槻木くんは猫離れができない
一
授業中、黒板に書かれた数学の難問。
それを黙々と解いている槻木君の右腕の傷に、僕は見惚れていた。
別に僕は、傷痕や血に興奮するなどという性癖を持っている訳ではない。
はたまた同性の彼に恋情を抱いている訳でも勿論ない。
槻木 清羅(つきのき せいら)。
彼は何かと噂の的になる。
誕生日はいつで
血液型は何型で
出身中学はどこらしい
などの基本的な彼のデータから
実は校長の隠し子
実は女
実は吸血鬼
などという浮き世離れしたものまである。
どうやらこの学校には、彼と同じ中学出身の者は一人も居ないらしい。
そのうえ、彼があまりに寡黙で周りに無関心なため、これらの情報は全て妄想の産物にすぎなかった。
そんなミステリアスな雰囲気がより女子の妄想を掻き立てるらしい。
女子トイレの前を通過するとき十中八九、彼の名前が聞こえてくる程だ。
男子達はあえて彼を意識しないように努めているようだが、意識しないように意識して結局意識しているというややこしい事に。
そんな槻木君が廊下を歩くとどうなるか。
男子はソワソワして何処か余所余所しい態度になり、女子は前髪を指先でちょいちょい弄りだす。
まあ、ミステリアスと言うだけで、これほど人気が高いわけではない。
一番の理由は槻木清羅が、
"絶世の美麗男子"
だからである。
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