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虹の彼方 93




疲れの為か、ベッドにダイブした後にぐっすり休んで…翌朝。

昨夜の恭弥さんとの約束を思い出し
暫くベッドの中で悶々とした末に、思い切って部屋を出て行く。



真っ直ぐに洗面所に行き、
洗顔と歯磨きをして、軽く髪をブラッシングして整える。

その後にリビングに行ってみると…
立ち上がってレースのカーテンを少し開け
窓の外に拡がっている薄くぼんやりと朝靄のかかった
ロンドンの風景を眺めている恭弥さんの姿があった。


幾ら背を向けていても
私がリビングに来た気配には気が付いているだろうし
スルーする訳には行かないだろう。




一瞬の躊躇いの後…
直ぐ近くまで行き、背後から声を掛ける。



「…恭弥さん、おはようございます。」



私の声に反応し、後ろを振り返った恭弥さんが
私の姿をみとめて軽くふっと笑みを零しつつ
…スッと私に近寄り…
額に軽く触れるだけのキスをした後に、挨拶をしてくれた。


「おはよう。…良く眠れたかい?」



「はい、ぐっすり眠れました。」



「そう。」




そこまで普通に挨拶をして
…あれ?…額へのキスで良いの?と疑問に思う。

身構えていたので、ちょっと拍子抜けをしたけれど…
恭弥さんは、私のキョトンとした顔を見て、小さくクスと笑った後は
またスッと背を向けて、窓の外を見ている。


(…?…)


良く解らないけれど…今朝は、これで良いみたいだ。

ここで態々…
『キスはしなくて良いのですか?』なんて聞くのも変だし…
下手をすれば、藪蛇になるだろう。

どう考えても、このままの方が良さそうなので、
そのままリビングを離れた。






額へのキスだったら…欧米に住んでいた頃には
ごく普通の挨拶として
ご近所の人や知り合いの方々に何時もされて育って来た。

頻繁ではないけれど、両親も時々
…額へのキスをしてくれた。

だから、違和感もなく…
物凄く恥ずかしいとも思わずに受ける事が出来る。



…ただ、相手が恭弥さんとなると…
やはり少しは照れてしまうけれど。
それでも、真っ赤になるような事はない。

昨夜、私があまりに照れて真っ赤になってしまったので…
少しハードルを下げてくれたのだろうか?




恭弥さんの真意は解らないけれど
…でも…何となくだけど、
私の事を気遣ってくれているような…そんな気がした。










昨夜言われたように、出国の準備の為、自分の分の荷物を纏める。
結構な量の物を持って各国を移動しているので、
なんのかんのと時間がかかる。

それでも、テキパキと準備をしたお陰で
お昼頃までには全ての準備を済ませる事が出来た。





丁度、その頃…草壁さんから連絡があり
移動先のイタリアでのホテルの予約が取れた事や
プライベートジョットの準備も夕方までには出来ると連絡があった。



移動するのは私達だけでなく、草壁さんを始めとした
今回の仕事の為のメンバーも一緒に国を移動する。

一緒の飛行機に乗ったり、
同じホテルに泊まる事はなく…全く別の場所にいるのだけど
陰で私達を支えてくれる為に、様々な専門家や財団員の方々が
同じ国を一緒に移動しつつ仕事をしているのだ。

全部で何人いるのか知らないけれど
かなり大人数らしい。



こんな急な出国で
草壁さん達はさぞかし大変だっただろうな…。
そう思いつつ、出国までの簡単なスケジュールを確認した。






財団関連の荷物の集配会社の人が、
ホテルの部屋の荷物を受け取りに来た後に
私と恭弥さんも、少し早いけれどホテルをチェックアウトし
夕方の飛行機の時間までの、時間潰しも兼ねて
大英博物館や、ウェストミンスター寺院に行ったりして
…少しだけ、観光っぽい事と買い物をして過ごした。


これは、恐らくは…
私の為に、恭弥さんが付き合ってくれたのだろう。

英国で観光やお土産の買い物をしたいとは、一度も言っていないけれど
きっと、気を遣ってくれたのだと思う。




やっぱり…恭弥さんは…さり気無く優しい、と思う。
考えが読めないというか、
読ませてくれない事が多いけれど
でも、ちゃんと考えた上での行動であるという信頼感はあり、
安心して付いて行ける。





…だけど…だからと言って
全てを恭弥さんに任せて頼りっぱなしになり、思考停止になってはならない。
今回、英国ではそれをとても強く感じた。

私は私で、ちゃんと自分なりに考え、
様々な考え得るケースを想定し、イザという時に
備えられるようにしておかなければならない、と思う。


このような仕事の経験が無いので、
どうしても限度があるとは思うけれど
それでも、自分の持てる情報や想像力や色々な物を総動員して
頭をフル回転させ…必死に思考していなければ
このままでは、私は単なるお荷物になってしまう気がする。





これから行って暫く滞在する予定のイタリアの地域は、
ドイツや英国で過ごした地域に比べて
治安的にも…少々危ない地域である事で知られている上に

私達が欲しいと思っている情報の内容的にも
今までで一番、裏社会と繋がりがある情報であり
それだけに…
入手するのに、危険が伴う確率も高いとの分析結果が出ているらしい。

より一層、気を引き締めて行かないと!





そんな事を考えつつ…

イタリアへ向けての第一歩を…踏み出した。











第5章<狼と子羊> 完



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以上、第5章はここで終わりです。
次回より第6章に突入します。

舞台はイタリアに移ります。




※5章の最後まで読んだ後の雲雀さん視点の「小話」(拍手)が
『過去拍手の部屋』にあります。
宜しければ、そちらもお読み下さい。





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あきゅろす。
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