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虹の彼方 85





自分の全ての企みがバレていた事と
目の前に立つ恭弥さんの放つ殺気のせいで
口を利けなくなったニックは…
真っ青な顔で…ガタガタと身体を震わせている。

見るからに…哀れな姿だ。



そんな様子のニックを、相変わらずの冷たい目で
見ていた恭弥さんが…言葉を掛ける。




「流石に、言い訳のひとつも出て来ないようだね。覚悟が出来た…という事かい?」




(…っ!!…)





それを聞いたニックが、再び必死な表情になり叫ぶ。


「…た、頼むっ!!ぼ、僕に出来る事なら…な、何でもするから…命だけは助けてくれっ!」
「も、もし…助けてくれるなら、本当に…な、な…何でもするっ!!」






必死の形相で叫ぶニックを
暫く黙って冷ややかな視線で見ていた恭弥さんが

…低く冷たい声を掛ける。




「本当に、何でもするのかい?」




「…あ、あぁ!!何でも、言われた通りにするっ。」
「そ、それに。…命以外なら…何でも持って行ってくれ!!」

「馬でも何でも…好きに全部持って行ってくれて構わない。」
「他にも…僕に出来る事なら、何でもする!約束するっ!ほ…ほ、本当だっ!」




あれ程、馬が大好きで…大金をつぎ込んでいる自慢の馬でも
好きに持って行ってくれ…と言う所にニックの必死さが表れている。

先程まで、酷い目に合っていたのは事実だけど
…少しだけ、ニックが可哀相に思えて来た。

…恭弥さんは…
ニックをどうするつもりなのだろうか。










「そう。なら、先ずは…君が、昨年の馬の不正裏取引で、偶々得た情報を渡して貰おうか。」




「…っ!…。…ま、まさか…あれが目的なのか?…あんなの、一般人が手に入れても危険なダケだぞっ!」
「持っている事がバレたら…それこそ命の危険があるぞっ。」




「…御託は良い。…その情報の在処を教えなよ。」





淡々とした冷たい口調を変えない恭弥さんの様子に
観念したのか…
ニックが一度溜息を吐いた後に語り出す。



「………。…僕の寝室の…冬物クローゼットの一番奥の壁に…壁と同じ色の封筒に入れて貼り付けている。」



「その1か所だけかい?他に分散したりコピーを作ったりは?」



「…1か所に…纏めて置いてる。あ、あれは、危険な情報だからな…恐ろしくてコピーなんて作れないさ。」
「僕だって…欲しくて手に入れた物じゃないんだ。…偶々、見つけた物なんだ。」
「…あんた…あんな物を手に入れて、どうするつもりなんだ?」









「君の質問に答える気はないよ。」




「…ハッ…。どうやら…レディ・ユイの婚約者は、普通の日本人貿易商じゃないみたいだな。」
「僕は…とんでもない人物を自分の館に招いたようだ。」




ニックが自嘲気味な言い方で話しつつ…
チラリ、と私の方を見た。

ニックの言葉を聞いて、恭弥さんが口を開く。





「あぁ、その事だけど…今日の出来事及び僕達の事は、全て綺麗に忘れて貰うよ。」
「…もしも…自力で忘れる事が出来ないのなら、強制的に忘れて貰う方法もあるけど。」




「…っ!…」




恭弥さんの言葉を聞き、
蒼褪め、焦った表情になるニック。




「…い、今のは、ひ、独り言だ!いや、違う…。…ええと…な、何の話をしていたんだ?」
「ぼ、僕は…此処で何をしていたんだ?…君達は…ええと、誰だったかな?…中国人かな?」




慌てて…“僕は全てを忘れました!”という
白々しい演技を始めたニックを
相変わらずの冷たい目で見つつ…




「もし、君が“何かを思い出したり”“誰かに想い出話しを一言でも話したり”した時は…」
「その時が、君の寿命の終わりだと覚悟するんだね。」




(…っ!!…)

「わ、解った。…僕は記憶力が悪いから…直ぐに全てを綺麗に忘れるだろうし…」
「それに…ぜ、絶対に思い出したりも…しない。…神に誓って、絶対にこの約束を守るっ!」




「自分の身が可愛いなら、その言葉を一生忘れない事だ。」




…良かった。どうやら、この様子では…
恭弥さんは、これ以上ニックを痛めつけるつもりは無いようだ。

ニックをあまりにボロボロにしてしまっては
この後に色々と、言い訳に困る事になるかもしれないし
今日の事を、ニックが誰かに話したりする気が起きない程度に
恐怖を味わって貰えば…それで良し、という所だろうか。











その後…私は、鬼である恭弥さんに見つかった事にして
湖の湖畔の小屋に制限時間のギリギリの時間に戻った。
(実際、見つかったのだけど)

ニックは、約束の時間内には戻れず
…皆が心配している所に漸く戻って来た。



時間内に戻れなかった言い訳として…

『森の中の木に寄り掛かかり休んでいたら、その木が腐りかけていた為…』
『木の幹や枝が崩れて、背中や腕に直撃して来て、一旦下敷きになった。』
『…が、何とか自力で脱出して来た。』

…という説明だった。






事情はあっても、ルールはルールという事で
ニックは鬼の言う事を聞く事になった。

ションボリとして、元気がなくなったニックを見ても
自分の領地内で、思いがけずに打撲という負傷をしたからだと思われ、
特に誰にも怪しまれる事は無かった。




鬼ごっこの後に用意されていた、アフタヌーンティーは…
恭弥さんの仕事の都合で
“急にロンドンに帰る必要が出来たので、お先に失礼します”
と皆様に伝え、断り…
一旦館まで帰った後に、急遽ロンドンに戻る事にした。



私達が、直ぐにでも此処から去るつもりだと解ったニックは
少しホッとした表情をしている。





今回の参加者や、館の主であるニックとも表面上は笑顔で挨拶をし…
恭弥さんと一緒に、
少し早い速度の乗馬で馬を走らせ城館に向かって帰る。

途中、恭弥さんは草壁さんに、今回の首尾を簡単に伝え
“直ぐに迎えに来るように”…と伝えているので
急いで帰りの準備をしないといけない。

私は、恭弥さんの乗馬のスピードに遅れないように…
必死に馬を走らせた。










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