槻木くんは猫離れができない
五
落ち着け秋臣。
さっきの噂話が本当かなんてわからないじゃないか。
仮に本当だったとして、槻木君に「猫を触らせてくれ」なんて頼めないだろ。
それに家族を裏切る気か親不孝者め!
自分にそう言い聞かせ、僕は課題の絵を描き進めた。
美術は週に2コマあり、先週から"好きな人"というテーマでみんな絵を描き続けている。
先週、突如出された"好きな人"という気恥ずかしいテーマに、気まずい空気が流れた。
案の定、思春期の男女たちの動きは鈍る。
それを見た美術の先生が慌てて
「家族でも、好きな芸能人や歌手の写真を模写してもいいですよ」
と付けくわえると皆ほっとして、わいわいと同性の友達や家族や好きなアイドルなどを順調に描き進めていった。
本当は"槻木清羅"の絵を描きたかった生徒もいることであろう。
とりあえず安堵した僕はあることに気がついた。
槻木君はテーマを出された瞬間から、一人だけ黙々と絵を描いていたのである。
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