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槻木くんは猫離れができない
四ノ八


「桜沢君を見ていると、育成ゲームをしてるみたい」

雨宮さんが楽しそうに両手を合わせた。

「育成ゲーム?」

「一日でこんなに成長するなんて」

雨宮さんはクスクス笑ってそう言った。

「でも、槻木清羅の気を引くには、彼と同等かそれ以上のレベルに達しなきゃね。私も出来る限り、お手伝いするわ」

桜沢秋臣≧槻木清羅

そんな無謀な不等号が頭に浮かび、僕は溜息をついた。

そういえば雨宮さんに、なぜ僕が槻木君に近づきたいのか説明していない。
説明していないのに、こんなに協力してくれるなんて。

ここは、はっきりと目的を提示すべきだ。

「雨宮さん、僕は無類の猫好きでして…」

そこまで言って、僕は気がついた。
教室には、もうほとんど人が戻ってきていてがやがやしている。

しかし、槻木君がまだ戻ってきていない。

僕が更衣室を出る時には、彼も既に制服に着替えていた。
とっくに戻ってきていても、いいはずなのに。

「あら、桜沢君の意識が彼に移っちゃった。残念」

雨宮さんは笑いながら授業の準備を始める。

「槻木君、まだ戻って来てない…」

「ふふ、彼のこと、一々気にするのね。トイレにでも行ってるんじゃないかしら?」

僕は我に返った。

嗚呼、彼女の言う通りだ。

そうだよ。
ちょっと姿が見えないだけじゃないか。

僕は、自分の感情が煩わしくなった。

でも、

"校長室に出入りしている"

竜との会話が脳内で再生される。

自分自身が煩わしいとは思いつつ、僕の心はまだ、もやもやしていた。


3時限目の始まりを告げる鐘が鳴る。

蓮田先生が教室に入ってきて、みんな各々の席に着く。

それでも槻木君は戻ってこなかった。




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