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虹の彼方 78





恭弥さんの、言いたい事は、解る……でも……。




両手首をしっかり押さえられている為、
全く身動きが出来ないまま、
頭の中で、ぐるぐると色々な考えが巡る。


自分の身体に、圧し掛かる体重の重さを感じつつ…
息がかかりそうな程の目の前で
恭弥さんの強烈な瞳に囚われたまま

自分の鼓動が、ドンドン早くなって行くのを
先程から…妙にハッキリと感じていた。





あまりにドキドキしている自分の鼓動を感じ
……余計に焦る。


…何か…何か、言い訳か、又は…
今の状況を変えられるような事を言うべきではないか…
と、頭の片隅では思うけれど
軽いパニックで焦っている為…何の言葉も出て来ない。








そんな中…
じっと、私の瞳を覗き込むように見ていた恭弥さんが
…目を閉じてゆっくりと、深呼吸をした。

そのまま、何事か考えるような素振りを見せる。
…どうしたのだろうか…
そう思いつつ、黙ったまま見守る。



再び…また、じっと私を見る。





そして…小さな溜息の後に…


「…優衣。君が何を考えているかは、解っている。」
「だけど…どんな理由があろうとも…君が深夜に、男である僕の寝室を訪ねた事実は変わらない。」

「君の取った行動は…女性としての嗜みを忘れた、軽はずみな行動だ。」








ピシャリ!とした口調で言われ…尤もな事だと項垂れる。


「…すみません、でした…。」




確かに…そう言われればそうだ。

幾ら信頼している相手であっても…恭弥さんも男性なのだ。
私は、そのような事を、今まであまり意識した事が無かったように思う。

つい…自分が、年頃の女性である事を忘れそうになる。
というか、その自覚が足りない…
という方が、合っているかもしれない。









人には、年齢や立場や性別等により…
気をつけるべき事や、注意すべき事がそれぞれある。

それは一般的には
マナーや諺(ことわざ)や名言として言われる事が多いけれど
それ以外にも…
昔からの先人達の知恵的に言い伝えられている事も多く
それらの多くは、決して…
馬鹿にして良い内容ではない事が多い。




例えば、今回の様な…
「男は狼だから、気を付けなさい」も、その中の1つだ。

まだ若くて、人生についてあまり解っていない
…私のような若年層向けへの“警告”的な言葉は多い。

それら、先人の知恵を謙虚に聞き
そこから真摯に学んだ行動をするべきなのだと…
今回、改めて思い知らさせた気がする。










思いっ切りシュンとしてしまった私を見て
恭弥さんが、再び言葉を続ける。



「君が…変な警戒心なく…くったくなく明るい態度で、色々な人に接する事が出来るのは…」
「基本的には、悪い事ではないと思っている。」



「…はい。」



「だが、もう少し…状況や相手によっては“疑う”とか“警戒する”という事を覚えなよ。」



「…はい…。」







そこまで話した所で…恭弥さんは
もう一度、小さく溜息を吐いた後に…
私の上から離れつつ、しっかり掴まれていた両手首を
身体を起こす為に、優しく引っ張ってくれた。



…よ、良かった…。


どうなる事かと…心臓が壊れそうになっていたけれど
…どうやら、これで解放して貰えるらしい…。


先程まで、しっかり掴まれていた手を離して貰え…
身体を起こして貰えた事に、ホッと大きな安堵を覚えた。




まだ、かなりドキドキしたまま…

“恭弥さんの言う事は尤もな事であり、非は私にある。
ちゃんとお詫びを言わなければ…”
…そう思い…
ベッドの上で正座した格好になり、項垂れたまま…謝る。




「あの…大変軽率な事をして、申し訳ありませんでした。」
「今度から、もう少し気を付けるように致します。」



「うん。…解れば良い。」



「…はい…。」








未だにシュンと項垂れたままの私の頭に
ポンッと、恭弥さんの暖かい大きな手が乗せられた。



「ニックから、どうやって情報を得るかは、僕も追々考えておく。」
「だが、明日もどんな場面があるか予測も付かないし…」
「結局は、その時々に応じて、臨機応変に対応しなければならないだろう。」
「今、作戦を立てた所であまり意味はない。」

「だから…今日は、もうお休み。」




「…はい。そうします。」






少し優しい口調で言ってくれた恭弥さんにホッとしつつ
ペコリと頭を下げ、ベッドから降りてドアに向かい

「…おやすみなさい。」

そう言って、ドアを開けようとしたら…


「…優衣…。」


名前を呼ばれたので、振り返る…


「はい。」




「君の部屋も…部屋の鍵以外に、内側からチェーンを掛けられるようになっているかい?」




そう言われ
開けようとしていた恭弥さんお部屋のドアを見る。

そこには、普通にお部屋の鍵を掛けるだけでなく
所謂、ドアチェーンという物も付いている。



「…はい。同じ物があります。」



「そう。なら…ちゃんと、そのチェーンも掛けて寝る事、良いね?」



「はい。分かりました。」


しっかり頷いて…再度、おやすみなさいを言ってから
恭弥さんのお部屋のドアをゆっくり閉めた。












自分のお部屋に戻り、恭弥さんに言われたように
ドアの鍵と、チェーンをしっかりしてからベッドに入る。




さっきは…驚いたな。

…初めて、あんな事をされ…正直、怖かった…。




でも、あれは…
私の為を思ってしてくれたんだよね。

生まれて初めて…
女性と男性の力の差を、まざまざとハッキリと知らされた。

自分で思っていた以上に
全く何の抵抗も何も出来なかった事は、正直かなりショックだ。

アジア系の男性に比べると
白人系、黒人系の男性達は更に力が強いと聞いているし
今後の欧州旅行でも、気を付けないと…
何時、何があるか解らないしね。





…そんな事を思いつつ…
ゆっくりと、夢の中に入ろうとした時に…


……ん…?

…何か、ドアの方で音がしたような…?





眠くなっている、ぼんやりした意識でそんな事を思ったけれど
その後、耳を澄ましても、何も聞こえない。

…きっと、少し神経質になっているのだろう。




そう思いつつ、今度こそ…

本当に夢の中に、ゆっくりと旅立った。











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