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短品
陰険眼鏡の危険性


「おーいリフィル?いるか?」


ユーリが入って呼び掛けたのは化学室、リフィルを探して来たのだがどうやら目的の人物はいないらしい。


「何処いったんだ?」

「リフィルならクエストに行きましたよ?」

「うわぁ!!」


突然後ろから声をかけられてユーリは驚いたように振り向きざまに数歩後ろに動いた。
全く気配を感じなかった、真後ろで声をかけたその人物はユーリのリアクションを見て楽しそうにニコニコと笑っていた。


「おっさん、気配消して後ろに立つな」

「おっさんなんて失礼ですね〜、まだまだ若いつもりでしたが……」

「35にもなりゃもう十分におっさんだ」


おっさんと呼ばれた人物、ジェイドは困ったように肩を上げた。


「若者には敵いませんね」

「そりゃどうも」


そう言って部屋を出て行こうとするユーリ。
しかし部屋からもう一歩で出る、という時にユーリの体はピタリと止まった。
理由は簡単である。
ユーリの腕を掴んだ人物がいるからだ。


「……離せおっさん」

「折角ですからお茶でもしていきませんか?」

「俺はリフィルに用があったんだ、あんたじゃねぇ」

「つれないですね、お茶くらいいいじゃないですか」


デスクワークばかりしてそうなジェイドのどこにそんな力があるのか、あっと言う間に部屋に連れ込まれ、部屋のドアを閉められた。
鍵を掛ける音がしたのはけして幻聴では無いだろう。


「何しやがる!!」

「こうでもしないとあなたに逃げられてしまいますからね」

「もうちっと穏便なエスコートを頼みたいもんだな」

「おや、あなたに対しては精一杯のエスコートのつもりでしたが?」


この状況を楽しんでいるようなニコニコした顔に少しイラッとしたが、このままでは帰れないと感じたのか、ユーリは大人しくする事にした。


「わかったよ、お茶の一杯くらいなら付き合ってやる」

「では準備しましょう」


"そこの椅子に座っていてください"そうジェイドが言ったので、ユーリは遠慮無く座らせてもらった。
そして、数分もしないうちにジェイドはティーカップが載ったトレイを持ってやってきた。
そしてユーリの向かい側に座ると、クッキーが載った皿を差し出した。


「丁度クッキーもあったのでよかったらどうぞ」

「んじゃ遠慮無く」


ユーリは皿に盛ってあったクッキーに手を伸ばし、一枚摘むとそれを口にほうり込んだ。


「ん、これパニールが作ったやつか」

「よくわかりましたね、先程パニールに差し入れとして頂いたんですよ」


"パニールのは美味いから味でわかるんだよな"と言うユーリは幸せそうに次々とクッキーを口に入れる。


「砂糖は何個ですか?」

「7個、あとミルクも」

「……7個ですね」


砂糖の器を持ったジェイドはユーリの"7個"と言うセリフに一瞬動きを止めるが、何事も無かったように紅茶に砂糖を入れて行く。


「どうぞ」

「サンキュー」


砂糖とミルクを入れ終わった紅茶をユーリに差し出す。
もはや紅茶と呼べるべき代物かはわからないが、ユーリはその甘ったるい紅茶を口にし、"美味いな"と言った。
ジェイドは心なしか眉間にシワが寄っている。


「よくそんな物が飲めますね」

「昔から甘いものが好きだったからな、今でも好きってだけだよ」


甘党と言う事を隠さず、むしろ認めるような発言をするとは思っておらず、ジェイドは少なからず驚いた。


「……隠さないんですね、意外です」

「隠したっていずれバレれば同じだろ?それに俺は周りの目とか気にしねぇし」


素直にそう言ったユーリはかなり男らしい。
やっている事は女らしいが。


「なるほど。周りの目を気にしない、ね」


ジェイドはおもむろに立ち上がり、ユーリの方に回り込んだ。


「何だよ」


ユーリは残りの紅茶を飲み干し、ジェイドに視線を向ける。


「いえいえ。ただ、周りの目を気にしない、つまりそこから貴方の鈍感さが来たのではないかと思っただけですよ」

「は?」


つまり、ユーリは自分に向けられる視線なども気にとめていないと言う事なのだろう。
と、突然ジェイドは右手でユーリの左手を掴んで押さえ付けた。


「何すんだよっ」


押さえ付けられた左手を解こうと試みるがガッチリと掴まれた腕は解放されない。
ちなみに右手にはクッキーがあり、口に入れたくてもジェイドの顔が近過ぎて口に入らない。
そしてそのままジェイドは左手でユーリの開いた胸元を上から下へと指でなぞった。


「っ!!」

「このやらしい服装も、あなたは気にしないんでしょうね」

「は、ぁ?俺の服に文句付けんのかよ」

「いえ、ただそそられる服装だと思っただけですよ」

「意味わかんねぇよ」

「……まぁ、そんな所も良いんですけどね」


何故だか意味が通じていないユーリにため息をつくジェイド、しかし、今のこの美味しい状況を活用しない手は無い。


「まぁそんなあなたでも、こうされればわかるでしょう?」


そう言った途端、ジェイドは顔を近付け。


「ムグッ」


口にクッキーを詰め込まれた。
ジェイドは驚き、そのスキに腕の拘束から抜け出したユーリ。


「バーカ」


ユーリの方を見ると意地の悪い笑みを浮かべていた。
もしかしたら確信犯かもしれない。
ジェイドは口にあったクッキーを全て喉に通す。


「あなた相手だと中々手強いようですね」

「そうそうじゃヤられないぜ?俺は」

「そのようです」


"今日は諦めますよ"と言ってジェイドは扉の前に来ると、閉めていた鍵を開けた。


「今日は付き合ってもらってありがとうございました」

「危うく襲われる所だったけどな」


ユーリは"クッキー何枚かもらうぜ"と言って3枚クッキーを手に取った。
そしてジェイドのいる扉の前に歩み寄った。


「あ、それと」

「?」


ユーリは思い出した様にジェイドの方を向くと。


ちゅっ


ジェイドは頬に柔らかい感触がするのと同時に、ユーリの顔が間近にあるのに一瞬遅れて気付いた。


「お茶とクッキーのお礼だ、じゃあな」


そう言って部屋を出て行ったユーリ。
出て行った時に見えたユーリの耳が赤かったのを、見間違えじゃなければいいと思った。


「まったく、やってくれますねユーリ」


ジェイドは柄にも無く心臓が跳ねるのがわかった。

















「ったく、恥ずかしい事させんなっての」


熱を持ち、真っ赤になった顔を冷やす為に船のデッキに向かうユーリ。


「……でも俺の服って、そんなに変か?」


何処までも鈍感なユーリは足速に廊下を歩いて行った。




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