私立誠青学園高等部
漸と蒼穹@
「なんだよ漸、いつになくこえー顔してんな」
高校2年の春の終わり頃。
漸は不機嫌だった。
もともと強面で、知らない人が見れば軽く怯える程度なのだが
その顔がさらに眉間にしわを寄せ、瞳孔が開き気味の目で思いきり睨んでくるものだから、これでは子どもが鬼だなんだと泣き出してしまうに違いない。
彼の友達、恭也と千秋はそのものすごい形相には多少は慣れていたが、明らかに今回は違う。
なんだか背後からものすごい殺気が溢れ出ている。気がする。
「小林が逃げたんだとよ」
漸は寮に住んでいるのだが、小林とは彼の同室の男だ。
やけにインテリくさい眼鏡の男で、そのうえ気が弱く、漸には四六時中怯えっぱなしだったそうだ。
彼は漸に隠れて退寮の手続きをさっさと済ませ、
今日の朝、漸が起きたときにはすでにもぬけの殻だったらしい。
「あいつが居なくなろうがどうだっていいけどよ…俺はなんもした覚えはねぇ!わけわかんねぇよ!」
「いや、どうみても原因は顔だな、顔」
「おめーそんなツラ毎日してたら誰だって怖がるって!」
「好きでこんなツラになったわけじゃねえよ…!」
漸の拳が千秋の頭をグリグリと挟む。
「いででででで!!」
痛がる千秋を、恭也がひょいと漸から引きはなす。
「まあ明日から一人部屋だった奴と同室になんだから、ちゃんとやれよ」
「わかってら」
同室者が出ていったのはこれで二度目だ。
一度目はまだよかった。
『お前こえーんだよ!いちいち怯えながら暮らしてられっか!!』
そう言い捨てて出ていった。
腹は立つが、そう言ってくれた方がまだましだ。
今回はあまりにひどい。
別れの言葉ひとつなくいきなり居なくなられたことは、さすがの漸もこたえていた。
ふと廊下へ視線をそらすと、そこを2人の生徒が通っていった。
うち1人は幼なじみの有斗。
もう1人は…
「おっ、有斗ちゃんとソラくんじゃん」
後ろから千秋が茶化すように言う。
「おい千秋!!なに勝手にちゃん付けで呼んでんだよ!!」
「わ〜彼氏が怒った〜!」
後ろで騒ぐ2人をよそに、
漸は有斗の隣で楽しそうに話しているもう1人を、彼らが通り過ぎるまで見つめていた。
青みがかかった艶やかな髪が印象的だった。
ソラ。
彼とは同じクラスだが話したことはあまりない。
挨拶程度なら向こうからしてくるのを返す程度だ。
ソラ。
漢字で書くと蒼穹。
きっと当て字なのだろう。
それもまたどことなく神秘的で、
漸は、いつしか彼を、
回りの人間とは違う視線で見るようになっていった。
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