槻木くんは猫離れができない
三ノ八
時刻は午後7時を回っていた。
「今日はありがとうございました。そろそろ失礼します」
「またいつでもおいで」
僕が店を出ようと引き戸に手を掛けた時、僕と2を見送っていた数字屋が思い出したように言った。
「あ、ところで僕。ここに入る時、竹に何かされなかったかな?」
「へ、竹?」
「店の周りに生えている竹だよ。最近お客さんに悪戯を働くようで困っていてね…」
竹が悪戯?
あ、そういえば店に入る時、誰かに背中をめくられたような気がしたけど。
あれが竹の仕業だって言うのか…
青ざめた僕見て、数字屋は「やはりか」と言う顔をした。
「いや、不埒な輩から店を守る優秀な門番達なんだがね。最近手癖が悪くなったようで…。私がタケノコから手塩にかけて育てあげたと言うのに…」
数字屋は、ふうっ、と悩ましげな溜息を一つついた。
これ以上の超常現象は身体に毒だと思い、数字屋に一礼し、そそくさと店を出た。
竹林の間をびくびくしながら通ったが、竹はなにもしてこなかった。
と、思ったら商店街への路地へ入ろうとした瞬間、また背中を豪快にめくられた。
「ひゃあっ」
と情けない声を出してしまい、恥ずかしさと恐怖でそこから竹取商店街を出るまで全速力で走った。
家に着いたら早く寝よう。
なんだか疲れた。
こんな時こそ猫に癒されたい。
ああ槻木君は今も猫に囲まれているんだろうな。
僕は溜息をつき、竹取町駅に着いた電車に乗り込んだのだった。
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