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短品
ハニー


「今日も楽な仕事だったな」


そう言いながらバンエルティア号のホールに来たのはユーリ。
ユーリはさっきクエストから帰って来た様で、グッと背伸びをするとホールの椅子に座った。


「楽っちゃ楽だが、さすがにスケルトン30体は多かったな……」


敵の数が多かったのもそうだったが、一緒に行ったメンバーもユーリの疲れを引き出す原因にもなっていた。


「ルカとイリアにスパーダか……ったく、全然言うこときかねぇの」


ユーリは戦闘が始まった時のあのメンバーの個性が十分に出た戦いに呆れるしかなかった。
ルカを除いてその他二人は突っ走って自由気ままに戦闘を楽しんでいた。
思い返すだけでも疲れる。
ルカの涙目で謝ってくる姿が健気でこっちが涙目になりそうだった。


「あー、……部屋戻って寝るかな……」


そうユーリが呟いた時、ホールの扉が開いた。


「あっれー?偶然!!こんな所にハニー発見ww」

「げ」


入って来たのは長髪で赤い髪を持つ、白いヘアバンドをした嫌にテンションの高いゼロスだった。


「何ナニ?そんな嫌そうな顔されると俺様傷付いちゃうよ?」


ゼロスを見た途端に嫌な顔をしたユーリ。
それにちっとも傷付いた様子の無いゼロスは上機嫌で歩いて来てユーリの隣に座った。


「俺、今から部屋に行くんだけど」

「え、何ナニお誘い!?行く行く!!」

「いや誘ってねぇし。部屋戻って寝るからお前と話す時間ねぇって言ってんの」


いつもこの調子で皆と接するゼロス。
疲れないのだろうか。


「え〜、折角会えたのにそんなあっけない……」


ユーリからのお断りに肩を落とすゼロス。


「ゼロスと会えたからって俺に得な事は何もねぇしな」

「それ、好きな人に言われるのってかなり傷付くよね……」

「?、…何か言ったか?」

「いや何も〜?」


ユーリの言葉に、ついボソッと呟いた言葉だったがどうやらユーリには聞こえなかった様だ。


「俺いい加減眠いからさ、部屋帰るわ」

「ちょ、ちょっと待ってって!!」


本気で帰ろうとしているのか、ユーリは立ち上がると扉の方へ歩き出した。
そんなユーリを見て、ゼロスは反射的にユーリの腕を掴んだ。


「何だよゼロス、部屋に行きてぇんだけど」

ユーリは少し不機嫌そうにゼロスを振り返る。
引き止めたはいいがユーリに会話する意思が無い以上、引き止めても嫌われてしまう事は目に見えている。
ゼロスは焦って何か言わなければ、と久しぶりに頭をフル回転させた。


「ふ……」

「ふ?」

「ふ、フルーツポンチ食べねぇ!?」


フル回転させた結果。
出た言葉は"フルーツポンチ食べねぇ!?"だ。
"バカだろ自分!!"と、言った事を激しく後悔するゼロスは"はぁ?大の大人がフルーツポンチ?ふざけんなよ"と鋭い眼光で睨まれる事を想像し、腹を決めた様にユーリの言葉を待った。


