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虹の彼方 87




元々居たロンドンのホテルに無事に到着後、
草壁さんは、ニックから得た情報の分析の為、直ぐに私達とは別れた。

万が一、欲しい情報と違っていたり
他にも情報が分散されている形跡があれば大変だ。

ニックは、全ての情報を
一か所にまとめて置いていると言っていたけれど
そもそもニックの持っていた情報が全てではない可能性もある。
それを調べる為に、私達とは別の場所で待機している
財団の分析官の所へ行ったのだ。




恭弥さんと私は…
丁度、ディナーの時間になっていたので…
ホテルの部屋に荷物を置いた後は直ぐにお食事に行った。


食事を終えた後は、
お風呂の湯船にたっぷりとお湯を張り…
先に恭弥さんに入って貰った後に
私も一日の疲れを癒すように、ゆっくりバスタイムを楽しむ。

お風呂の中で、怒涛のごとく過ぎた一日を
ゆっくりと振り返り…
改めて、今回の英国での様々なシーンも同時に思い出していた。






今回、一番衝撃的だったのは…
やはり今日のニックに対峙している時の恭弥さんだ。

醸し出している殺気というオーラだけで…
その姿だけで怖い程のレベルだった。

噂には聞いていたけれど…
私は実際に、あんな恭弥さんを見たのは初めてだった。
正直、とても驚いたし…少し怖い、とも感じた。

今までツナや皆さんから“雲雀さんの様々な噂話”を聞いた時は
『少し大袈裟なのでは?』と思った事もある。
けれど…
それが真実であった事を、今日…この目で確認をする事になった訳だ。




ツナやリボーンと恭弥さんが
“遊んだ”後の部屋が…普通では考えられない壊れ方をしているのを
何度か見た事ならある。

特別な素材を用いて、特別強固に作られているトレーニングルームなのに
“一体、何をどうしたら…こんな風に壊れるの!?”
と思わずには居られない程の凄さだった。



私は一度も
恭弥さんが、誰かと“遊んでいる所”を見た事はない。

それだけでなく、ツナや他の皆さんの“トレーニング”の場面も
一度も、見た事がない。


ツナやリボーンが
『危険だから、絶対に来てはいけない!』と何度も念を押すので、
言い付けを守り、ホンの少し覗いた事すらなかったのだ。

けれど…今日の恭弥さんの姿を見て
何となくだけれど…
その本当の凄さが想像出来たような気がする。

皆があれ程に『ヒバリは化け物級の激強バトルマニア』と言うのも、
少しだけ解ったような気がする。




尤も…他の皆さんだって、
一般の人に比べたら十分に『化け物』だという噂だし
ツナを始めとして皆は…
私が知っている顔とは“別の顔”を持っている、という事なのだろう。

ボンゴレの皆さんは、
殆どの人がそれを知っているのに…
私は現場に行く事も一度も無かったし
トレーニングすら見た事がないので知らないだけなのだ。






一方、今回の英国では…
今日のような恭弥さんとは、真逆にも見える場面も見た。

ダンスパーティで、老婦人を優雅に丁寧にエスコートし
気遣いつつリードし踊っていた紳士な恭弥さんも
…間違いなく…
『“あの雲雀恭弥”の顔のひとつ』なのだ。

あまりに違い過ぎて
同一人物とは思えない程に乖離があるけれど…。

あの優しい姿も…そして今日のような怖い姿も
本当の“雲雀恭弥の一部”なのだと思うと少し不思議な気になる。



「…………。」



今回の英国での仕事を通じて…
かなり恭弥さんの事が解るようになった、とは思う。

けれど…まだまだ謎が多い人だ。
基本的に普段は完璧なポーカーフェイス…というものあるけれど。
そう簡単には思考を読ませてくれないので
…未だに何を考えているのか、とても解り難い。

色々と私なりに、恭弥さんの心情を想像してはいるけれど
…それが当たっているのかどうかも不明だ。







所で…こうして改めて考えてみると…
ボンゴレボスの…ツナの秘書をしているというのに
…私は、未だに自分が属している世界について
知らない事が多過ぎるような気がする。

