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虹の彼方 74




一方…
恭弥さんの方に寄って来るご婦人達のお誘いは、
ことごとく全て、断っているようだ。

誰が誘っても、ダンスに応じる事をしない恭弥さんの態度に…
ご婦人方が溜め息をついては…チラチラと見ている。


大勢の視線を完全無視し、
黙ったまま、シェリー酒を飲んでいる恭弥さんの態度は
私的には、不機嫌そうに見えるのだけど

ご婦人方には“クール”に見えるようで
余計に熱い視線が集まる…という結果になっていた。








ただ、例外として…、一度だけ、恭弥さんはダンスに応じた。

今回のパーティの主催者夫妻のお母様である
御歳を召した館の老婦人が、わざわざやってきて…

『是非、自分と踊って欲しい』と、言って来られた時だけは
にこやかな笑顔で応じ、
改めて恭弥さんの方からダンスを申し込む形にして…
老婦人に合わせたスローなダンスを披露した。



少し足が弱っている老婦人が、恭弥さんのリードで踊ると…
とてもスムーズな動きで、ゆっくりだが、優雅なダンスを踊る貴婦人に変身し
改めて、そのリードの上手さ、巧みさが分り
…周囲で見ている人々の歓心を買っていた。




本当の意味で、相手に会わせて
ダンスのリードをするのは、実はかなり難しい。

恭弥さんは、それをごく自然にやっている様に見えるが…
かなりの高等テクニックであると同時に
余程、相手への気遣いが出来ないと実現しない。

つまり…恭弥さんが、
それだけ老婦人の事を、心から気遣っている証拠でもある。



数年前に御夫君を失くされ、足も弱って来た為に
大好きだったダンスを踊る事がなくなって久しい老婦人が
恭弥さんのリードで、
本当に嬉しそうにダンスを踊っている姿を見て、
パーティを主催したホスト夫妻も、とても嬉しそうに見ている。
事情を知っている、周囲の方々の見る目も同じく嬉しそうだ。


恭弥さんの表情も…今は、とても穏やかで優しい。

慈愛を感じる眼差しで、老婦人を気遣いつつ
リードしている姿は、本当の意味での紳士だと言える。









こんな所をボンゴレの皆さんが見たら、きっとすごく驚くだろうな。

“とてもではないけれど…こんなの信じられない!”
と言われるだろうと思う。

でも…私は…。
今の私は、そこまで不思議な光景だとも思えなかった。




まだ完全には良く解らないけれど
…でも、きっと…
今、私が見ている恭弥さんも
“あの雲雀恭弥”と言われる人の本当の姿の一部なんだと思う。

今のこれは…完全に演技で、仕方なくしている訳ではなく、
きっと、恭弥さんの持つ優しさからの行動なのだろうと
…そんな風に思える。

だって…
恭弥さんの醸し出しているオーラが…空気が…
とても優しい色を奏でているから。

演技でしているなら、こんな事はない筈だ。




…ふと…
以前、恭弥さんが…私の食事作法を通じて、
亡くなった両親の事を、褒めてくれた事があったのを思い出した。

今の恭弥さんには、
あの時に感じた暖かい物と…同じような物を感じる。



きっと“本当の雲雀恭弥”という人は…
周囲の人々に見られている程には、冷たい人でも、
周囲の事に無関心でもないのだと…思う。

ただ…
自分の感情を、あまり表に出さないだけなのであり、
露骨に表現をしないだけであり
…解り難いだけ、なのだろうと思う。









懲りずに、次々に寄って来るご婦人方のお誘いを
バッサリと切るかと思えば…

一方では、こんなにも紳士的で優しい一面を見せる恭弥さん。

やはり、この人は内側に静と動と合わせ持つように
色々な面を、その内側に同時に併せ持つ人らしい。



人間誰しも、ある程度の多面性があるのが普通だけど

…恭弥さんの場合…
“まさか、あの雲雀恭弥にこんな優しい一面があるなんて”
と、皆が驚く程に…
普段見せている顔とは別の顔も持っている、という事なのだろう。










…そんな事を、つらつらと考えていたら
友人達に散々に言われ、
少し大人しくしていたニックが…再びダンスに誘って来た。

さっき、ニックの事を非難していた紳士達とも、
一度はダンスをした後なので、今度は誰も文句を言わない。

念の為、恭弥さんに視線を送ったら
…小さく頷いて、肯定の意を表したので
ニックのお誘いを受け、今度は…ワルツを一緒に踊った。




さっきも思った事だけど…
ニックはダンスにかこつけて接近し、より接触しようとして来るので
無駄に身体が密着し…かなり恥ずかしい。

しかし…
相手は今回のターゲットなのだ…と思い、
一生懸命に我慢をしている。







そんな中…
耳元に近い位置でニックが話し掛けて来る。



「レディ・ユイ…。貴女は、乗馬をなさいますか?」



「…はい、少しでしたら嗜みます。」



「そうですか、それは上々。」





如何にも嬉しそうな笑顔で
そう言った後…



「宜しければ、僕の牧場に貴女をご招待したいのですが。」



「……牧場、に…?」



「僕の自慢の馬達を、是非、貴女にお見せしたいのです。…如何ですか?」






「それは、有り難いお申し出ですが。」
「…あの、彼に聞いてみないと…何とも、その…」



ターゲット本人からの積極的なお誘いだし、
ここは乗るべきなのだろうけれど…

一応、恭弥さんの意向を確かめた方が良いだろうと思い、
チラリと、恭弥さんの方を視線で示した。




…と…。



「…あぁ。彼は貴女の婚約者…でしたね?」



「はい。」



「彼が了承すれば、貴女は来て下さるのですか?」



「…彼も一緒に…お伺いしても良いのでしたら。」



「それは、当然、良いに決まっています。」
「よし、ではこの後、早速お話をしてみましょう!」





そう嬉しそうに言った後…

如何に、自分の牧場の馬達が素晴らしいか
…滔々と語り出した。



ニックがとても嬉しそうに馬の話をするのを聞いて、
この人は、本当に心の底から馬が好きなんだな…と思った。

まるで子供の様に
キラキラと眼を輝かせながら、話をするニックが
…なんだか、少し可愛らしく見える。












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