短編集
5
あの頃より大人っぽくなったけど、雰囲気や顔の造形は何も変わってない旭。
俺の好きだったアイツがそこにいる。
「元気にしてたか?」
大丈夫だと自分に言い聞かせて笑う。
もう過去のことだと。
「しかしなんだお前、病院になんでいんだよ。もしかして看護婦さん目当て…」
「…………」
「それとも何か、気持ち悪いことした俺に会いに「ちげぇよ!!」っ!」
いきなり怒鳴られて竦んでしまった俺にアイツは近付き、否応なしに抱き締められた。
「!何す…」
「俺は、あれからお前が忘れなれなかった。最後に見た脆い表情が目に焼き付けられたんだ!」
「………」
「ホモは気持ち悪いと思ったけど、お前にキスされたのは全然嫌じゃなくて、しかも泣かせちゃって……だから明日きちんと話そう、そう思ったんだ」
(嘘、だ)
「なのに翌日学校行けばお前いなくて、留学したって聞いて、俺すごい後悔した。なんで軽はずみにあんなこと言ったんだろうって……それ以来彼女とも別れたしずっとお前が気になってた。そしたら最近お前の姿見たってもと同級生のやつが教えてくれて……」
ぎゅうぅっとどこにも行かせないようにと力強く抱き締められる。
「お前に会いたいって、会ってちゃんと話そうと思って………俺馬鹿だからまたお前を傷つけたりするかもしれないけどまた俺のそばにいてくれないか?ーーってかもう嫌だ、お前ばかり気になって!責任とれよ馬鹿!」
「ふっ……」
後半の台詞はなんだよ馬鹿旭。
「ふふっ……」
これは夢だろうか?
都合の良い言葉ばかり聞こえる。
「……旭ぃ…」
目から熱いものが零れ落ちる。
欲しかった体温がすぐ傍にあった。
「馬鹿、馬鹿旭!」
「うん…ごめんな、俺馬鹿で…」
よしよしと抱き締められた状態で頭を撫でられた。
『啓、泣くな!病気なんて早くやっつけて俺と遊ぼう!』
昔と変わらないほっと安心出来る手。
自分には相応しくないと思ってた。
自分たちは男同士だから尚更結ばれないと思ってた。
でもアメリカに行く前に旭に会いに行って、その時は彼女もいてつらかったけど、あれがきっかけで俺は大切な人を手に入れたんだーーー。
「本当に俺なんかでいいのか?旭だったらもっと可愛い子とか……」
「関係ないね。それに言ったじゃん、俺はここ数年お前に片思いしてたって……。これでイイエなんて言われたら俺マジで立ち直れなくなるぞ」
唇を尖らせて頬をすりすりしてくる旭は子供っぽくて笑ってしまう。
イイエなんて言うわけない。
「俺も……旭が好きだよ…」
「うん、俺すっごい嬉しい!」
何回でも君と恋をしよう。
〈fin〉
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