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短品
甘党同盟


色々な事件などが起こる度に仲間が増えていくバンエルティア号のギルド『アドリビトム』。
また仲間が増え、バンエルティア号内は賑わっている。


そんな中、リオンは辺りを警戒しながら食堂に向かっていた。
食堂内を覗き込み、誰もいないのを確認する。


「誰も、いないな」


安心したように中へ入る。


「パニールもいないのか?」


いつもこっそり、誰にも知られないようにパニールにデザートを頼んでいたリオンは、パニールが居ない事がわかると少し残念そうに食堂を出ようとした、その時。


「ん?リオンじゃねぇか」

「!!」


誰も居ないと思っていたキッチンの中からヒョコッと顔を出したのはユーリだった。


「どうしたんだ?メシ食いに来たのか、悪いな、今パニールにキッチン借りてたから」

「そ、そうか、なら僕は失礼する」


パニールにデザートを頼みに来た、とは恥ずかしくて到底言えない。
リオンはそう思い、足速に食堂を去ろうとする。


「待てって」

「は、離せ!!」


いつの間に間合いを詰められたのか、ユーリはリオンの腕を掴まえていた。


「暴れんなって、パニールに用事があったんだろ?お詫びに作ったケーキ食わせてやるよ」

「え」


"ケーキ"、その言葉を聞くとリオンは暴れるのを止め、ユーリを見た。
先程は焦って確認出来なかったが、ユーリはパニールに貸して貰ったのだろうピンクのエプロンを着用していた。


「パニールにキッチン貸してもらったのは俺だし、そんくらいお詫びするぜ」


ユーリはそう言ってウインクをした。
リオンは何故かわからないが、そんなユーリを可愛いと感じ、顔に熱が溜まっていく。


(な!!ぼ、僕は何を考えているんだ!!)


リオンは頭をふり、今考えていた事を振り払った。


「取り合えず座っとけ」


そう言われると、リオンは強制的にカウンターに座らされた。


「今焼き上がった所なんだ、クリーム塗るからちょっと待っててくれ」


そう言うと、ユーリはオーブンからスポンジを出し、テキパキとトッピングしていった。
その様子をリオンは感心する様に見ていた。


(結構子供っぽいとこあんだな)


そんなリオンをチラッとみたユーリは、少し口元を緩めた。
最後にイチゴを載せ、完成した物をテーブルに運ぶ。


「完成っと」


ユーリはケーキをカットして、リオンの皿に載せた。
自分の分も皿に載せると、エプロンを脱ぎ捨て、リオンの隣に座った。


「遠慮なく食えよ」

「あ、あぁ…」


そう言われ、リオンはケーキを一口食べた。
リオンは少し驚いたように目を見開いた。
口に広がる甘さに、口元が緩む。


「うまいならうまいって言ってくれてもいいんだぜ?」


そうユーリに言われ、ハッとしたようにポーカーフェイスに戻るリオン。


「ぼ、僕は別に……」

「甘い物、好きなんだろ?」

「!!」


ユーリにそう指摘され、リオンは驚いた。


「いっつも隠れてパニールにデザート頼んでるだろ」

「な、なな……!!///」


"何故それを!!"と言いたいが言葉にならない。
恥ずかしさに顔が赤くなる。


「別にいいんじゃねぇか?甘い物好きでも」


そう言うと、ユーリはまた一口ケーキを食べた。


「俺も甘い物好きだし、だからこうやって自分で作ってる訳なんだけどな」


そう言ってユーリはニッと笑った。


「甘い物が好きってのは恥ずかしい事じゃねぇよ」


"ほら食え"、とユーリはリオンのお皿に、もうひとつケーキを載せた。


「あ、ありがとぅ……///」


それが今のリオンの、精一杯の言葉だった。


(甘い物好きは…恥ずかしい事じゃない……か)


そう言われ、リオンは何処か暖かい気持ちになった。


(まぁ、リオンは気にするなって言っても無理だろうがな)


それでも、少しは気兼ね無く食べて欲しいから、ユーリは今日、わざとキッチンを借りたのだ。
今日、リオンがデザートを食べに来るとわかっていて待っていたのだ。
リオンはそんな事、知るよしもないだろうが。


「これからはデザート食べたくなったら俺に言えばいい、いつでも作ってやっから」


そう言ってリオンの頭を撫でると、"子供扱いするな!!"、と怒られてしまった。
それが照れ隠しだと解るから、ユーリは笑顔で"悪かったよ"と言った。


「次は何を食いたいんだ?リクエスト受け付けるぞ?」


そう言うとリオンのケーキを食べる手が止まる。


「……ン」

「?」

「……プリン」


そう恥ずかしそうに言うリオンに、ユーリは。


「普通のプリンでいいのか?バケツプリンも出来るぞ?」


そう言うと、リオンはバッとユーリの方を向いた。


「……バケツで」

「了解」


ユーリは、少しは素直になれたんじゃないかと感じた。


(ユーリになら、嫌じゃない……)


リオン自身もそう感じた、と共に。


(ユーリに、もっと素直になれたら……)


とも感じるようになった。



かくして、ここに甘党同盟が結ばれた。
食堂からは連日、甘い匂いが漂うこととなる。

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あきゅろす。
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