[携帯モード] [URL送信]
虹の彼方 83





「…………。」




私は…幻覚でも見ているのだろうか?

驚いて少し茫然としたまま…声を出せずにいた。





私の足を掴んだまま、地面に転がっているニックも
同じく、音がした方角を見て驚いている。

…驚きつつも、何とか声を絞り出すニック…




「…ど、どうして…」





「僕の婚約者に手を出すとは…随分、良い度胸をしているね。」
「…相応の覚悟は、出来ているんだろうね?」








「…恭弥、さん…」



まだ遠い場所だけど、林の木の陰から現れたのは
紛れもなく恭弥さんだった…

確かに…間違いなく、彼の声…だ。

そう認識した途端に
一気に安心感が私の全身を支配した。








「…何故…貴様が、ココにいるんだっ!」
「どうやって…辿り着けたんだっ!」





叫ぶニックの言葉は無視し…
冷たい声で言い放つ、恭弥さん。



「優衣の足を掴んでいる、その汚い手を離しなよ。」



「ハッ!誰が離すもんか!」



「大人しく手を離せば、痛い目に合わずに済んだ物を。」
「…優衣、そのまま動かないで。」





突然の事で、恭弥さんが何をしようとしているのか
訳が解らないけれど…
取り敢えず、しっかり頷いて答える。


「はいっ」






私の返事を聞いた直後
恭弥さんの持っているトンファーから
何か細い鎖のように見える物が、凄い勢いで飛び出して

…ビシッッ!!…

と、ピンポイントでニックの腕に激突した。




「グワッッ〜!!!」




恐らくは、あまりの痛さで、まともな声が出なかったのだろう
…ニックが私の足から手を離し…
低い変な呻き声を上げつつ、横にゴロゴロと転がる。




…凄いっ!!…
あんなに遠くからなのに、当てるなんて。

恭弥さんが立っている位置は
まだ、私とニックがいる場所からはかなり離れている。


それなのに、私の足を掴んでいるニックの腕に
ここまで正確に当てるなんて…凄すぎるっ!

…と、いう事は…。

先程…私が襲われそうになってる時に
ニックの背中を襲ったモノも…
恐らく…恭弥さんの攻撃なのだろう。







驚いて、硬直したままでいると
こちらに向かって歩いて来ている恭弥さんから
…声がかかる。



「…優衣、こっちにおいで。」




その声を聞いて、漸くハッと今の状況を思い出し
…バックを持ち、急いで恭弥さんの元へと向かった。

小走りに走りつつ…
色々な感情が一気に押し寄せて来て
少しパニックになった。




小さく走った勢いのまま
無我夢中で恭弥さんの胸の中にポスンッ!と飛び込む。

その場で足を止め
軽い衝撃と共に飛び込んで来た私を
受け止めた恭弥さんが…


優しく頭にポンッと手を置きながら…


「来るのが遅くなって、悪かったね。」
「…怪我は、ないかい?」





その声を聴いて…
先ほどまでの恐怖から解放された大きな安堵感で
…胸が一杯になりつつも、何とか答える。



「…はい…大丈夫、です…。」



「そう。良かった。」
「仕上げをして来るから…君は、この場所で少し待ってて。」







…仕上げ?仕事の事なのだろうか?
何をしようとしているのかは解らないが
兎に角…恭弥さんの邪魔をしてはいけないのは解る。

素直に頷いて返事をした。




「はい。…解りました。此処に居ます。」



「うん。…行ってくるよ。」



そう言って、その場に私を残し
…恭弥さんは、再びニックの居る所に向かって歩き出した。

相当に痛かったのだろう
ニックはまだ地面で転げまわっている。












ニックが未だに、転がり周って痛がって居る場所に向かって
ゆっくり…歩いて行く恭弥さん。

…でも…

今の恭弥さんは、つい先ほどまでとは随分違う印象だ。




先程、私の安否確認をしてくれた時とは、真逆の雰囲気だ…
…とても怖い…恐ろしく感じるオーラを出している。



…恐らく、これが…

恭弥さんの“殺気”という物なのだろう。






以前、ツナに…

『ヒバリさんが、本気で殺気を放つと…』
『普通の人なら怖すぎて立っていられないレベル。』

『殺気を受けただけで、全身に冷や汗をかき…』
『同時に…震えが止まらず、全身が凍りつきそうな程に恐ろしい。』

と聞いた事がある。






こんな恭弥さんを見るのは…初めてだ。

私に、殺気を向けられている訳ではないのに
…こうして傍で見ているだけなのに…
ゾクリッ!と激しい悪寒が全身に走り抜け…
足が、怯みそうに感じる。


自然と身体が震えそうになり
…思わず、自分で自分の身体を抱き締めた。





…正直…

これは…見ているだけで、十分に怖い…。








恭弥さんが歩きながら、落ち葉を踏み締める
ザクッという音に気が付いたニックが
…ハッ!としてそちらを見る。


…と…

見る見る顔が蒼ざめて行くのが
私の位置からでも、ハッキリ分る程に恐怖している。



「…ッ!!…」
「…き、貴様…。こんな事をしてタダで済むと思うなよ!」


明らかに怯えているのに…まだイキがっているニック。





それに対して
…低く、とても冷たい声で返す恭弥さん。



「…それは、僕の台詞だ。」
「優衣に手を出して…無事で居られると思うの?」

「君のやった事は、万死に値する。」





「……っ!……」





恐怖から、顔が引きつったニックが
ジリジリと後ずさりしつつ…何とか声を出す。


「…ぼ、…ぼ、僕に手を出すと…」
「地元警察や、ヤード(ロンドン警視庁)が黙っていないぞ!」
「僕は…警察内に、…う、裏からでも手を回せるんだからなっ!」

「に、二度と…イギリスでは…」
「商売が…出来ないように…してやるぞっ。」






ニックの言葉は無視し…
移動しつつ、冷たい口調で話す恭弥さん。




「…遺言は、それだけかい?」










[*前へ][次へ#]

18/28ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!