「フルーツポンチか、しばらく食べてねぇな。ゼロスが作ってくれんのか?」

「え?」


返って来た言葉は想像していた言葉とは全く逆だった。


「フルーツポンチ……食べんの?」

「ゼロスが食べないかって言ったんだろ?ゼロスが作るんじゃないのか?」


そうユーリが言うとゼロスは一気に輝き出した。


「つ、作る作る!!ゼロス様特製スペシャルフルーツポンチ作ってやるよ!!」


そう言ったゼロスの歯がキランと光った。


「じゃあ早速作りに行きますか!!」


気合いを入れる様にそう言ったゼロスだったが今度はユーリに腕を引かれた。


「あのなゼロス、悪いんだが……」

「へ?」

「ちょっと今日疲れちまったから部屋で休んでたいんだ、だから……部屋に持ってきてくれないか?」


ユーリはゼロスより背が高い。
だけど今のユーリは高いはずなのに何故だか上目遣いに見えて、ユーリの困った様な顔にゼロスは思わずドキッとしてしまった。


「も、ちろん。いいぜ?」

「サンキュ、じゃあ部屋で待ってる」


そう言って嬉しそうに笑うユーリはまるで女の子の様で、ゼロスは顔が熱くなった。
ユーリが出て行った扉を見つめ、ゼロスはしばらくその場を動け無かった。













「気合い十分!!さぁハニーの部屋に行くぜ!!」


フルーツポンチ片手に軽やかな足取りで廊下を歩くゼロス。
実はユーリの部屋に入るのは初めてだったりする。


「待ちくたびれてるかもしれねぇな、ちょっと時間かかっちまったし」


フルーツポンチにイロイロとデコレーションしていたゼロスはかなり時間を使った事に後から気付いた。


「寝ちゃってなけりゃいいけど」


そう思いながらゼロスはユーリの部屋の前に来た。
そして、コンコンと軽めなノックをしてみる。


「……」


返事は無し。


「……まさかね〜」


ゼロスはもう一度ノックをしてみる。
声付きで。


「ハニーwwフルーツポンチ作って来たぜ?」

「……」


やはり返事は無い。
もしかしたら、ユーリは寝てしまったのかもしれない。
それもそれで悲しいゼロス。
せめて扉の鍵さえ開いていれば。
そう思ったゼロスが扉に手をかけると。


「……開いちゃうのね」


鍵は開いていて、扉は何の障害も無く開かれた。


「入りますよっと」


もし後で何か言われれば鍵を閉めて無かったユーリが悪いと言い張ろう。
そう思いながらゼロスはユーリの部屋へ足を踏み入れた。
そして目的の人物を探す様に部屋を見渡してみると、目的の黒い人物、ユーリは予想道理にベッドに横になっていた。


「あちゃ〜、やっぱり寝ちゃったか」


ユーリは規則正しい寝息をたててスヤスヤと眠っていた。
そんなユーリにゼロスは"仕方ないか"と思い、フルーツポンチをテーブルの上に置いた。


「ったく、呑気に寝ちゃってな」


ゼロスはユーリのベッドに腰掛けると、ユーリの顔を覗き込んだ。


「……こりゃま」


寝ているユーリを見るのは初めてで、その白い肌に長い睫毛、少し開いた口が妙に色っぽい。
ゼロスはサラサラの黒髪を優しく撫でた。


「本当に疲れてたんだな」


触っても起きないところを見ると、相当疲れていた様で、かなり深い眠りについている様だ。
会ったばかりの頃に、気配を消してユーリの背後から近付いてもすぐにバレていた事を思い出す。
そんな、周りに敏感なユーリが今こうやって目の前で寝ている事に、無性に嬉しくなる。
緩む口元を堪える訳でも無く、ゼロスは起こすのは悪いだろうと、ユーリを撫でる手を止め、立ち上がった。

「あ。でもま、フルーツポンチのお代くらいはもらってくぜ」


そう言ってゼロスはしゃがみ込むと、自分の唇とユーリの唇を重ねた。
軽く触れただけだったが、ゼロスには十分だった。


「ごちそうさま。フルーツポンチ美味しく食べろよ?ユーリ」


寝ているユーリには届かないとわかってはいたが、ゼロスはニッコリ笑ってユーリの部屋を出た。
今の気分は絶好調だった。
ゼロスはロイドにでも絡みに行こうかと、小さくスキップをしながら廊下を歩いた。




























「ったく、口は無いだろ口は……///」


ゼロスが去った後。
ベッドに横になっていたユーリはその場を動く訳でも無く、顔を真っ赤にして口元を押さえていた。

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