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* 散歩 * <アラウディ> 3




リビングのソファーに案内されたのだが
僕の事を警戒している男の子二人は、ピタリと僕の傍を離れない。

母親が、子供達に
“お客様とは別に、ダイニングルームに用意するから、そちらに…”
と言っても

『僕達も、此処で一緒に食べる。』
と言い張って譲らないので…

『僕は構わないから、此処で一緒に食べようか。』
と提案し…
結局、5人で一緒に紅茶とアップルパイを頂く事になった。






早速、出掛ける直前に焼き上げたばかりだったという
アップルパイを食べてみる。

うん…これは、なかなか美味しい。


パイ生地の焼き具合も良いし…
甘さ控え目で、素材のリンゴの味を残した僕好みの味だ。

恐らくは、
使っているリンゴの種類も、僕の好きな品種に近いのだろう。
日本の果物は、僕には甘すぎる程だが
一部では、酸味の多いパイ向きのリンゴも、まだ販売されているらしい。


パイの為にわざわざ取り寄せているのか…
又は、並盛では、そんな品種が手に入る店があるのか…
のどちらかだろう。

『当たりだったな』なんて事を思いつつ
久しぶりに食べる好物を堪能する。






出された紅茶に口をつけつつ“なんて珍しい光景だろうか”
…と自分でも思う。

この僕が、誰かと一緒にお茶をしている場面なんて…
滅多にある事ではない。


ジョットやG達が見たら
驚く事間違いなしのシチュエーションだ。

今日の僕は、一体どうしたのだろうか。

この家族には…何かあるのだろうか。









そう言えば…
僕が、落ちそうになった布団を支えて持ってあげた時に
…あの母親は、僕を見て暫くの間固まっていた。

それは…僕が日本では珍しい風貌だから…
というのもあるだろうけれど、
それ以外にも、何かを考えていた節がある。


…あれは、何だったのだろうか。
この際だ、聞いてみるか。



「…ねぇ。さっき…僕の事を見て何か言いたそうだったけど…あれは何?」


何の脈絡もなく、急に尋ねたけれど
…彼女は、僕が尋ねた真意を理解し答えて来た。







「…先ほどは、じっと見詰つめたりして、失礼しました。」
「貴方様が…夫にとても似ているように感じましたので、驚いて…つい、じっと見ていました。」



「…君の夫…?」



「はい。夫と、お顔も似ているようですし…それに…お声も雰囲気も似ています。」






にっこりと笑顔で答える母親の言葉を聞いて
子供達も同調する。



「…本当ですね!お顔がパパにとても似ています。」



「…確かに全体の雰囲気も父さんに似てる。」



「髪の色と目の色を変えたら…色々とソックリだね。」






「拓弥お兄ちゃまにも、似ていますね♪」



「うん。父さんと拓弥とは似ているしね。」




「…………。」


「…………。」





似ていると言われた拓弥という子と
お互いに無言で…チラリと目が合う。

言われるまで気が付かなかったけれど
…確かにこの子は、僕にとても良く似ているようだ。



で、彼らの話によると父親も僕とそっくりな人物…?
…それって、まさか…。


頭の中で、1つの仮説を立てた時…
玄関前の車寄せに…車が止まった音がした。








+++++++++++
++++++








今日は、予想外に早く仕事が片付いた。

特にする事もないし、偶には早く帰宅しようと
急に思い立って、まだ早い時間だったが帰宅する事にした。


連絡なしで帰宅すると優子が驚くだろうな。
『お帰りの時間が大きく変わる時は、連絡して下さいね。』
と普段から言われているのだが
偶には、こんなサプライズも良いだろう。



…それに、良く解らないが…
何だか今日は、兎に角早く帰宅した方が良い気がする。



ごく小さな胸騒ぎがあるというか

…何かがある…ような気がするのだ。







運転していた哲が…
『それではこれで失礼します。』
と言って車を発進させたのを見送り、玄関を開けた。


…と…

車の音に気が付いたのだろう…
丁度、末っ子の真衣が玄関に向かって走って来た所だった。



「…パパッ!お帰りなさい!」



嬉しそうに飛びついてきた娘の頭を撫でてやりながら

「ただいま。」
と一度言ってから

「真衣、…廊下を走ってはダメだよ。」
と注意をする。



すると…


「…ごめんなさい、パパ。でも、パパにソックリな人がいるから急いで教えたくて…」



(…僕にそっくりな人?)



ふと下を見ると…
僕の物ではない男物の靴があるのに気が付いた。


(…男の客が…来ているのだろうか?)






疑問に思っている所に、丁度、妻の優子が来た。


「恭弥さん、お帰りなさい。…お疲れ様でした。今日は、早かったのですね。」



「予想外に早く仕事が片付いたからね。」



「それは良かったですね。」







にこにこしている優子に…今の疑問を問いかける。


「…誰か、来ているのかい?」



僕の問いに対して…
子供用敷き布団を、自力で持って帰る事になってしまった
簡単な経緯を聞き…続けて…
見知らぬ男性に、途中で出逢って持って貰ったという話を聞いた。

…で…
今、その男性にお礼としてアップルパイとお茶を出して
皆で一緒に、お茶をしていた所だと説明を受ける。







…成程…
そのまま無理をして運んでいたら
下手をしたら、何等かで事故でも起こしたかもしれないな。
そんな事なら、僕からもお礼を言った方が良いだろう。


と、思いつつリビングに入り…
そこに居る男性をひと目見て…思わず絶句した。




(…!!…)





まるで…怪しい人物を見張るかのようにして
二人の息子が、彼の傍に居る。

うん、こんな所は流石…僕の息子達だと言える。

恐らくは…彼が『尋常な人間ではない』事に気が付いて
母親の優子と妹の真衣を守っているつもりなのだろう。





警戒色を露わにして、僅かに殺気まで漂わせている
二人の息子達に、両側を固められた状態の中で

寧ろ、その状況を楽しむかのように
優雅にお茶を飲んでいる、その人とは…

一体、何年振りに逢うだろうか。




…にしても、どうして…
この男(ひと)が、此処に…僕の自宅にいるのだ。




あまりに驚いて、唖然として見ていると
ゆっくりとお茶のカップを優雅な所作でソーサーに置き…

まるで、僕が来る事を予測していたかのような
余裕の笑みを湛えつつ…


その男性…アラウディは…僕の方に視線を向けて来た。










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あきゅろす。
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