記念品(小説)
9000HIT記念
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シュヴァ子ユリ
現代パロ
「ユーリ……。ユーリ、起きなさい」
「ん……?」
「朝だぞユーリ」
「シュヴァ〜……」
ユーリはボーっとする目を擦り、両手をあげる。
これは起き上がらせて抱きしめてと言うユーリのサインだった。
長くユーリと一緒にいるシュヴァーンは、何も言わなくてもユーリがどうして欲しいかわかる様になっていた。
シュヴァーンは笑顔を向けてその両手をしっかり握ると、優しくユーリを抱き上げた。
「ん〜、シュヴァのにおい……」
そう言って肩に顔を埋めるユーリ。
シュヴァーンはその様子に笑顔になる。
「ユーリ、顔を洗って来なさい。朝ごはんだぞ?」
「ぉ〜…」
シュヴァーンはユーリを床に降ろすと、おぼつかない足で歩き出すユーリを支えながら洗面所まで一緒に歩いて行った。
「ほら、口元にケチャップ付いてるぞ〜」
「ん?」
朝ごはんはオムライス。
駆け込むようにほうばっていたユーリだが、シュヴァーンの言葉に顔を上げた。
その顔には口元いっぱいに付いたケチャップ。
そんなユーリは、わからないと言うように首を傾げた。
シュヴァーンは苦笑しつつも、首を傾げるユーリの可愛さは破壊的だった。
「ほら、口元拭いてあげるから」
「むぐっ、う〜」
ティッシュで口元を拭ってやればユーリの顔はいつも通りの綺麗な顔。
シュヴァーンはついつい頬が緩んでしまう。
「食べたら食器を一緒に運ぼうな」
「ぅん!!」
シュヴァーンはユーリが食べ終わったお皿を持ち、ユーリには先程まで牛乳が入っていたコップを持たせた。
「落とさないように気をつけるんだぞ?」
「わかってぅ」
トコトコと後ろをついて来るユーリにまた笑顔になるシュヴァーン。
ユーリからコップを受けとって洗い物をすませるシュヴァーンは時計を確認すると、スーツの上着を羽織り、カバンを手に取った。
「じゃあ仕事に行ってくるから。ユーリ、お留守番頼むな?」
「大丈夫!!いってらっさい!!」
「行ってきます」
元気に見送ってくれるユーリに優しく微笑み、玄関から出て行くシュヴァーン。
最後に見えたのはユーリの可愛い笑顔。
それを見るだけで一日が頑張れる。
シュヴァーンはいい気分のまま、マンションの地下に下りて自分の愛車の前に立つ、が。
「あ、カギを忘れたな」
車のカギを忘れた様で、何処を探しても見付からない。
仕方ないのでシュヴァーンは元来た道を歩き出し、自宅へ向かった。
(ユーリは何をしてるかな……)
ふと、そんな事を思ったシュヴァーンは玄関のドアをそっと開け、ユーリに気付かれない様に家に入った。
(えらく静かだな……)
てっきり何かしらのゲームで遊んでいると思っていたシュヴァーンは静かすぎる室内に疑問を抱いた。
そしてリビングに足を踏み入れた時だった。
「グスッ…ぅっ…」
聞こえて来たのは泣き声。
声を押し殺しているのかくぐもっている。
(ユーリ?泣いてるのか?)
