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虹の彼方 55




暫く車が走り…空港に着いた後に、案内されたのは…
航空会社の飛行機ではなく…
所謂“プライベートジェット機”…だった。


流石というか…何というか…。
つい先程まで、
プライベートジェットを使うとは考えてもいなかったけれど
でも…これも良く考えれば、当然の事だろうか。





欧米では企業のトップクラスの人や、
それなりにセレブと言われるような人達は
プライベートジョット機を自身で所有していたり…
またはレンタル会社と契約をしており、
それを移動に使う事がとても多い。

時間の節約にもなるし、欧州の多国間を
行ったり来たりして仕事やプライベートで移動するには
航空会社の路線のように、
使える空路や空港に制限がないほうが絶対に便利だ。








案内された飛行機の中は、
とても豪華で居心地の良さそうな物だった。

飛行機の中だというのに、
ソファーが置かれた広いリビングや大き目のテーブルまである。
それに、快適なベッドに様変わりする大きな椅子。
これならば、眠れないという理由で睡眠不足になどならないだろう。

他に随行のスタッフの為のお部屋もちゃんとある。
草壁さんは、そちらのお部屋を使うようだ。



飛行機の中で働くスタッフの方々のサービスは
当然のように完璧で素晴らしい…
今回の旅行で、長い距離を移動する時は
毎回このジョット機を使うようだ。





まるでホテルのような飛行機の中で、
美味しいお料理と素晴らしいサービスを受け快適な時間を過ごした。
途中、経由地に寄りつつ
最初の訪問国であるドイツを目指して飛ぶようだ。



空港に着いて以来、
本格的に「恋人兼婚約者」としての演技を開始したので…
飛行機の中でもお互いに名前呼びで過ごしたが
…まだ、どことなく違和感がありぎこちない。

けれど…このプライベートジェットに乗っている時間が、
丁度良い練習期間にもなったので
ゆっくりと…
『恭弥さん』と呼ぶのに慣れて行った…






++++


++











ドイツの空港には迎えのリムジンが来ていて…
直ぐに宿泊予定のホテルに向かう。

着いた先は、当然のように五つ星ホテル。
そして…案内されたお部屋は…
最高級のスィートルーム…だった。



プライベートジェットだった時点で…
『もしかして』と軽く想像はしていたけれど…

やっぱりというか…うん。
凄い、の一言。



かなり広いリビングを中心に、様々なお部屋がある…
ふかふかの大きな大きなソファーが中心に置かれた、とても広いリビング。

リビングの前は、広くて白い綺麗なバルコニーがあり、
とても解放感があるお部屋だ。
隅にはミニバーもあり、各種お酒が綺麗に揃えて置かれている。


隣接した部屋にはダイニングルームがあり、大きな丸いテーブルが置かれ
その上にはウエルカムフルーツの盛り合わせと、
冷えたワイン、ミネラルウオーター、そして生け花。









あまりに豪華なお部屋に圧倒されていると、
恭弥さんから…声がかかる。


「荷物が届いているから…荷解きをして、明日からの準備をするよ。」
「このホテルには暫く滞在する事になると思うから、服は皆ハンガーに掛けた方が良いね。」



「はい、分りました。」
「…ええと…クローゼットはどこでしょう?」




リビングに連なるお部屋の何処かにクローゼットがある筈だ…
それを探そうと入ったお部屋は広くて豪華な寝室。


(…!!…)


そこには…とても大きなキングサイズのベッド。
余裕で大人3人で寝る事の出来るサイズだ。


それを見て…はた、と気が付く。


そう言えば、このお部屋に寝室は幾つあるのだろうか?
恋人&婚約者設定なのだし、
宿泊のお部屋が一緒なのは…まぁ仕方ないというか…
世間的には普通なので、それは覚悟をしていたのだけど。

でも…寝室は別にして頂かないと困る。
…うん。







寝ている時まで完璧な演技でなくても良い筈だし…それに…
万が一、寝室が一緒…なんて事になったら
…とてもではないが、眠れない。


そう考えて、隣のお部屋を見てみると…
そこが探しているクローゼットや鏡がある部屋だった。

既に運び込まれていた恭弥さんと私のスーツケースが
綺麗に並べて置かれている。

うん…この衣装部屋だけでも十分に広い。




その部屋のドアを開けると、先ほどのリビングに通じている。
ん…という事は…向こうのドアかな?
そう思って、リビングの反対側にあるドアを開ける。

と…そこは化粧室に通じるドアだった。
そしてその奥には広いお風呂とシャワールームが見える。



…あれ?と思いつつ、
再度リビングルームに戻って、
そこからドアというドアを開けて確認して回るけれど
あるのはお手洗いや、ベランダに通じるドア等。
そして部屋の入口に玄関風に作られたドア。








凄く広いお部屋だけど、もしかして寝室は、
…あの巨大なベッドのあるお部屋だけなのだろうか?

心の中でちょっと焦りつつ…再度、寝室に行ってみた。

改めて見回しても…どう見てもベッドは1つだ。
そして他の寝室は…ない。




…ええと…これは…完璧に想定外の事態だ。

大真面目に…どうしよう。











心の中でおおいに焦っていたら…
隣の衣装部屋のクローゼットの前で
荷物を解いていたらしい恭弥さんが覗きに来た。



「…何をしているんだい。…早く荷物を解いて………」



私が茫然と突っ立っているのを見て、
不審に思ったらしい恭弥さんが
話かけていた言葉を一度切り…私の方をじっと見る。



「…優衣…?」



けれど…
まだ私の頭は混乱中で…茫然としたままだった。

そこで、何かに気が付いたらしい恭弥さんが
『あぁ…』と声を上げる。







…そして…



「あちこち見て周っていたのは、他に寝室がないのか探していたのかい?」



「……はい。」



「この部屋に…寝室は1つだよ。」



「…!…」



やっぱり…そうなんだ。








「このホテルのスイートルームは…」
「全てキングサイズのベッドが置かれた寝室が1つしかないようだ。」



…え、そうなんだ。

と、いう事は他のお部屋を希望しても…無理という事?




でも…これは…流石に困る。



…どうしよう…。





「…………。」
















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あきゅろす。
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