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虹の彼方 77





室内のソファーに座るように促され、座ると…
そこには白ワインの入ったグラスがひとつ。

どうやら、寝酒としてワインを飲んでいたようだ。


「君も、飲むかい?」


ワインを片手に聞かれたが…
ゆっくりワインを飲んで話す事ではないだろうと思い、断った。







恭弥さんは、ワインを一口飲んで…私の方を見て…


「…で、話って何?」


と尋ねて来るが…
少しご機嫌も悪そうだし、正直、言い難い。

でも、わざわざ訪ねて来て何も話さないのは、馬鹿な事だと思うし
それに仕事の事なのだし…

と、意を決して
部屋を訪ねた目的を達成する為に話を始める。






「…あの…。今回の、任務の事でご相談があり参りました。」
「今後、ニックとどのように接して、情報を得れば良いのか…解らないので。」
「恭弥さんに何かお考えがあるのでしたら、伺いたいと思いまして。」



「…その事か。それなら、僕にも特に良いアイデアは無いよ。」



「…えっ…?」



何時も、先の先を読み行動を起こす恭弥さんの言葉とは思えず
…驚いて聞き返す。





「僕も…こんな展開になるとは、思っていなかったからね。」
「流れに任せるしかないだろう。」



「…………。」




何だか、ちょっと投げやりに聞こえる台詞だ。
こんな恭弥さん…らしくないな。

そんなにニックの事が嫌いなのだろうか。
乗馬の時も、お食事の時も、必ずニックと一番離れた位置に行きたがっていたし。

余程、気が合わないのだろうか。








思いがけず、無計画である事を聞いて
なんと返事を返して良いのか分からずに…
無言で、ワインを飲んでいる恭弥さんを見詰めていた。

…すると…




「用は、それだけ?」



「…はい。」



「その為だけに、わざわざ深夜に僕の寝室を訪ねて来たのかい?」



「…?…。…はい。」





恭弥さんは、何が言いたいのだろう?
今ひとつ意味が解らない。

恐らくはキョトンとしてしまった私の顔を見て
恭弥さんが溜息を吐く。




「…全く、君は…。何も解ってないんだな。」
「以前から思っていた事だが…君は、警戒心という物が無さすぎる。」



「…すみません。」





何が言いたいのか良く解らないけれど
…今夜の恭弥さんは、お説教モードのようだ。

解らないまでも、取り敢えず謝った私を見て、
どうやら恭弥さんは、更に苛々した気持ちを募らせたようだった。

トンッ、とテーブルにワイングラスを置くと
ゆっくりと立ち上がり…




「ここまでヒントを言ってあげているのに…まだ、解らないようだね。」
「口で説明して解らないなら、別の方法で解らせてあげようか。」



「…え、あの?」








言われた意味が解らず
キョトンとしたままの私の前に恭弥さんが移動して来た。


(…?…)


どうしたのだろうか?と思っていると
急に、身体をひょいと姫抱っこ状態にされた。



(…っ!…)





何が何だか解らずに、驚いたままの私をスタスタと運び
やや乱暴に…ベッドにポスンと置かれる。


(…ぇ…べ、ベッドの上?)



と、驚く暇もない程に素早く…両手首をしっかり掴まれて
ベッドに縫い付けられるようにされたかと思うと
その上に恭弥さんが乗って来た。


ギシリッ、とベッドが軋む音でハッ!と我に返る。



(……っ!!……)






「…あ、あの…恭弥、さん…?」


私の目の前にある恭弥さんの顔は、とても嫣然とした笑顔。


何時もクールに見える蒼灰色の瞳が、今は違って見えて…
真っ直ぐに、私の瞳を射抜いて来る。

今まで、見た事の無い表情の恭弥さん…だ…。









突然の事と、今の状況が何なのか何となく察して
頭の中が軽くパニックになる。

逃げたくても、しっかり手首を掴まれているし
私の身体を挟むようにしている恭弥さんから、逃れる事は出来ない。

試しに、必死に力を入れて身動ぎしてみるが
…全く、ビクともしなかった。




「…………。」



黙って、私を見ていた恭弥さんが口を開く。



「暴れても無駄だよ。君の力では、絶対に僕には勝てない。」



「…………。」




そんな事は解っている…つもりだった。
けれど、実際にこうなって見ると見事にピクリとも動かず
その圧倒的な力の差を、ヒシヒシと感じた。





「流石に…今がどんな状況なのかぐらいは、認識出来ているようだね。」



「…………。」




こんな時に、どんな返事を返せば良いのか
…全く見当も付かない。

真っ直ぐに射抜いて来る恭弥さんの視線を、
ただただ戸惑いながら受けていた。






「…優衣…。男は、狼だという話を…聞いた事はあるかい?」



「…はい…。」



「意味は、知ってるの。」



「…知っている、つもりです。」







「そうかな。…本当に知っていたら…」
「深夜にガウン姿で、男の寝室を訪ねるような事はしないだろう?」



「…でも…あのっ…。」




部屋を訪れた相手は、恭弥さんなのであり
表向きには、恋人&婚約者なのだし…
今まで、ホテルで一緒のお部屋に寝泊まりして一緒に旅行をして来た相手だ。

それに…今回、部屋を訪れたのは…仕事の為なのだ。


恭弥さんだって、それは解ってくれていると思ったのだけど
…違うのだろうか?



心の中で、そんな事を思いつつ
戸惑いを隠せないでいた。






「自分が、どんな行動に出たのか…本当に解っているとは思えないな。」
「今の状況は自業自得だよ。…その自覚が、今の君に…あるかい?」




「……っ……。」














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