泣き声はソファーからだった。
背もたれがこちらを向いているのでどのように泣いているのかわからない。
シュヴァーンは静かにソファーの前に回り込んだ。
そこにはやっぱりユーリがいて、ソファーに置いてあったクッションを抱いて泣いていた。
ユーリは顔をクッションに埋めているので、シュヴァーンの存在に気付いていないようだった。
「ユー…」
ユーリ、と声をかけようとした時だった。
「シュ、ヴァ……グスッ、はゃ…帰って、きて……ぅっ、グスッ」
シュヴァーンは目を見開いた。
さっきまで笑顔で自分を見送ってくれていたユーリが、今は自分がいなくて寂しがっている。
(まさか、いつも俺が出て行った後……)
もしそうだとすればユーリは毎日シュヴァーンが出て行った後はこうして涙を流していた事になる。
(俺を困らせたくないから、心配させない様に笑顔で見送ってくれてたのか……)
人一倍、他人に心配をかける事を嫌うユーリ。
自分が寂しいと言えばシュヴァーンが仕事に行けないとわかっているから、不安な自分を押し込めて笑顔でシュヴァーンを見送っていたのだろう。
そう思うとシュヴァーンは胸がチクリと痛んだ。
毎日こうしてユーリを傷付けていたのかと思うと、シュヴァーンはいたたまれない気持ちになった。
シュヴァーンはそっとカバンを置き、ユーリを抱きしめた。
「!!」
フワッと抱きしめられた感覚がして、ユーリはバッと顔を上げた。
すると目の前には側にいて欲しかった人物がいて、ユーリは驚きに目を見開いた。
「シュヴァ…」
「ユーリ」
シュヴァーンがよりいっそう強く抱きしめると、ユーリの手からクッションがこぼれ落ち、その手はシュヴァーンの首を掴み、ユーリはシュヴァーンの肩に顔を埋めた。
「ごめんな、寂しい思いさせて」
「シュヴァ、仕事……」
「今日はお休みだ」
シュヴァーンはユーリを腕の中から離すと、ユーリの瞳に溜まっていた涙を指で拭った。
「だから今日はずっと一緒にいるからな」
そうシュヴァーンが言うと、ユーリはとびきりの笑顔でシュヴァーンに飛び付いた。
「で、それからラピードを飼い始めたのよね。ユーリが寂しくないように」
「うっせ、そんな昔の事忘れたっての」
自宅のテーブルでコーヒーを飲むシュヴァーン。
隣にはココアをずずっと飲んでいるユーリに、向かいには同じくココアを手に取るエステル。
「小さい頃のユーリ、かわいいです!!ラピードを飼ったいきさつは寂しかったからなんですね!!」
「だから違うって!!」
「あらあら〜?ユーリ君顔真っ赤よ?」
エステルの言葉に激しく否定するユーリ。
そんなユーリを髪を下ろしているシュヴァーンは下から覗き込むようにしながらそう言った。
「ばっ!!ちげえって言ってるだろ!?」
「あだっ!!」
恥ずかしさを隠す為か、シュヴァーンの頭を殴ったユーリ。
照れ隠しだとわかっているから、シュヴァーンはニヤニヤしながらまたユーリを見た。
「うわ、おっさんニヤニヤとキモいぞ」
「なによ〜。昔みたいに"シュヴァ寂しかった"って言ってみてよ」
「調子に乗るなよ」
「いだっ!!」
小さかった時のユーリを思い出しながらふざける様に言ったシュヴァーンに、当然のごとくユーリの拳が降ってくる。
「ふふ、あまりシュヴァーンをいじめないでくださいねユーリ。あ、そろそろ大学に行かないと……」
「もうそんな時間か?悪かったな、おっさんの長い話に付き合わせて」
「いえ、私がラピードをどうして飼ったのか聞きたかっただけですから」
時計を見て焦り出したエステルにユーリは立ち上がってエステルの荷物を持って玄関に向かった。
「嬢ちゃんまたおいでね〜」
「ええ、シュヴァーンもお体には気をつけてくださいね。ラピードも、また来ますね」
机に突っ伏したまま手を振るシュヴァーンにあいさつをし、室内にある犬カゴで昼寝をしていたラピードにもあいさつをして行く。
一方、ラピードはそんなエステルに尻尾を振るだけで顔を上げてはくれなかった。
