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* 散歩 * <アラウディ> 5




雲雀恭弥を待っている間に…
彼の妻と子供達が僕と雲雀恭弥の二人分の夕飯の“お膳”と言われる物と
日本の酒と…その酒を飲む為の器のセットを運んで来た。



目の前に用意された“お膳”を見て
…この国の食文化はとても豊かで美しい文化だなと感心する。

まるでひとつの芸術品のように美しく盛られた様々な品は
どれも本当に美味しそうだ。

品数も多くて、調理方法も味付けも様々あり
バラエティーに富んでいるので飽きが来る事もないだろう。


この国の人々の…食文化に対する情熱や研究心や
そして細部までこだわる丁寧さに感心する。






しばらく…お膳を眺めていたのだが
ふと…先程の“着付けの方法を書いた紙”の事を思い出したので


「“着流し”を上手く着る為の、解説の紙のお陰で上手く出来たよ。」



そう声を掛けてみると…
雲雀恭弥の妻はとても嬉しそうな笑顔で答える。




「ネットで探してプリントアウトしたのですが…お役に立って良かったです。」
「それにしても…お上手に着ておられますね。」



「さっき…雲雀恭弥にも褒められたよ。」



「そうでしたか。…とても良くお似合いです。」






にっこりと柔らかく微笑む彼の妻を見て…
彼が大きく変化した原因の第一は…恐らく彼女なのだろう、と思う。

先程、妻と二人で会話している所など
…少し大袈裟に言えば“まるで別人のオーラ”だった。

単純に年齢を重ねたから…という理由だけで
あそこまで変化する筈はない。



“傍にどんな人がいるか”
で…人は大きく変わる事がある物だ。

そう、それは…僕にも覚えがある事なので良く解る。






母親の指示で、子供達も一緒に手伝い、お膳と持って来た物をセッティングしていたが
それが終わっても去らずに…3人揃ってじっと僕を見る。

僕が、着流しを着ているのが珍しいのだろうか。



一番小さい女の子が…

「着物が、とっても似合っていて恰好良いです♪」


にこにこしながら、母親と同じ事を言う。
この女の子は…顔も性格も母親似のようだな。



「…有難う。」






そう答えると…
今度は、三人の中で一番大きい子…恐らくは長男だろう…
が話し掛けて来た。


「…あの…。…貴方は、父さんの仕事の知り合いの方ですか?」


ふぅん…どうやら、二人の男の子の関心事は
『僕が着流しを着ている事』よりも『僕が何者なのか』という所にあるらしい。



「いや…違うよ。」



「…違うんですか?」



“じゃあ、一体どんな知り合いなんだ?”
と疑問顔だが…
説明すると長くなりそうだし面倒なので、黙ったまま。







…と、今度は…僕と雲雀恭弥に似ていると言われてた
拓弥という子が話掛けて来た。


「…貴方は…強いの?」



(…!…)



流石、彼の息子だ。

この子の一番の関心事は
“僕が強いかどうか”という事らしい。




「…さぁね。」


軽く微笑をしつつ、意味ありげに答えてあげると
…その子の瞳の奥で何かが光った。

昔の雲雀恭弥はもう居ないと思っていたのに
…こんな所に居たか。

彼の息子に…しっかりと受け継がれているじゃないか。




「…………。」




瞳に強い光を宿し、僕の事を
睨み付けるように見て来る子供の視線に
…ワザと挑発的な視線を送ってやる。


ごく僅かに殺気を漂わせた事に気が付いた
男の子二人の瞳が、少し緊張を帯びた真剣な物に早変わりする。

ここまで小さく抑えた殺気に気が付くなんて
…なかなか、将来有望そうな子供達じゃないか。







…成程ね…。
彼を変えた第二の大きな要因は恐らくは子供達なのだろう。

一番上の子は…
雲雀恭弥と母親との血を、程良くブレンドされた感じがする子だ。
敢えてボンゴレの波動で説明すると「雲+大空」という風に見える。



そして二番目の子は…
まるで雲雀恭弥の生き写しの「雲」そのものだ。



一番下の女の子は
母親そっくりの「大空」のような子だ。

尤も、大空と言っても…
ジョットのように超直観がある訳ではなく、何かを背負っている訳でもない
母親も女の子も…
まるで包み込むような柔らかな波動を持っているという意味だから
正確には少々違うが…イメージとしては、そんな感じだろう。




「僕の名は、アラウディ…。」



「…えっ…?」




放っていた僅かな殺気を納め
敢えて…打って変わって穏やかな雰囲気で僕の名前を教えてやる。


二人の男の子は
一瞬…とても面食らったようだったけれど…
直ぐに反応して来た。




「…アラウディ…さん?」



「…アラウディ…」



どうして…名前を教えたのかなんて解らない。
敢えて言えば…単なる気紛れだ。




「僕に関心があるなら…覚えておきなよ。」





そう言ってやると…
一番下の子はにこにこと嬉しそうにし…

そして上の二人の男の子は
キリリとした空気を漂わせつつ、大きくしっかりと頷いた。













丁度そこへ…
風呂から上がった雲雀恭弥が部屋へやって来た。



「…君達、何をやってるの。」



彼の妻が、ハッと気が付いたように…


「さぁ、そろそろ向こうに行きましょうね。」


と言いつつ、子供達3人を伴って部屋を出て行く。

部屋を出て廊下にまで行った後に
改めて僕の方を見て


「…お時間の許す限り、ごゆっくりしていって下さい。」
「寝具のご用意もさせて頂きますので、宜しければ、お泊り下さいね。」



にっこりと柔らかい笑顔を向けて言った後は…

雲雀恭弥の方を見て…

「足りない物がありましたら…ご連絡下さいね。」


彼女は最後に…
「では、失礼します。」と軽く頭を下げて
…移動して行った。














妻と子供達を見送った雲雀恭弥は
満足そうな顔で…
夕食の膳の前に座り、用意されていた酒の種類を確認した後
僕に、酒を飲むための杯を差し出して来る。



「僕の好きな日本酒なんだけど…貴方も一緒にどう?他の酒が良いなら、用意をさせるけれど…。」



「…この酒を貰うよ。」




差し出された杯を受け取り
彼の酌を受けて、酒を一口飲んだ。



「…うん…。これは良い酒だね。」



「へぇ…貴方、日本酒の味も解るの?」



「雨月に…何度か飲まされた事があるんだ。日本酒は好きだよ。」



「そう。…それは良かった。」








彼の妻の用意してくれた
夕食兼酒の肴にもなる料理をつまみつつ
たわいもない会話を、ボツボツとしつつ酒を楽しむ。



彼も僕も…特別に饒舌な訳ではないし
話が途切れる事もあるが…別にそれが嫌ではない。

寧ろ、黙って月を眺め…外から来る自然の風を感じ…
時々、ボソリと話す程度が丁度良い。



その点…
僕と雲雀恭弥は性格が似ているし
嗜好も似ているので…余計な事を言わなくても
お互いに解るのは…心地良いものだ。









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