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虹の彼方 86




馬を走らせ…漸くニックの館に着き、出迎えてくれた執事さんに
『迎えが来次第…ロンドンに帰る事になった』
…と告げる。

何も知らない執事さんは、
とても残念がってくれたけれど…仕方ない。



草壁さんが到着したら、連絡をしてくれるように頼んで
自室に戻り、着ていた乗馬服を着替え、帰り支度をした。



私が、自分の分の準備でバタバタしている内に
恭弥さんは…自分の荷物はさっさと纏め終わって
事前に預かっていたニックの部屋の鍵を使い
…先程、ニックに聞いた場所から、目的の情報を見つけていた。

それを厳重に荷物と一緒に保管をし
一息ついている所へ、丁度草壁さんが到着したので
館の方々に荷物を車に運んで貰い
お世話になったご挨拶をして…ニックの館から去った。





今の時期の英国は、遅い時間帯まで昼間の様に明るい。
これなら十分に、
明るい内にロンドンのホテルまで戻る事が出来そうだ。

ごく短時間で、館を去ったので…
ニック達は、きっとまだアフタヌーンティーの最中だろう。


ニックが館に戻った時に、私達が立ち去った事を確認して、
心底安心する顔が…浮かぶようだった。








ロンドンに向かって走る車の中で…
恭弥さんが、草壁さんに今回の顛末についての詳しい話をする。

そして、あの様子であれば、
他言するような事は無いだろうけれど…念の為、
“当分の間は、ニックに監視を付けておくように”…と指示をする。


それに対して、

「了解しました。今日中に手配します。」

と草壁さんが返事をし…
その後、続けて…私に労いの言葉を掛けてくれた。




「優衣さん、大変な目に合いましたね。…怖かったでしょう?」



「…はい。…でも…。…半分は私が悪いので。」


少し、恐縮しつつ答える。




一番最初…隠れる場所を探している時に、
ニックに手を掴まれ、やや強引に森に連れて行かれた時点で
何とか振り切り、あんな所まで一緒に行ってなければ…
きっと、あんな事はなかっただろう。




「スマートホンに、発信機を付けていて正解でしたね。」



「…え?…」



…発信機?
でもニックは、あの場所は圏外だと言っていたけど…?
そう思いつつ尋ねる。



「…あの、スマホは…圏外だったのではないですか?」



「いいえ、使える状態でしたよ。」
「お渡しする時にも、簡単にお伝えしましたが…」
「あのスマホは、風紀財団の技術による特別仕様ですので…特殊衛星を通じて、殆どの場所で通じます。」
「当然、発信機も問題なく使えていました。」



「…そう、だったのですか…。」


確かに特殊なスマホとは聞いた覚えがあるけれど
…そんなに高性能なんだ。
やっぱり…スパイ映画とかで出てきそうな物だったのね。
そう感心していると…。





「今回…ニックが…何とか優衣さんと二人になれる機会を、狙っている様なので…」
「“24時間体制でモニタリングをするように”と恭さんに指示されていました。」

「ですので、恭さんから…優衣さんが居る場所の、詳細の照会があった時も…」
「直ぐに、恭さんのスマホに優衣さんの居場所のデータを、送信する事が出来たのですよ。」




(…っ!…)



草壁さんの言葉を聞いて、
ハッとして恭弥さんの方を見る。

…が、恭弥さんはチラリと私の視線に、
自分の視線を返しただけで…無言のままだ。




と、いう事は…
恭弥さんは、偶然、ニックと私が居た場所を見つけたのではなく…
事前に…今日のような事がある事を想定し
草壁さんに指示をしていたんだ。


…で、ニックが鬼ごっこを理由に、
私を半強制的に拉致した事に気が付いて…
私の居場所を連絡するように、草壁さんに伝えて…
その情報を元に…私を探してくれたんだ。




やはり、恭弥さんは“何もアイデアが無い”
…なんて事は無かったんだ。

色々と考えを巡らし、様々なケースに対応出来るように
…事前に、色々と手を打っていたんだ。

本当に、考え無しで行動していたのは
…私だけ、だったのね。




情けないやら、申し訳ないやら
…色々な感情が湧き上がって来た。


小さな声で…



「ご迷惑をお掛けして…ご心配をお掛けして……申し訳ありませんでした。」

と謝る。



何も言わない恭弥さんを確認して
…草壁さんが、気を遣い返事を返してくれる。



「兎に角、御無事で良かったです。あのスマホがお役に立って何よりです。」
「今後も念の為、どうか肌身離さず持って居て下さいね。」



「…はい。分かりました。」


シュンとしつつ…答えた。







その後、暫く車の中では静かな音楽が流れているだけ…
恭弥さんは、草壁さんには何度か話し掛けたけれど
私には何も話し掛けて来ない。

…もしかして、怒っているのだろうか?




先程、ニックに襲われそうになっている時に
助けてくれた時は…優しかったのに。

確かに、叱られて当然の事をしてしまった私だけど…
ニックが、あんな事を考えているなんて
…気が付いていたのなら…
ハッキリ教えてくれたら良かったのに。

そうすれば、私だって
あんな風に連れて行かれる事は断固拒否出来たかもしれないのに。

どうして…
具体的に教えてくれなかったのだろうか?




心の中でそんな事を悶々と考えて…
チラリ、と恭弥さんを何度か見ていた。

けれど恭弥さんは…寝ているのか、
単に休んでいるだけなのか不明だけど、目を閉じてしまっており
ロンドンのホテルに着くまで…そのままだった。









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あきゅろす。
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