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水底に灯る火
B
 何気ない弟の動きが、こんなに心を柔らかく包んでくれるような気持ちにするなんて、いままで気づくことが無かった。
「どうせグレビス叔父様から話を聞いてるんでしょ。僕は蚊帳の外でさ、一人だけ教えてもらって」
「一応、私は兄だし、年長者だし、聞く義務がある」
「ずるい。それにどうせ、都合の悪い部分は誤魔化すつもりでしょ」
 調子を取り戻してきたデミトリにアウディは旗色が悪くなったのを感じる。だがデミトリの言葉はなぜか小気味良く心に響いてくる。
「血が繋がってないという部分で、抵抗は無いのか?」
「うん、それが全く気にならないんだよね。不思議だなあ」
「私は王族でもないんだが、お前に敬意を払ってない。そこは気にならないのか」
「全然」
 キッパリと言い切ってしまうデミトリにアウディはたまらず破顔した。
「グレビス叔父様から聞いた話で、まあお互いの両親についてからだが……」
 二人の別々のの両親、それぞれの話が重たいと感じていたのにデミトリを前にすると心の石が一つ一つ消えていくようである。
 あっという間に告げてしまった真実を前にデミトリは暫くしかめっ面で考え事に没頭しているようであった。
「要するに兄様も僕も父上の本当の子供じゃないって事? んでもって、僕には王家の血が入っているけど、兄様には全然入ってないという」
「まあ、そういうことだね。だから本当はお前の従者のように振舞わなければいけないんだろうね」
「それは気持ちが悪いから嫌だ」
「気持ちが悪いとは酷い言いざまじゃないか」
「兄様が僕に敬語で接したり、色々世話を焼くなんて考えられないよ。第一、兄様はおっちょこちょいだし、抜けている所もあるし、僕より気が利かないのにさ。僕は自分の安全のために兄様を兄様として扱う方が良いと思う」
「なんだか随分な言われように聞こえるんだが」
 調子が戻ってきたのかデミトリは挑戦的な笑みを返す。
「大体、兄様はお茶だって用意できないでしょ」
「それは……必要がなかったからで、やればできる」
「本当に?」
 挑むような緑色の瞳が見上げてくる。
「大体、茶を炒れることと、これからのことは別だろう」
 一度も試したことも無かったのでばつが悪くなりアウディは話題を変えた。

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