短編小説 ほっとレモン 季節は既に冬に近づく11月だ。毎日毎日日が落ちる時間が短くなっていく。 風が冷たいのは当たり前のようになってきたある日。夜、バイト帰りに俺は彼女の部屋を訪れた。 「久しぶり、っても一週間前にあったばかりか」 「一週間もだよ。はい、お待たせいたしました」 彼女は手に持っていたマグカップを俺に渡す。ほんのりと香るレモンの匂い。 俺の愛飲して止まない、彼女が淹れてくれた「ほっとレモン」だ。 「いつもいつもすまないね」 ズズッと音を立ててほっとレモンを一口飲んだ。飲んだ瞬間甘酸っぱい味が口の中に広がる。 「あぁ、やっぱりほっとレモン最高だな」 「物好きよね。いくらレモン好きだからって」 「何、君が淹れてくれるからさ」 「ただのインスタントよ?ただ粉末にお湯足しただけなのに」 「ちっちっちっ、それが違うんだな。例えどんなに三ツ星級で美味いほっとレモンが出てこようと、君の淹れたほっとレモンには軽く及ばないよ」 「インスタントが三ツ星級ほっとレモンに勝るなんて…呆れた」 「だから何度も言ってるだろ?」 君が淹れてくれるから例えインスタントでも素敵な味になるんだと… 「あら、ずいぶん嬉しいこと言ってくれるのね」 「あぁ毎日飲めたらなぁって思うくらい俺はこのほっとレモンを気に入ってるからね。そのおかげで毎年風邪を引かなくてすむ」 「じゃあ、毎日飲めるようにあの話、そろそろ実行に移さない?」 「そうだな、明日辺りにでも行こうか」 二人はそれから飽きることなく今後の将来について語り合った。ほっとレモンを飲みながら… あとがき ほっとレモンを久しぶりに飲んでいて思い付いたネタです。二人は恋人通しで毎年彼女は彼のためにほっとレモンを淹れてくれます。なんともほんわかなカップルのお話。その後の彼らはどうなったかはまだ検討中なので、いつか書いてみたいです。 [次へ] [戻る] |