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虹の彼方 84




必死に言った言葉を、無視されたニックが…
焦りつつ、更に言葉を連ねる。


「…なっ、な…。…き、貴様…話を、聞いてなかったのかっ…!」
「ほ、本当に…僕は警察内に顔が効くんだぞっ!」




怯えつつも、一生懸命に言葉を返すニック。
…それに対して…
相変わらずの…淡々とした口調で、恭弥さんが話す。




「本当は、最初の攻撃で、一気に咬み殺しても良かったんだけど。」
「だが、それでは優衣が…トラウマにでもなると可哀相だし、止めてあげたんだ。」

「それに…君には尋ねたい事もあるから、まだ生かしているんだが…」
「今の君の話からすると…生かして置くと後々、面倒な事になるかもしれないな。」

「…ねぇ…。」
「そこの崖から落ちて、全身打撲死するのと…誤って湖に落ちてしまうのと…どちらが好みだい?」

「今なら特別に、どちらか選ばせてあげる。」








「…っ〜!!…ど、どんな工作をするつもりか知らないが…ぜ、ぜ、絶対に…バレるぞっ!」
「…そ…それで…、一生監獄行きだぞっ!」




「日本は勿論…世界中、何処に行っても…」
「僕を捕まえる事が出来る警察機関も、国家機関も…無いよ。」






ニックの言葉を聞いて、
ごく当然のように、サラリと凄い事を答える恭弥さん。


…本当なのだろうか…?

でも…恭弥さんなら、十分にあり得る話だと…思う。
だって風紀財団のネットワークは、世界中にあり
各国の表も裏も、両方と…しっかり繋がっているらしいし。







「…き、貴様…。一体、何者なんだ…。」



「その質問に答える義理はないな。それより、さっさと…死に方の希望を選びなよ。」



「……くっ……。」






話をしつつ、徐々にニックに近づいて行く恭弥さん。
怯えたニックが地面で震えている
…その目の前まで行き、ピタリと歩みを止めた。

そのまま…じっと…
酷く冷たい氷のような目でニックを見下ろす。



(…っ!!!…)




目の前で、殺気を漂わせた
恭弥さんの、酷く冷たい目に囚われたニックは
先ほどまで、何とか話が出来ていたのに…
今は…全身がガタガタと震えて、口も利けないようだ。




それでも…
何とか逃れようという本能はまだ働いているのだろう…
僅かに…ジリジリと後ろに身体をずらしている。



「それ以上、下がると…崖から落ちるよ。」



冷たい口調で、恭弥さんが告げる。





その言葉を聞いて、ハッ!として
後ろを確認するニック。



そして…何かを覚悟したように、突然大声で叫び出した。



「……わ、解った…。ぼ、僕が…悪かった…!!…あ、謝る…よ…。」

「レ、レディ・ユイ…。さ、さ…先程は失礼した。…どうか、許して…欲しい。」






「…………。」


ニックの言葉を聞いても、何も返事を返さない恭弥さん。
じっとそのままニックを見ている。




ニックは、慌てて次の言葉を連ねる。



「…た、頼む…!!もう二度と、こんな事はしないから…助けてくれ!」



冷や汗をかきながら、必死に懇願するニック。
それを、相変わらずの冷たい目で見つつ
…恭弥さんが口を開いた。





「君が、優衣に手を出そうと行動を起こしたのは…昨夜に続いて、二回目だね。」



(…っ!!…)




ニックがギクッとして身体を震わせる。
…昨夜…?
二回目って、どういう事なのだろうか?


そう思いつつ黙って成り行きを見守る。





「君は…館内の鍵を自由に扱えるのを良い事に」
「…夜中に、優衣の部屋に侵入しようとしていたよね。」




「……っ……。」




ニックは、何も言い返せずに恐怖の表情を浮かべている。
という事は…恭弥さんの言っている事は本当なのだ。

昨夜…夢の中に旅立つ直前に
何かドアの方で物音がしたような気がしたのは…
あれは、ニックが私の部屋に侵入しようとしていた音だったのか。

それで恭弥さんは
“ドアチェーンも掛けて寝るように”と忠告してくれたんだ。







「君が何を考えて、自分の館に僕達を招待したのか…僕が、気が付いていないとでも…思ったのかい?」

「僕に向けているドス黒い感情も、優衣に向けていた邪な感情も…全てはダダ漏れで…解り易過ぎる程だったよ。」




「……くっ……」




全てを見透かされていた事が解り
ニックが、何とも言えない悔しそうな表情をする。






やっぱり恭弥さんは、最初から…
あのパーティの時に不機嫌になった頃から…
何もかも気が付いていたようだ。
だからこそ、ニックの招待を受ける時も
ココに来てからも…ずっと不機嫌なままだったのか。

ニックの悪しき企みには、とっくの前に気が付いていたけれど
情報収集の為に仕方なく来た…という事なのだろう。






…でも、よくよく考えれば…
“あの雲雀恭弥”が…
そんなに簡単に、誰かの企みに引っかかるとは思えない。
しかも相手はニック…裏に若干の繋がりはあるものの
あくまで彼は一般人の、貴族のお坊ちゃんだ。

女性にモテて、チヤホヤされるのダケが
生き甲斐のようなニックの考えている事ぐらい
恭弥さんには、お見通しで…当然と言えば当然だろうか。





そう考えると…
改めて、自分の不甲斐なさ、情けなさが浮き彫りになる。
これでも一応、裏社会で名を知らない者が居ない
マフィア・ボンゴレの…ボスの秘書なのに。

今までは安全なアジト内で
危険とは無関係な、書類仕事しかした事がないとは言え…
今回の、この有様は…あまりに酷いよね。


確かに、恭弥さんの言うように
…私には警戒心という物が、あまりに無さ過ぎた。

自分が属している世界がどんな世界なのか…
今の、自分の任務内容の厳しさとか…
色々な事が、本当の意味では認識出来ていなかったようだ。











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あきゅろす。
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