それはいつもの事なので、エステルはいつかラピードに懐いてもらえる様にと今日もまた決意をし、ユーリの待つ玄関に行って靴を履いた。
「またラピード、尻尾だけだったろ」
「いいんです、いつか撫でさせてもらえるようがんばります」
そう言って笑ったエステルに、ユーリも笑ってエステルに荷物を渡した。
「ありがとうございます。次はリタも連れてきます」
「プリン作って待っとくって言っといてくれ」
「リタもきっと喜びます、では行ってきますね」
「おぅ、またな」
手を振り部屋を出ていくエステル。
そんなエステルを見送ったユーリは扉を閉めてシュヴァーンのいるリビングに戻って来た。
「嬢ちゃん帰った?」
「ああ、次はリタ連れてくるって」
「リタっちか〜、またおっさんイジメられちゃうわ」
「リタにちょっかい出すからだろ」
オロオロと泣き真似をするシュヴァーンを無視してココアを飲み干したユーリは三人分のコップを持って台所に向かった。
「おっさんまだ飲み終ってないんだけど」
「仕事に行く時間だろ?早く支度しろって」
「ぶー………はい行きます、今行きます」
行きたくなくてブーイングをしたシュヴァーンだったが、ユーリの絶対零度の視線に直ぐに行動しだすシュヴァーン。
上着を着てカバンを持ったシュヴァーンは、洗い物をしているユーリの後ろに回り込み、後ろから抱きしめた。
「うわっ!!おっさん離し……」
「行ってくる、帰って来るまで待っててくれ」
「っ……ぅん」
突然抱きしめられたユーリは離すように暴れようとしたが、先程までのシュヴァーンとは違う声。
いつも二人きりの時に聞く落ち着く声と言葉に、ユーリの頬は少し赤く染まった。
「じゃあ、行ってくる」
シュヴァーンはユーリを離すと、そのまま玄関に向かって靴を履いた。
そして玄関のドアを開け外に出ようとした時。
「ユーリ?」
服が何かに引っ掛かったような感覚。
後ろを振り向いてみるとユーリがシュヴァーンの服の裾を摘んで立っていた。
「……ら」
「え?」
俯くユーリ。
ボソッと言った言葉は聞こえず、シュヴァーンはしっかりとユーリと向き合って改めて何と行ったか聞いた。
「ユーリ、なんだ?」
シュヴァーンにそう言われユーリが顔を上げると、ユーリの顔は真っ赤になっていた。
そして目を反らしながら、ユーリは口を開いた。
「寂しいから……早く帰ってこいよ……シュヴァ」
最後はシュヴァーンの目を見てはっきりそう言ったユーリは真っ赤な顔で恥ずかしさで泣きそうだった。
そんなユーリが小さかった時のユーリと重なって、シュヴァーンは目を見開いた。
「…シュヴァ?」
最近は恥ずかしくて滅多に言ってくれない名前。
シュヴァーンはユーリを抱きしめた。
ユーリもわかっていたのか、何も言わずに背中に手を回した。
「今日仕事休もうか」
「何言ってんだよ。ちゃんと働いてこいって、待っててやるから」
「ユーリにそう言われちゃ行かない訳にはいかないな」
二人はそっと体を離し、唇を合わせた。
「いってらっしゃい」
「行ってきます」
そんな幸せそうな二人をラピードはそっと眺めていたが、一つ欠伸をするとまた昼寝をはじめた。
その日見た夢は、昔初めて二人に出会った日……
―――――
あとがき
今回9000HITとして書かせていただきましたシュヴァ子ユリでした!!
始めは幼児期で終ろうと思っていたのに書いていて段々気に入ってきて青年期まで書いてしまいました(o^∀^o)
この二人はどんな関係なんでしょうね(殴)
管理人自身わからないままに書いたのでよくわかりませんが……
幼児期は5歳、青年期は21歳と思って書いてました。
しかしながらおっさんの職業はわかりません(o^∀^o)
てかラピード長生きww
ではでは読んでいただきありがとうございましたm(_ _)m
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