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水底に灯る火
偽葬

 煙突から白煙が立ち上っている。屋根に翻る旗は、今日ばかりは半分までの高さに留めてある。理由はさっき聞いた。
 葬儀は王家ゆかりの教会で行われ、そのまま墓所に埋葬されるのだと云う。いくら王位継承権のない王族だったといえど、現王の第一子である。そのため若くして他国に嫁いだ妹から、名家の当主になった者、修道院で勤めに励んでいる弟まで、王の子供達が勢ぞろいするのだそうだ。
 深く息を吐くと、窓ガラスが白く曇る。
 この部屋の主が出て行って、随分と時間がたった。戻ってくるのは夜になるだろう。それまで、何をして時間を潰せばいいのだろうかと途方に暮れた。
 部屋の中にあるソファに腰掛けると、すぐにまどろみの世界がやってくる。
 彼の世界は、今のところ、この部屋と隣り合った幾つかの部屋に限られている。
 眠りの世界は窮屈な現実を忘れさせてくれる。確かにある意味で救われた。しかし心の中にぽっかりと穴が開いたような心情だ。
 人は単に保護されるだけでは生きてはいけない。
 そんな単純な生き物じゃない。だから、今の自分は死んでいるのだ、と。そう考えたところで思考を放棄する。
 もう眠りが直ぐ側まで来ていた。
「おう、起きたか。寝ぼすけ」
 どこかフラフラとした視界に、自分を覗き込む見知った顔がある。まだ意識が覚醒しきっていないのか、しばらくボーっと見下ろす顔を眺めていた。
「いくら俺が色男だからって、そんなに見つめないでくれ。ホラ、起きた、起きた」
「あ……」
 シーツが取り払われ、先程まで体を包んでいた暖かさが奪われた。
「その格好で食事をするわけじゃないだろ?顔洗って、着替えてきな」
(ソファで寝ていた筈なのに)
 いつの間にかベットに体が横たえられ、服も寝巻きに変わっている。昼間、着ていたものは椅子に掛けてあった。
 気恥ずかしさを感じながら、服を変え、隣の部屋へと移動する。
「やっと来たか」
 長テーブルには既に先客が座っていた。先程起こした男と、この部屋の主。
 本当はもっと離れた所に座りたかったのだが、既にナプキンや食器が並べられているので、彼らの側に座る。燭台の灯りが先客たちの顔に影を落とし、彼らの彫りの深い顔をより魅惑的なものにしていた。
「まったく、そっちはグースカ寝ていたから腹がへってないんだろうが、こっちはアクセク働いてたんだ」

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あきゅろす。
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