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虹の彼方 79




翌朝は、良く晴れた絶好の乗馬日和だった。

ニックの招待客である方々全員が参加しての、乗馬&ピクニックは
各自、ニック自慢の馬を選ぶ所からスタートした。




私は、栗毛色の優しい目をした馬を選んだ。
ニックの説明によると
気性も大人しい馬なので、お勧めだという事だった。


恭弥さんは、大変に毛並が美しい黒馬を選んだ。
見た目には美しい馬だけれど
少々気が荒く、乗りこなすのが難しい馬らしい。

“気性は荒いですが、貴方なら問題なく乗れるでしょう”
と、私と同じくニックに勧められ
特に異論を言う事なく、その馬にしたようだった。




全身艶々で真っ黒で美しい馬に、
同じく黒髪艶々の…恭弥さんが騎乗する。

着ている乗馬服も上品な黒だし
…全てが黒で纏められており、何とも雰囲気がある。



この服は、ニックの牧場に行く事が決まった後に
ロンドンのお店で乗馬用に買って来た物だ。

私は、明るい茶色系の服を選んだのだが…
恭弥さんは、お店の主人が
『貴方には、これが絶対にお似合いです!』と
一生懸命に勧めて来た服にした。

それが…今、着ている物なのだけど
本当に、とても似合い過ぎて怖いくらいに
…凄く!恰好良い。

何かの物語に出てきそうな“黒騎士”という感じだった。







まるで映画の中の黒騎士のような、凛々しい姿の恭弥さんを見て
参加者のご婦人達が騒いでいる…

ワイワイと多少興奮しながら写真を撮っては、大喜びをする。
周囲で、パートナーの様子を見ている紳士達は
少し苦笑しつつも…
『確かに、これなら写真を撮りたくなるのも頷ける』
という感じで、微笑ましそうに見ている。



…皆さんの様子を見て…
私も便乗し…スマホでこっそり写真を何枚か撮った。

だって、こんな姿…
“あの雲雀さんが、黒馬に騎乗している所”
なんて、絶対にレアに違いない!

…帰国したら、お土産話にもなりそうだし
この写真を見た、みんなの驚く顔が浮んで来る…
良い想い出写真をゲット出来たな、と…小さく微笑んだ。








全員の馬が決まり、準備をして早速遠乗りに出掛けた。

時に少し馬を走らせ、時に常足でゆっくり歩かせながら
参加者の皆さんと適度に会話をしつつ時間を掛け
周囲の景色を楽しみつつ
ニックの所領地の端に位置する、小さ目の湖の湖畔まで移動して行った。



そこには、湖で釣りをする時や遊ぶ時用の小屋もあった。

小屋と言っても、ちゃんとキッチンやお風呂や宿泊施設等も備えた
そこそこの大きさの建物だ。

ニックの館の使用人達が先に来ていて、
そこを拠点にし
湖の湖畔の中でも草が綺麗に生い茂った景色の良い所に
ピクニック形式のランチの用意をして待っていた。




少し早めのランチを頂く事にして
皆で、サンドウィッチやチーズを堪能する。

穏やかなお天気の下での、
野外でのお食事はとても美味しく感じる。

なんて贅沢な気分になれる時間だろうか。
半分仕事を忘れ、しっかり楽しんでしまっている私が居た。







ランチの後は、湖にボートを浮かべて遊んだり、
湖畔でおしゃべりに花を咲かせたり…ゆっくりまったりと時間が過ぎて行く。

私も、ニックと、その友人達に誘われて何度かボートに乗った。
1つのボートに女性が2人乗り、男性が1人で漕いでくれる。
ボートは3台しかないので
少しクルリと湖を周り暫くしたら戻って来る感じだ。

恭弥さんも、ご婦人達にボートを漕いでくれるように熱心に頼まれ…
やや仕方なさそうに…
2回だけ応じて、ボートを漕いでいた。










ボート遊びにも飽きて来た頃
まだ…アフタヌーンティーの時間までは暫くあるし…
という事で
ニックの発案で…鬼ごっこをする事になった。


こんな広い野外で鬼ごっこなんて
…鬼が、絶対に不利なのではないだろうか?
正直驚いたけれど、ニックも、その友人達も大賛成でノリノリだ。
少々悪ふざけ気味な所が、ウケているようだった。




範囲は、湖の湖畔を中心にした場所…という大雑把な決め方。
鬼になる人が、少々可哀相なので
特別に特典を付ける事にした。

“鬼に捕まった人は、鬼の言う事を1つだけ何でも聞かなければならない”
…という物だ。



今日の参加者はニックを合わせて全部で13人だ。
この中から男性3人が鬼になる事になり
その場で作った、即席のクジを作り男性陣だけで引く。

…と、何と…
3人の中の1人の鬼に恭弥さんが選ばれてしまった。


それを見て…ご婦人達の間から
『是非、私を捕まえて♪』と黄色い声が飛ぶ。

が、恭弥さんは澄ました顔のまま聞こえない振りをしていた。
…この様子では
あまり鬼ごっこには気乗りではないみたいだし
もしかしたら…
真剣に探したりしないで適当な所で休んでいるつもりかもしれないな…
と、そんな事を思い、少し苦笑する。










いよいよ、鬼ごっこが始まった。
制限時間は1時間半、というトンでもなく長い時間の鬼ごっこだ。

1時間半の間、隠れ通して鬼に見つからなければ
自主的に2時間以内に小屋まで戻って来る事になっている。

この時間内に戻れない場合も
鬼に見つかったのと同じ扱いになり
3人の鬼の言う事を聞かないといけない。

つまり必然的に
移動に30分以上かかる場所へは行けないという事だ。


馬は使ってはいけない事になっており
徒歩で移動しなければならない。
これでは、逃げる方も
余程良い場所を探して隠れていないと大変そうだ。






鬼役の人達は、小屋の中に入り
湖方面に背を向けて10分間待つ事になっている。

広い場所だし…鬼の目のつかない
茂みや林がある所まで移動するだけで4・5分は掛かりそうだ。

茂みや林の中に入れば、今度は足下が悪いし
少しの距離を移動するだけで、割と時間が掛かるので
最後に戻る時の事を考えると、どこに隠れるかは…結構難しい。

それに…少し動くだけで落ち葉の音がガザガザと音がするし
鬼に見つかりそうになったからと言って、移動しようとすると
その音を聞きつけて逆に見つかってしまいそうだ。






う〜ん…これは、思った以上に大変な鬼ごっこだ。

そんな事を考えつつ
小さな木の多い茂みよりは、林の方が少しでも歩き易いだろうと考え
近くの林の中をウロウロして、隠れる所を探していた。




…と…  



「レディ・ユイ!」   

…急に、背後から声を掛けられて驚く。






声がした方を見ると…ニックだ。

驚いている私に近づいて来たニックは…



「ココは、直ぐに見つかってしまう。」
「僕が、良い隠れ場所を知っています。さぁ、行きましょう!」




返事を待たずに、いきなり私の手を取って
早歩きで歩きだしたニック。



突然の事に驚き…

「あ…あの…」

と、声を掛けるが…




「時間がありません。なるべく急いで!」

と、私の手を引いたままドンドン先を行く。




どうやら…
見つかり難い場所まで、案内してくれるつもりのようだ。

しっかりと強く手を握られていて離せないし
仕方なく、手を引かれている状態だけど
…相手は、今回のターゲットでもある。

上手く行けば、情報を聞き出す切欠になるかもしれない。
そう思い…大人しく付いて行く事にした。










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あきゅろす。
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