[携帯モード] [URL送信]
* 散歩 * <アラウディ> 4




リビングに入って来て
驚いた顔で僕を見ている雲雀恭弥を見て…


(あぁ、やはり…彼だったか)


…と、思った。



僕に似ている人物と聞いて、真っ先に浮かんだのだが…
もう何年も逢っていなかったし

『結婚したらしいぞ』
…とかなり以前にジョットに聞いたような気もするが
特に関心も持たなかったのでスルーしていた。



…そうか…
此処は彼の自宅であり、この家族は彼の妻と子供達だったのか。

初めて、彼の妻や子供達を見た時に何か感じたのは
…そういう事だったか。




「やぁ、雲雀恭弥。…随分と久しぶりだね。」



「…貴方に逢うのは、一体…何年振りだろうか。」



「元気そうじゃないか。」



「お陰様でね。…貴方は…変わらないね。」








「…まぁね。君の方は…随分変化があったようだね。」
「まさか…此処が君の自宅で…彼らが君の家族だったとは、驚いたよ。」



「…知っていて、来たんじゃないの。」



「…偶然だよ。偶々…難儀な様子の女性を見つけてね。」
「見ていられなかったので…手伝ったら、君の奥方だった。」



「そう。妻が世話になったね…礼を言っておくよ。」



「…別に、たいした事じゃないさ。」






周りで見ている雲雀恭弥の家族からは…
僕達が顔見知りである事が解り、驚いている様子が伝わって来る。

僅かに殺気を放っていた男の子二人からは…
安心感からなのか、父親が帰宅した為なのか…
…又は、その両方の理由でだろうか…スッと殺気が消えた。



「…あの、…お知り合いだったのですか?」


戸惑いがちに尋ねてくる妻に、雲雀恭弥が説明をする。



「あぁ…古い…知り合いだよ。」



「そうだったのですか。」



にこやかな笑顔になった妻を見て
穏やかな笑みをフッと浮かべる雲雀恭弥…

ふぅん…
本当に彼は…随分と変わったようだ。










そう思って見ていると
ふと気が付いたように…僕に声を掛けて来た。



「貴方は…まだ、もう少し此処に居られる?」



「…あぁ、大丈夫だ。」



そう答えると彼は



「…優子…、彼を客間に案内してくれないか。僕は、着替えたら直ぐに行くから。」

と妻に伝え…



「ちょっと失礼して、服を着替えて来るよ。」

と僕に断ってから
着替えをする為に自室に向かったようだ。

こういう所作は…如何にも彼らしい。












彼の妻に案内をされ…先程まで居たリビングとはかなり違い
純和風な雰囲気の部屋に通された。

目の前には、美しく調和した日本庭園が見える畳の部屋だ。


出された座布団に座って待っていると
間も無くして、雲雀恭弥が部屋に入って来た。



「…待たせたね。」



そう、ひとこと告げながら…用意されていた座布団に座った雲雀恭弥は
先ほどまでの背広を着替えて、和装になっている。

確か…こんな服装の事を“着流し”というのだったな…
そんな事を思いつつ見る。



雨月が何時も着ている服装とは…だいぶ違うな。
こちらの方がラフで寛いだ感じだ。

僕の視線に気が付いた彼が…





「…この格好は珍しいかい?」



「あぁ。…僕の周囲ではあまり見ないからね。雨月の服とも違うようだし。」



「…雨月?…あぁ、あの雨の彼のとは少し違うね。」



「そのようだね。」



「興味があるなら…貴方も着替えてみる?」



「…いや、僕は良いよ。」







「遠慮はいらないよ。ついでだ…風呂にも入ってみないかい?」



「…風呂?」



「そう。貴方に…湯を張った風呂に入る習慣があるかどうか知らないけれどね。」
「日本では、湯をたっぷり張った風呂に入り…一日の汚れを落とし、疲れを癒す。」



「あぁ…それは聞いた事があるよ。」



「折角来たんだ…今日は、ゆっくりして行ってよ。」
「僕も、もう少し…貴方と話をしたいし。」





僕に向かって穏やかに話す雲雀恭弥は…
彼が学生の頃に纏っていた
“何人をも寄せ付けない”という厳しいオーラは感じない。

何が…彼をここまで変化させたのだろうか。

少し興味が湧いた僕は、勧められるまま…
風呂を使い、彼の着流しを借りて着てみる事にした。








雲雀恭弥の自宅の風呂は大変に広く、清潔で…快適だった。
風呂場で使っていた木の種類は
…確か“ヒノキ”だと言っていたな。

爽やかで良い香りのする木材だ。
日本の伝統的な風呂では良く使われている木材らしい。



こうやって、汗を流す習慣は…
清潔であるだけでなく気持ちも良いし
…この国の良い習慣のひとつだな、なんて事を思う。

満更でもない気分で湯船に浸かり“日本の風呂”を満喫した。








風呂から上がった後は
彼の妻が用意をしてくれていた下着と着流しを着てみる事にする。

着替えを用意して置いていた籠の中には、
『着流しの着付け方法』を
写真と図解付きで解説している紙が一緒に入っていた。

僕の為に、どこかでプリントして来たのだろうか
…なかなか気が付く女性のようだ。





写真や図解を参考に…
何度かやり直してみたが、最終的には案内写真通りに出来た。

その姿で、雲雀恭弥が待っている部屋に行くと
少し驚いた顔で…



「…ふぅん。…初めて着るにしては上手だね。」



「それ程、複雑な作りの衣服ではないしね。」
「何度かやってみてコツを掴めば…誰でも出来るさ。」







その後、雲雀恭弥も…


「さて、一旦失礼して…僕も、軽く汗を流して来るから…少し待ってて。」


と言い置いて、自分も風呂に入りに行った。



今日は、汗ばむ陽気の日だし…
早く汗を流してサッパリしたかったのだろう。

夕方の少し涼しくなった風に吹かれ…
美しい庭を眺めて、のんびり待つ事にしようか。








[*前へ][次へ#]

4/7ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!