槻木くんは猫離れができない
七
槻木清羅の"好きな人"は人ではなく猫だった。
しかし、とても綺麗な猫だ。
一本一本丁寧に描かれた白いふわふわの毛並みに、深く輝く瑠璃色の瞳が美しい。
「おい秋臣、俺の絵を見に来たんじゃないのか」
訝しげな竜の声で我に返り、自分が槻木君の絵に見惚れていた事に少し赤面した。
「あ、ごっ、ごめん」
槻木君は僕が見ていたことに気づいてないのか、そもそも周囲に興味がないのか。
描き終えた自分の絵を、長い睫毛に縁取られた瞳でじっと見ている。
絵を描くためか、肘まで捲られた学蘭の袖から伸びる白い腕には、無数の引っ掻き傷があった。
彼をこんなに近くで見たのは初めてだ。
そして彼からは、なにやら甘い香りがする。
槻木君本人にも見惚れかけたので僕は慌てて
「先生、頭痛が痛いので保健室行ってきます」
と言って廊下に出た。
「こら秋臣、俺の絵を見ろ!なんだよ頭痛が痛いって」
竜の声を背にして僕は保健室へと走った。
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