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虹の彼方 99




時間にルーズなイタリア人らしく…
とっくにパーティの始まりの時間は過ぎているのに
遅れて来る人が後を絶たない。

というか、寧ろ…遅れて来るのが当然という雰囲気だ。



アレックス夫妻は見つける事が出来たが
…甥のパオロの姿は見えない。

別の所に居るのだろうかと思って探したが見つからない。
まだ来ていないのだろうか。





恭弥さんと相談をして
取り敢えず、パオロの事は置いておいて
…アレックスの方にだけ神経を集中する事にした。

といっても…今日は“印象に残る”ぐらいで良いので、さり気無く
“やや近い位置”に移動するだけにした。


大勢の参加者がいる中でも…
このぐらいの距離ならば、顔も良く見えるし
話し掛ける為には
少しだけ移動すれば良い…というぐらいの距離だ。








この地域は観光地ではないし
日本人の旅行者や、ビジネスマンは珍しいらしい。

その上、目立つ着物で来たので…嫌でも注目を集める形になった。

陽気なイタリアーノ達が、次々に声を掛けて来る。
もう本当に…ひっきりなしに…という程に途切れがない。



アレックスに印象つける為にも
目立ちたいと思って着物にしたのだけど…
ここまで多くの人の囲まれてしまうとは思いもしなかった。

こんなに大勢に囲まれて、
常に誰かに話し掛けられてしまうと…全く身動きが出来ない。




私も恭弥さんも大勢の人に囲まれて
質問責めにされて…正直、疲れてしまった。

肝心のアレックスも見失ってしまうし…。

今回の服装の選択は
目立ち過ぎてしまい、ちょっと失敗だったようだ。





笑顔を振りまいて、
ずっと…会話のし通しで…くたくたになった。
この地方のイタリア語は少々聞き取り難いし、それだけでも疲れる。

恭弥さんの方を見ると、何時も完璧なポーカーフェイスなのに
…流石に疲れが少し顔に出ている。
正確には“うんざりしている”という感じだ。

昔は、大勢の人と一緒にいると
蕁麻疹(じんましん)が出る程だったと聞いているから
この状態はかなりキツイのではないだろうか。









私達を取り囲まれていた人が、少し減った所で
やや強引に…その集団から抜け出した。

恭弥さんと一緒に、急いで…
人があまり居ない大きな木の陰になる場所まで移動して
…ホッと、一息をついた。




「…着物は失敗でしたね。…すみません…。」



「…いや、どの道…日本人というだけで目立っただろうしね。」



「そうですね。この街の人は、相当に日本人が珍しいみたいですね。」
「何人もの人に“生まれて初めて着物姿の日本人を見た”と言われました。」


苦笑しながら恭弥さんと話をする。







一番最初にドリンクを取って以来、飲み物を取りに行く暇もなく
ずっと話をしていたし…喉が渇いてしまった。

そう思っていると
恭弥さんも同じ事を考えていたようで…



「何か、飲み物を取って来るよ。」



と言って、行こうとした所で…
背後から南部なまりのイタリア語で声を掛けられた。



「飲み物は如何ですか?」



そう言いつつ、ワインの入ったグラスを差し出してくれたのは…
何と、アレックスの奥様だった。

隣にはアレックスも一緒にいて…




「貴方は、白ワインは飲まれますか?」


と言いつつ、恭弥さんにグラスを差し出して来た。



アレックスも夫人も…
それぞれ自分の分のグラスを持っている。

…という事は、ワザワザ私達の分のワインを
取って来てくれた…という事のようだ。








驚いて見ている私達に向かって
アレックスが、にこやかな笑顔で話し掛けて来る。



「お二人が飲み物を取りに行くと…きっと又、大勢の人に囲まれてしまいます。」
「これは、お二人の為に…つい先ほど取って来たワインです。」




隣の婦人も、優しい口調で…


「まだ冷えていますので…さぁ、どうぞ。」










成程…私達の窮地を見て
助けに入ってくれた…という事のようだ。



恭弥さんが、穏やかな笑顔で…

「お気遣い有難うございます。丁度、喉が渇いていたので…とても助かります。」

そう言いつつ受け取る。



私も夫人に

「…有難うございます。遠慮なく、頂きます。」

と笑顔で言って受け取った。



…その後…
軽くグラスを目の高さぐらいに持ち上げ
乾杯の意を示して…四人で冷たいワインを頂いた。








にしても…驚いた。
すっかり見失ったと思っていたアレックスが
…逆に私達の事を見ていたなんて。

それだけ、私達が目立っていたという事だろうか。





それに…資料にあったように…
ご夫婦揃って、とても優しい人達のようだ。

物腰も柔らかくて、穏やかな印象を受ける。


本当は、今日は『少し印象に残る程度』で帰ろうと思っていたのだけど
折角、こうしてターゲットの方から話し掛けて貰ったので
遠慮なく、この機会を生かすべく
…4人で、様々な会話に花を咲かせた。





途中から…私達が居るのに気が付いた
アレックスの友人達数人が来て、一緒に会話の輪に入ったりもしたけれど
特に問題もなく、怪しまれる事もなく
「顔見知り」になる事が出来て、本当に良かった。









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