ツナやリボーンが、私には書類仕事以外の事は一切させず、
少しでも危険な香りがする場所には
絶対に連れて行って貰えなかったというのもあるけれど。

でも、自分自身の自覚というか…
自分の仕事への認識も足りなかった。

自分が属している世界が“常に危険と隣り合わせ”である事すら
…あまり自覚していなかった。




今回の仕事は
『“あの雲雀恭弥”がわざわざ自身で出向いてまで…』
「欲しがる情報なのだから、危険が伴って当然』
とも言える。

…そんな基本的な事さえ、
十分に認識していなかったのだ。




今日の出来事を通して、やっと…出発前にツナがあんなに
『優衣の安全が、第一だからね!』
と、何度も繰り返し言っていた理由が
…少しだけど解ったような…そんな程度だ。



もうボンゴレに来て2年と数か月も経つというのに…
私はまだ…
本当の意味ではボンゴレの者になれていないのかもしれない。
自分では「結構慣れたし、色々解って来た」と思っていたのに…。

どんな仕事でも、本当に一人前になるには3年以上はかかる…
と一般には言われているけれど…
私の場合もそうなのだろうか?

だとすれば…
今の経験、今年の経験が私を一人前にしてくれる
大きなチャンスなのだろう…な。




恭弥さんが『ドイツでの仕事は異常』と言っていたけれど
…本当にそうだったようだ。

あんなにスムーズに行く事なんて、
きっと滅多にないのだろう。

今後は、もっと気を引き締めて行こう!
せめて今日のように…
恭弥さんに迷惑を掛けないようにしないと、
このままでは私は…単なるお荷物になりかねない。







そんな事をつらつらと考え…お風呂から上がった。

長風呂になってしまったので、
喉が渇いたな…と、そう思ってリビングに行くと
恭弥さんがワインを飲みつつ新聞を読んでいる所だった。

そっと冷蔵庫に近寄って
ミネラルウオーターを取り出して、
そのまま自分の寝室に行こうとしたら…




「…優衣。…話があるから座って。」



(…!…) 

声を掛けられ…少しギクリッとする。

…また叱られるのだろうか?




まぁ、叱られて当然の事をしたんだし
…仕方ないのだけど。

そう思いつつ渋々…
恭弥さんが視線で示した先である
“恭弥さんが座っている同じソファーの直ぐ隣”に、座った。






緊張して座っていると…


「水…飲まないのかい?」

と言いつつ、コップを差し出してくれた。



受け取ったコップに水を注ぎ、こくん…と一口飲む。
私が飲むのを待って…恭弥さんが、口を開いた。




「明日の…午後5時〜7時ぐらいの時間帯に英国を発つ事にしたよ。」
「だから、明日の昼ぐらいまでに荷物を纏めておいて。」



「…え?…明日、英国を発つのですか?」



聞いて驚く…
まだ数日間は英国に居る予定だった筈なのに?

…そんなに急に?



「先ほど哲から連絡が入ったけれど…情報の内容に問題は無かったらしい。」
「それに…この国の不味い食事にはいい加減に辟易している。」
「だから、さっさと移動する事にしたんだ。」




もう今日の情報内容の確認が終わったようだ。
流石、風紀財団の仕事だ…凄く早い!


早く英国を去る理由のひとつが食事なのは
…まぁ、納得だ。

英国に来て以来、出来るだけ
“英国料理以外のお店”でお食事をして来た。

和食のお店は勿論、イタリア料理、トルコ料理、フランス料理などなど…
美味しいと評判のお店を探して行っていたのだけど
朝食や、パーティ会場やニックの館の時のように…食事を選べない時もあり
それが食通の恭弥さんには苦痛の時間だったようだ。

だから、早く英国から離れたい気持ちも解る…。



「解りました。明日起きたら…出来るだけ早く荷物を纏めます。」



「うん、そうして。」



そう返事をした後に、
一呼吸を置いて…再び恭弥さんが声を掛けて来た。




「所で…優衣。…僕に聞きたい事はないの?」



(…?…)


一瞬キタッ!やっぱり叱られる…と思ったのだけど…

……ん?……あれ?




…私が恭弥さんに…聞きたい事…?

一体、どういう事だろうか?









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