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* 散歩 * <アラウディ> 6




今日は、珍しく少し酔いが回って来たな…

酒には強い方だが今日は何時も以上に飲み過ぎている気がする。

心地良く、気分よく酒を飲めるので…
つい口に運んでしまう。



チラリと雲雀恭弥を見ると
…どうやら彼も同じような感じだ。

僕と同じく、かなり酒には強そうだが
…流石に、この量は多過ぎたのだろう。





酒も料理も美味しかったので、気が付いたら
…かなりの量を飲んでしまった、という感じだ。

少し火照った身体に庭の方から吹いて来る風が心地良い。



着流しというのは…
こんな時にも涼しくて、なかなか良いな…なんて事を思いつつ
無言でスッ立ち上がって
庭に面した木造の廊下部分まで歩いて行く。







ふと、下を見ると…恐らく彼の妻が用意をしてくれたのだろう
…外履き用の“木で出来た靴らしき物”が二組置いてある。

気紛れに、それを履いてみたくなり
縁側に一度座って、それを手に取って眺めて見る。




…と、そこへ雲雀恭弥が来て
隣に座りその靴を履いて見せる。



「これは…下駄という日本の履物だよ。…こうやって、足の間に挟んで履くんだ。」



見よう見真似で、僕もゲタという物を履いて見る。

少々足の間に違和感を感じるが
…何とも面白い履物だ。











少し歩き慣れた所で…
満月に近い明るい月光の下をぶらぶらと歩いて回り
庭の一角に置かれていた、竹製の長椅子を見つけて座った。


庭内には、そこそこの大きさの池があり
その水面には月の光が反射していて
まるで、何処かで見た東洋の画のようだな、と思う。

時々爽やかに吹く風が…
周囲の木々を揺らす音が、静かに穏やかに響く。



明るい月光の下でのこんな風景は
何とも風情があって良いものだ。


僕は…こんな月夜が好きだ。










そのまま…ぼんやりと夜半の月を見上げていたら
何時の間にか雲雀恭弥も…
僕の傍に来ていて、黙って一緒に月を見上げている。



…ふと…

普段の僕ならば尋ねないような事を尋ねたくなり…


視線は月を眺めたまま…
顔も向けずに、雲雀恭弥に話し掛ける。




「…ねぇ、君は幸せかい?」



「突然、なに…?」



「良いから、答えて。」



「幸せに決まっている。…見て判らない?」







「並盛は、住み易そうで…綺麗で良い街だね。」



「…僕の街だからね。当然だよ。」



「この街は…君の、その安定した心を反映しているように感じたよ。」



「……っ……。」









「…さて、そろそろ帰るよ。」



「…貴方、何をしに来たの。」




「“僕らの世界”にずっといるのは退屈なんだ。だから偶には…散歩のひとつもしたくなっただけさ。」



「そう。…だったら、また来なよ。酒なら、何時でも用意しているから遠慮はいらないよ。」



「そうだな。また…アップルパイと酒の為に来るのも悪くないかな。」







「君の奥方に…『美味しいアップルパイと食事だった』…と、僕がお礼を言っていたと伝えてくれるかい?」



「…解かった。」



「…それじゃあね。」






…そして…

僕は“長い散歩”を終えて…元の世界に戻った。







+++++++

+++









「ん?アラウディじゃないか。…そんな恰好で、何処に行っていたんだ?」



戻ると直ぐに…
ジョットが僕を見つけて話し掛けて来た。





そして、言われて気が付いた。

…しまった。

僕とした事が…
着流しとゲタのまま、こちらの世界に戻って来てしまった。

やはり、少し酔っているのだろうか。
だが…
いちいち説明をするのは面倒だ。




「…別に…只の散歩だよ。」



「…そうか。何があったか知らないが…余程楽しい散歩だったのだな。」



(…!…)






「お前にしては珍しく…顔に出ているぞ。」



「…………。」




ニコニコと己の事のように
嬉しそうに言う男の顔を見て、小さく溜息を吐く。

全く…
ジョットは勘が良過ぎて、こんな時に誤魔化せなくて困る。


まぁ、他の連中のように
『何処に行って、何があったのか』と…
しつこく根掘り葉掘り聞いて来ないだけ…彼はマシだが。





「…美味しいアップルパイを食べて来たんだ。」



「アップルパイ?」



「そう。」



「そうか。…それは、良かったな!」







それ以上は何も聞かずに
にこにこしているジョットをその場に残し…自分の部屋に向かう。


今日は…このまま心地良い余韻を残しまま眠りに着きたい。


そう思って…自室のドアを開けると
真っ直ぐにベッドに向かった。









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