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槻木くんは猫離れができない
五ノ一


僕は今、授業中の静かな校内を歩いている。
体調不良により保健室へ行くことを命じられたのだ。

が、僕の足は体育館に向かっていた。

今週二度目の仮病に罪悪感を覚えながらも、足取りは加速してゆく。



授業が始まって10分が経過。
槻木君は戻ってこなかった。
僕は5分経過時には既にいてもたってもいられなかった。

僕はただ、安心したかった。
彼の姿を確認して、自分の行きすぎた妄想を消し去りたい。

また、仮病を使って教室を出ようか…
いやでも…

僕のほかにも彼のことが気になっている人は少なからずいるだろう。
今出て行ったら、きっと変な眼で見られる。


「先生」

突然、雨宮さんが、手を挙げて先生を呼んだ。

「どうした、雨宮」

「桜沢君、とても具合が悪そうなんですけど…」

突然、自分の名前を出されてびくっとした。
僕は抱え込んでいた頭をあげる。

雨宮さんは、いかにも"心配"という顔で先生を見つめている。

「ん?桜沢が?」

蓮田先生が僕の方を見た。

「え、と、あの」

急な展開とクラス中の視線に言葉が詰まる。

「確かに顔色悪いな。大丈夫か?」

蓮田先生が心配そうに言った。

顔色が悪い…?
もしかすると僕は仮病に特化した体質なのかもしれない。

「大丈夫じゃない…かもです…」

「じゃあ保健室だ」

「へ?」

思わず「いいんですか」と言いそうになった。

「とりあえず保健室行け。倒れられたら困る。俺の立場的に」

なんということだ。
これなら先生に命じられたという形で教室を出られる。
誰にも怪しまれずに。

胸が高鳴った。

僕は感謝の意をアイコンタクトで伝えようと、雨宮さんの方を見た。

彼女は下を向いて額に手を当て、体を震わせていた。
一瞬泣いているように見えたが僕はすぐ悟った。

笑っているのだ。

槻木君のことで頭がいっぱいになり、なんとか教室を抜け出せないか目論み、廻ってきたチャンスに歓喜する。

これら全てが彼女に筒抜けだったのであろう。

うん、実に滑稽だ!

「一人で行けるか?なんなら、雨宮が連れてってや…れ?」

先生が俯く雨宮さんを見て訝しげな顔をした。

「あ、いやや、一人で行けるんで…」

慌ててそう言いうと、僕はよろよろと教室を出た。




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あきゅろす。
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