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槻木くんは猫離れができない
四ノ六


「竜の方こそ、美人って誰のことだよ」

僕は火照った頬を、体育館のひんやりした壁にくっつけながら言った。

「俺が言ってたのは、あっち」

竜が顎で示したのは男子の方だった。

僕たちがもたれ掛っている壁とは反対側の壁。
その隅に一人で座っている人物。

槻木清羅だ。

「…っ、槻木君か?」

それはそれで、僕は動揺した。

「あいつの美しさときたら、ジャージを着ても揺るぎない」

「う、うん。というか、男に美人はないだろ」

「知らないのか?美人ってのは元々、男に対して使うんだぞ」

へぇ、知らなかった。
だが竜が槻木君の話題を出すのはめずらしい。

「どうして突然槻木君のこと…?」

「昨日、部活で槻木が"校長の隠し子"って噂を聞いたんだけど」

「ああ、有名な噂の一つか」

「あ、そうなの?でもありえないよな。校長とは似ても似つかねーだろ」

竜はケラケラ笑った。

春陽高校の校長先生は、50代くらいの、生え際が少し不安定な…
まあ、どこにでもいるようなおじさんだ。
槻木君と共通の遺伝子を持っているとは到底思えない。

「確かに。なんでそんな噂が広まったんだろう?」

「ああ、なんか槻木が校長室に出入りしているのを目撃した奴がいるらしいぞ」

「槻木君が校長室に…?」

何か、不穏なことが頭をよぎった気がした。
普通の生徒は、ほとんど校長室に行く機会などない。
素行が悪いとか、何かで表彰されたりしない限り。
そんな場所に、よりによって槻木清羅が出入りしている。
確かに彼は成績優秀だけど…

いや、あくまで噂だ。
あまり変なことは考えないようにしよう。

僕はもう一度、槻木君を見た。

槻木君は何故かいつも体育を見学している。
いや、正確に言えば、"見学"ではない。
彼は、まったく体育の授業内容など見ていない。
どこを見るでもなく、静かに座っているだけだ。
教室でもそうだが、動いていない彼は人形みたいに見える。

「槻木君…体育、いつも見学してるよな」

「女子の噂によると、体が弱いらしい。だから先生も毎回見学させているんだろ」

確かに彼は肌が白く、痩せている。
まるで、塔に幽閉されていたお姫様の様だ。
小さい頃、ずっと入院していた、とかなのだろうか?

「ま、噂話なんてあてにならねーしな。少なくとも校長の息子じゃないことは確かだ」

考え込む僕を見て、竜はそう言いながら立ち上がった。

「ほら次、俺達が試合だぞ。出れそうか?」

僕が頷くと、竜は僕の手を掴み、ひっぱり上げた。



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あきゅろす。
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