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* 散歩 * <アラウディ> 2





今にも私の手から落ちそうになっていた
子供用の敷き布団は、何時の間にか…
背後から来ていた、見知らぬ男性の手に収まっていた。



「…あ、有難うございます…。」



突然の事に驚きながらも…お礼の言葉を口にして
改めて、ちゃんとその人の方を真正面から見て…思わず息を呑んだ。





(…っ!…)
(…なんて…綺麗な人なんだろうっ…!)





透き通るような、白磁の美しい肌に…端正な顔立ち。

まるで月の光を編んだかのような
…ごく淡い金髪の…輝くプラチナブロンド。

長いまつ毛が添えられた
…鋭いけれど、宝石のように美しいアイスブルーの瞳。
透明度の高い湖水のような色でもあるし…
アクアマリンという宝石の様にも見える。


まるで、北欧の物語の王子様のように…綺麗な人…。
いえ、キレイよりも…もっと…“美麗”というレベルだわ…。



「…………。」



見惚れつつも

…ん?…誰かに、似ているような…?
と疑問に思う。



…ええと…?

と少しだけ考えたけれど、答えは直ぐに出た!




全体の印象の『色』が大きく違うけれど
恭弥さんに…ソックリなんだ…。

そう言えば…
先程聞いた声も少し似ていたような気がする。




「…………。」




夫にソックリな、北欧風イケメン美男子さんを
ちょっと不思議な物を見るような目でじーと見る。

…この人は…一体誰なんだろう。





「そんなに凝視する程…僕の容貌が珍しい?」



(…!…)


声を掛けられ…ハッとした。
そ、そうだ…見惚れている場合ではない。


危うく落としそうになった布団を、素早く受け止めて
そのまま…持って貰っていたのだった。



「…あっ、あの…。驚いて…見詰めたりして、失礼しました。」
「荷物を受け止めてくれて…有難うございます。…お陰様で助かりました。」





日本語で声を掛けられたのだし
…日本語で話しても大丈夫よね…?

と心の中で思いつつ、再度、深々と頭を下げながらお礼を言った。



…と…、頭を下げたままの私に淡々とした声が響く。



「これ、何処まで運ぶの。」


急いで顔を上げて、答える。


「…あの…数ブロック先の自宅まで運びます。」







「そう。じゃあ、そこまで運んであげる。」



「…えっ?…いえ、あの…大丈夫です。」



「今にも落としそうになってて…どこが大丈夫なのさ。」



「…でも、あの…そんなご迷惑を掛ける訳には…。」



「今の様子だと、通行人や自転車にぶつかるのは時間の問題に思えるけど。」
「それに本人が良いと言ってるんだ…何か問題があるの?」



「…………。」




自宅までは、まだもう少し距離がある。
正直な所…
このまま無事に自宅まで自力で運ぶのは…かなり大変そうだ。

かと言って…見ず知らずの通りががりの人に
荷物を持たせるというのも…大変に気が引ける。

でも、ご本人が良いと言っているのだし
…ココは甘えても良い…だろうか。




…それに何より…
恭弥さんにソックリなこの人が誰なのか…とても気になる。

気のせいか…話し方まで、似ているし。



申し訳ない気持ちと…
この人物に対する興味とが私の中で一瞬だけ闘って
…結局、興味関心の方が勝った。

うん。
…ここは、素直にこの人に甘える事にしよう。





「…有難うございます。」
「では、お言葉に甘えて…自宅まで運ぶのを手伝って頂いても宜しいですか?」



「…自宅はどっち。」



「この道を真っ直ぐに行って、途中で右に曲がった所です。」



「分かった。…行こうか。」



「はい、宜しくお願いします。」













その人は、子供用敷き布団を如何にも軽々と運んでくれて
…数ブロック先の自宅に、直ぐに到着した。

ずうずうしくも
自宅の玄関の中まで運んで貰った後で…


「じゃあね…。」

と、直ぐにでも帰ろうとする男性を必死に呼び止める。




「…あ、あの…お待ち下さい!」
「運んで頂いたお礼に…せめて、お茶だけでも…。」



今、正に玄関を出ようとしていた彼が…
…振り返り、冷静な声で返す。




「見知らぬ男を、自宅に上げるのは不味いだろう?」




(…確かに、そうだけれど。)
(私1人なら、そんな事は出来ない…でも、今日は子供達も全員居るし…)
(特に上の二人は…子供ながらに十分に宛てに出来る子達だ。)

(それに、この人は大丈夫だと感じる。)
(理由なんて解らないけれど、私の勘がそう告げている。)





そう思って答えようとした所に…
丁度子供達がバタバタと玄関に向かって来た。


「ママ〜!お帰りなさいっ〜!」
(…っ!…)


末っ子の真衣が
何時ものように私に飛び付いて来ようとした所で
玄関の見知らぬ男性に気が付いて…ピタッと動きが止る。


続いて、後ろから長男の政紀と、次男の拓弥もやって来て…

(…っ!…)

少しだけ警戒色を出しつつ、その男性をじっと見る。




玄関で…子供達三人と男性との視線がぶつかり合う。


「…………。」


「…………。」








末っ子の真衣はともかく…
長男・次男の明らかな警戒色を含んだ視線を受けた男性が


「ふぅん…どうやら、可愛い番犬が居るようだね。」


…ふっ…と僅かな笑みを零しつつ言った言葉に
次男の拓弥が、ピクリッと反応する。




拓弥の…少々好戦的な様子に気が付いて
更に笑みを深くした男性を見て…

(…益々、恭弥さんに…似ている…)

なんて事を思ったが…
そうだ…皆で玄関で固まっている場合ではない!



「…あの…出掛ける前に焼いておいたアップルパイもありますし。」
「お時間が宜しければ、是非お上がり下さい。」



…再度、そう声を掛けてみた。






++++++
+++++++++++





「…………。」


眼の前で、見知らぬ男である僕に
…警戒を崩さない、二人の小さな騎士達の鋭い目を見ていて…
ふと、中学生の雲雀恭弥を思い出した。


力強く意思を含んだ瞳が

『お前は何者だ』
『どうして母親と一緒に居るのか』

…と問うている。




…面白い…。

荷物を運んだら、直ぐにでも帰ろうと思っていたのだけれど…
少し、ここで遊んで行っても良いかもしれない。




…それに…
先ほど、彼女は確かに“アップルパイがある”と言った。
僕の大好物であるアップルパイがあるなら…食べて行かない手はない。

珍しく他人と関わろうとしている僕の気持ちに
無理矢理に理由を付けて…返事をする。




「…そこまで言うなら、少しだけお邪魔するよ。」




僕の言葉を聞いて、嬉しそうにした母親と…
先ほどより、一層の警戒色と共に
今度は…僅かながらの殺気を向けて来る二人の男の子達。

まだ小さいのに…ここまで鋭い殺気を向けて来るなんて。

この様子では
僕が普通の人間でない事にも気が付いているのかもしれない。





見た所、母親と末っ子の女の子は
全く普通の人間のようだ。

だが、男の子二人は少し毛色が違う。
…特に、真ん中の男の子は…
僕と、同じタイプの人種で間違いがないだろう。


この子達は…一体、何者なのだろうか。










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