのメンバーが匿ってくれるとの事で、しばらくアドリビトムに身を置くことにしたのだ。
そして今は、アドリビトムの一員として依頼もこなしている。


「早く帰って報告をしなくては」

「そうしたらご飯食べたい!」

「私もお腹空きました」


"私も空腹を感じていた所だ"と言いながらお腹を鳴らすミラ。
そんなミラにクスクス笑うエリーゼやティポ。


「おたくらは揃って食いしん坊だな」


そうデリカシーもなく言うアルヴィンに、エリーゼは顔を真っ赤にさせて怒っている。
そんな光景を見て微笑ましそうに笑うジュード。


「みんな元気だね、これだったらもうちょっと難しい依頼でもよかったか…っ」


言葉を言いきる前に、ジュードの視界が一瞬グラリと揺らだ。
しかしジュードは踏みとどまり、倒れる事は無かった。


「ジュード!?大丈夫か?」


そんなジュードの様子に気付いたのか、心配したミラが駆け寄ってきた。
エリーゼも心配してジュードの顔を覗き込んできた。


「大丈夫、ちょっと目眩がしただけだから…」


そう笑顔で言うジュード。
その顔はいつもと変わらないジュードの笑顔だった。


「あんまり無理するなよ?取り合えず帰ったら医務室行けって」

「本当に大丈夫だから」


アルヴィンの申し出にも大丈夫と言い張る。
ジュードも医学生の卵。
ジュードが言うなら、とみんな納得して帰路に着いた。













「依頼も終ったし、今日のところは解散だな」


バンエルティア号に帰り、依頼の完了を報告したメンバー。
アルヴィンが声をかけ、それぞれ自由行動になった。
ミラとエリーゼ、ティポはレイアを誘って食堂へ行くと言っていた。
アルヴィンは展望台で大人組でお酒を飲むらしい。


「僕は部屋で医学書でも読もうかな…」


そう思い、廊下に出た時だった。


「っ…!」


また目眩に襲われた。
今度はさっきの比ではないくらい視界が歪む。
気持ちが悪い。
ジュードは思わず壁に手をつき、座り込んでしまう。


(こんな所で倒れたら、仲間の皆にも、アドリビトムの人達にも迷惑がかかる…!せめて部屋まで…!)


そうは思うが体は全く動かないし、視界も歪んで今自分が何処に居るかもわからなくなっていた。
頭もぼんやりして働かない。
そして、もうダメだと思った時。


「ジュード?」


誰かの声がした。
視界も頭も働かない状態で誰かはわからない。
でも見付かってしまった。
自分で何とかしなくちゃいけないのに、このままでは迷惑もかかるし仲間にも体調が悪いのがバレてしまう。
それだけは嫌だ。
ミラ達に迷惑はかけたくない。


「おい!!大丈夫か!?」


駆け寄ってきた人物に、ジュードは今出る精一杯の声を出した。


「お願い…っ!!仲間には…言わ、ないで…っ」


そこでジュードは力尽き、意識を手放した。


「ジュード!?おい!!…ったく、何なんだよ」


意識を無くしたジュードを支えた人物、ユーリは仲間に知られたくないと言ったジュードをどうしようかと悩んだ。


「仲間に知られたくない、か…。って事は医務室も行きたくないだろうし…仕方ないか」


そう言って、ユーリはジュードの体を抱えて、誰にも見られない様に歩き出した。













「ん…」


ジュードの目がゆっくりと開かれる。
意識は戻ったが、まだ覚醒しきれていない様子で部屋を何となく見回す。
覚めない頭で、ただ見覚えのない部屋だなと言うのは理解していた。


「お、起きたな」


部屋の扉が開き、入ってきた長い黒髪の人物、ユーリにジュードは目をやった。


「起き上がれるか?」


ユーリの言葉に頷き、ジュードは体を起こそうとしたが、体に力が入らなかった。
それがわかってユーリはジュードの手助けをし、何とか起き上がる事が出来た。


「覚えてるか?お前廊下で倒れたんだぜ?あと、医務室から薬貰ってきたから飲め」


廊下で倒れた。
そう聞いて、やっと今の状態を理解したジュード。
慌ててもう一度部屋を見回した。


「そ、そうだ…僕目眩がして、それでみんなに迷惑かけたくなくて…!!それで…!!」

「ストップ!!」


慌て出したジュードの口を鷲掴みして塞いだユーリ。
それに驚いて動きが止まったジュード。
やっと視線が合ったジュードの目を見てユーリは取り合えず落ち着け、と言った。
その言葉に一瞬間を置いて、ジュードは頷いた。
そんなジュードを見てユーリは"よし、いい子だ"と言ってジュードの頭を撫でた。


「取り合えず薬を飲め。リフィルがお前を見てくれて治癒術もかけてもらった。たぶん敵の毒にやられたんだろうって、その薬飲めばすぐに良くなるそうだ」


貰った錠剤と水を手渡し、ユーリは近くにあった椅子に座った。
ジュードは大人しく薬を飲み込んだ。


「あの、ユーリ…さん」

「ユーリでいい」


ジュードはバンエルティア号に乗って日も浅い。
名前も覚えているのが奇跡なくらいで、自己紹介も軽く一言喋ったくらい。
関わりのあまり無い人物でどう接したらいいかわからない。
取り合えず、さん付けはいらないらしい。


