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虹の彼方 80





ニックは…自分の領地内だけの事はあって
この湖畔の地形にも詳しいようだ。

暫く歩いて、小屋のある場所からは結構離れたな…
と思う所まで行った先は
周囲の地形より、少し小高くなっている丘のような場所だった。




周囲はあまりうす暗くない、見通しの効く明るめの林。

片側は低い崖…のような感じになっており、
そこから木々の間を縫って、湖の方がチラチラと見えるのだけど
湖畔の小さな歩道も、ギリギリだけど見える。


でも、私達が居る場所は下の道より高くなっているので
恐らくは結構近くに来ても、じっとして音を立てさえしなければ
見つからないのではないだろうか。

つまり…鬼が来たら私達からは発見出来るけれど
鬼の方からは発見出来ない…という事になる。





下は広葉樹の落ち葉が敷き詰められており
天然の絨毯のようになっている。

最近、お天気が良かったせいもあり
落ち葉が渇いているので
隠れるには、なかなか快適場所なだと言える。







ニックが、自分の上着を脱いで落ち葉の上に敷いて…


「レディ・ユイ。…さぁ、こちらにどうぞ。」

と、手を取って、その上に座らせてくれた。




「…有難うございます。」

お礼を言って、遠慮なくその上に座らせて貰う。
ニックは、私の直ぐ隣の落ち葉の上に直接座った。








「ここなら、そう簡単には見つかりません。どうか、安心して下さい。」

とても、にこやかな笑顔で言われる。




「はい…そのようですね。」



「ココは、僕が小さい頃に見つけた秘密の場所でしてね。」
「お気に入りの場所のひとつなんです。」



「明るいし、落ち葉が敷き詰められていて…良い場所ですね。」



「そうでしょう?…レディ・ユイ。貴女と共にココに来れて、本当に良かった。」
「これで…暫くは二人っきりですね。」



「…ええ…。」


ニックの“二人っきり”という言葉に
…何故か、少し嫌な予感がしたが、気のせい…だろうか。







その後…ニックの幼少時の想い出話や
例によって馬の自慢話などを次々に話すのを
相槌を打ちながら聞いていた。

結構、やんちゃな少年時代を送ったようだ
…きっと、ご両親はとても心配しただろうな…
そんな事を考えつつ聞く。



暫くの間、そうして会話をしていたが、
一通り、色々な話をして満足したのだろうか

…ニックが、突然少し大人しくなった。








一度、沈黙し
…何かを考えるように下を向いていたが…
再び顔を上げて、話し掛けて来る。




「僕は…アスコットで貴女にひと目惚れをして以来、ずっと…こんな風に、ゆっくり話をしたいと思っていたのです。」
「願いが叶って、本当に嬉しいです。」



「また…そんな事を…ご冗談はお止め下さい。」
「貴方には、随分と多くの女性の“お友達”がいらっしゃると、伺いましたよ?」



「…そんな噂、誰から聞いたのですか?」
「どうせ、僕の悪友の中の誰かでしょうけれど…誤解ですよ。」
「確かに、僕は友人は多いですが…でも、皆…本当に只の友人ばかりです。」



「…本当に?」



「勿論、本当です!…その証拠に、僕は未だに独身のままだ。」



独身である事は、別に証拠にはならないと思うけれど
…と内心で思いつつ、一応、笑顔を見せる。









「レディ・ユイは…あの素敵な婚約者と…本当に結婚するのですか?」


…?…。

ニックは何が言いたいのだろうか?
そう思いつつ尋ねる。





「…はい、勿論そのつもりですが。」



「…そうですか。彼は、大変に魅力的な人物だと…僕も思います。」
「ダンスも乗馬も…何もかもが…僕よりも遥かに素晴らしい。」
「彼に会うまでは…正直、こんな日本人がいるなんて夢にも思いませんでした。」




ニックの恭弥さんに対する感想を聞き
…少し笑みが漏れる。

確かに、あんなに何でも完璧に出来てしまう人は…
日本だけでなく、英国でも少ないだろう。
…いや、世界中探しても…そう沢山いるとは思えない。



雲雀恭弥という人物は…
その存在そのものが…スーパー・レアな…
“滅多にお目に掛かる事など出来ないレベルの人”
であるのは確かだと思う。






「本当に…彼は凄いです。…何もかもが驚く程に完璧なんですよ。」



「やはり、そうなんですね。」
「…ねぇ、レディ・ユイ…。貴女は、そんな彼と結婚して幸せになれると思いますか?」



「……それは、どういう意味ですか?」









「気を悪くしないで、聞いて下さいますか?」
「つまり…あの様に完璧すぎる人物と一緒に居ると…その、窮屈なのではないですか?」



「…窮屈?いえ、別に…その様に感じた事はありませんが。」



「本当ですか?でも…これから先、結婚した後に大変な事が多いかもしれませんよ?」



「それは、まだ分りませんけれど。」
「でも、私達はきっと上手く行くと信じています。」







「…そうですか。…あの…。」
「何度もしつこい様ですが…今なら、まだ思い直せるのですよ?」



「それは…つまり…彼との婚約を破棄しろ、と仰っておられるのですか?」


何度も、恭弥さんの事を否定するニックの様子を
少し怪訝に思いつつ…尋ねた。





ニックは…答え難そうにしつつも…


「…あ〜、…その…。ええと…。つまり、彼と結婚するのは止めて…」
「“僕と付き合うのはどうですか?”…と言いたいのです。」




「……えっ?」



ニックは突然、何を言い出したのだろうか
…あまりの言葉に唖然とする。








驚いた顔の私を見て、苦笑しつつ話すニック。


「…すみません。驚かせましたよね?でも、僕は真剣なのです。」
「本当に…貴女にひと目惚れしてしまったのです!」
「…どうか、この想いを受け止めて頂けないでしょうか?」



そう言いつつ、私の手を両手でガシッと掴み
自分の胸の前に持って来るニック。



「…………。」



突然の事に困惑する。

…が、この話を受けて良い筈はなく…答えは決まっている。





「申し訳ありませんが…貴方のお気持ちに応える事は出来ません。」


ややキッパリとした言い方で返答をする。





と…ニックは…深い溜息を吐き。


「…どうしても、ダメですか?」



「はい。ダメです。」

再度、キッパリとした態度で返答をした。







すると…ニックは握っていた私の手をゆっくりと離して
…苦笑しつつ話す。



「…ハハ…随分とハッキリ仰いますね。」
「…僕は、そんなに…魅力がないでしょうか?」





ガックリと項垂れて話すニックの様子を見ると
少し可哀相になるけれど…

ココでOK等出せる筈もないし、心を鬼にして
毅然とした態度で、しっかりとニックの目を見詰め返した。










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