短編集
4
――そして数年後、俺は病院の内庭にいた。
(やっぱりいた…)
目の前でうなだれる小さい背中にそっと手を重ねた。
「ーっ先生!」
バッと此方に振り向いた顔が驚きでいっぱいになる。
「こら聡(さとし)、お前勝手に病室抜け出しただろ!看護婦さんがすっげー心配してたぞ」
俺は聡の前に膝立ちなる。
目の前の顔は暗い。
「だって……俺…」
「……看護婦さんの話し聞いたのか」
「……!」
俺が探しに行く前に言われた言葉。
『すみません!もしかしたら聡君、私たちの話しをーー』
「確かにお前の病気は難しいし、退院しても一生つきまとうかもしれない…」
「!!」
じわりと聡の目が潤む。
けどな………
「それでもまだ生きてるんだよ」
「っ?」
「言っとくけどなー、俺だって小さい頃はお前より体弱くて大病患ってたんだぞ」
「え…?」
キョトンとする聡。ま、これはあんまり人には言ってないからな。
「でも俺は奇跡的に生きて、今は先生の立場だ」
苦笑し、手を伸ばして、目の前の不安に埋もれそうな身体を抱きしめてやる。
「?!!」
ビクッとする身体を強く抱き締める。
かつてアイツがしてくれたように……。
「何回病気が悪くなっても、何回でも俺がお前を助けてやる。だから自分の病気を呪ったり、今ある命を捨てようとすんなよ」
「っ!………ひっ、ふ、…くうぅっ……」
肩がじんわりと暖かい雫で濡れたのに気付いたけど俺は何もしなかった。
「それじゃあちゃんと看護婦さんに抜け出したこと謝るんだぞ!」
「ぅん……先生は?」
「俺も後から行くよ。だから寂しがるなよ?」
「!ば、ばーか!寂しがるかよ!!」
そう言って耳まで赤くし全力疾走するアイツを見ると微笑ましくなる。
くうーと背伸びをし、空を見上げる。
さ、俺も戻るかな。
「啓?」
懐かしい、声がした。
「……旭」
振り向けば大好きだった人がいた。
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