「えっと…じゃあ、ユーリ。助けてもらってありがとう。それに何処か、部屋まで運んでもらって…」

「ジュードの部屋がわからなかったから取り合えず俺の部屋に運んだ。仲間にバレたくないって必死そうだったから医務室も嫌がると思ってな、リフィルも部屋まで来て貰ったんだ。後でお礼言っとけ」


ユーリの話しを聞いて、ジュードは申し訳無さに落ち込んだ。
自己管理も出来ていなかった上にこうして何人もの人に迷惑をかけてしまった。
自分が不甲斐ない。


「迷惑をかけてしまってごめんなさい、これ以上の迷惑はかけられないし帰るのが遅かったら仲間にも心配されるので僕部屋に帰りますから…っ」


立ち上がろうと地面に足を着いたはいいが力が入らず、咄嗟に手を貸してくれたユーリに支えてもらってしまった。


「まだ動ける状態じゃないんだ、もうしばらく寝てろ」

「で、でも迷惑が…!!」


また迷惑をかけてしまった。
一人では立つことも出来ないのに今、自分はユーリのベッドも占領してしまっている。
ユーリに迷惑をかけすぎている。
だがユーリの方はそんなジュードの態度に眉間にシワを寄せた。


「ジュード、いい加減にしろ!!」

「痛っ…!!」


ユーリは病み上がりのジュードの頭を思いっきり殴った。
あまりの痛みに涙目で布団に逆戻りになったジュードは頭を抑えている。


「あのなジュード、俺がいつお前に迷惑だなんて言ったんだ?」

「え…?」


涙目で頭を抑えながら、ジュードはユーリを見た。


「迷惑だなんて思うんなら俺はここまでお前を介抱したりしない」

「で、でも…」


それでも、ユーリに迷惑をかけたには間違いはないのだ。


「…それに、仲間に倒れたってバレたくないってのもな。なんでバレたくない?」

「それは…心配、させちゃうから…」


心配させたくない。
自分が倒れて心配されるほど、今の自分達には余裕はない。
自分は今、ミラを守らなくてはいけない立場なのだ。


「心配されるって事はだな、お前はみんなに好かれてるって事だ。お前が好きだから心配する。もしミラが怪我したらお前ならどうする?」

「…心配、する。…隠さないで言ってほしいし治してあげたい…って思う…」

「それと同じだ」


ユーリはジュードに布団をかけて、殴った所をポンポンと優しく撫でた。


「仲間だから大切にしたいし、弱い所だって見せて欲しい。困ってる時には助けるし助けられる。それが仲間だ」

「……」


ユーリが言っている事は充分理解出来た。
確かに、仲間だから何でも言ってほしいし相談して欲しい。
体調が悪いなら休んで無理しないでほしい。
だけど今のジュードには自信が無かった。
ミラは使命の為ならどんな事でも切り捨てられる。
自分には無いそれを、強いと思うし憧れる部分ではあった。
だからこそ、その切り捨てる物に自分が入っているのではないかと怖くなる。
倒れたりした時、そのまま置いていかれるんじゃないかと。


「……」


言っている事は理解しているようが何処か浮かない顔をするジュードに、何となく察しがついたユーリはニヤリと笑ってジュードに声をかけた。


「じゃあ試してみるか?」

「え?」


何を試すのか解らず、頭にハテナを浮かべるジュード。


「お前に対するミラ達の気持ちを、だ」


そう言っておもむろに立ち上がったユーリに、何をしようとしているのか理解したジュードは慌ててユーリの腕を握った。


「待って!それは…」

「俺だって、もう仲間なんだ」


ユーリは握られた手を払うのではなく、手を重ねてゆっくりと解いた。


「お前の心配もするし、悩んでるならそれを解消したい。それに…」


そこまで言って、ユーリは半分起き上がっているジュードの身体を布団に戻す為、押し倒すようにして覆い被さった。
ユーリの顔が目の前にあって、ジュードの顔は見るみる真っ赤になった。


「ミラ達がお前を好きだって言う自信がある」


そう言ってウインクをしたユーリに、ジュードの心臓がドキリと飛び跳ねた。


「って事だから、大人しく待ってろ」


ジュードの上から退いたユーリは、その足で部屋の扉から外に出て行った。


「……っ」


しばらく顔の熱が取れず身体も動かないジュードは、大人しくベッドの上で待っているしかできなかった。













(大丈夫かジュード!!)
(倒れたって聞いて急いで来たよ!)
(ジュード…!!大丈夫ですか!?)
(心配したよジュードくん!!)
(み、みんな…抱き付かないで…!!く、苦しいよ…!!)
(お、思ったより元気そうだな)
(元気そうでなによりです)


(よかったな、ジュード…)


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あきゅろす。
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