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虹の彼方 72




ニックと一緒に、
私達の近くに寄って来た男性達から声がかかる…


「僕達も、先ほどのワルツで、お二人の素敵なダンスに釘付けになりました。」


「いや〜!あんなに絵になる優雅なワルツは…久々に見ましたよ。」


「貴方は、ダンス教室の先生でもしているのですか?」







最後の男性が、ちょっとお茶目な質問をしたのに対して
少し笑いつつ恭弥さんが答える。


「…いや残念ながら、僕は単なる貿易商ですよ。」




「貿易商?…なんだ、それは本当に残念だな。」


「貴方が、ロンドンでダンス教室を開けば…」
「大勢のご婦人が、大挙して押し寄せて、大繁盛すると思いますよ。」






傍で聞いていたご婦人が…


「それは素敵なアイデアですわ!私も絶対に通います!」



「…ほら…ね。こんなご婦人方で溢れかえる事、間違い無しですよ。」





笑いつつ話す男性に合わせ、私達も笑い…
その後、暫くバラバラに色々な会話を繰り広げていた。

良い感じで今回のパーティには溶け込めたけれど…
肝心のニックとはまだ話せていない。
直ぐ近くに来ては居るのだが、
なかなか直接会話をする事が出来なかった。








その集団のままワイワイと話を続けていたら…
再び音楽隊が、音楽を奏で出した。

今度の曲は、所謂ディスコダンス曲。
今、流れている曲は…
スウェーデンのミュージシャンであるABBA(アバ)の有名な曲だ。

最近の英国ではワルツのような正統派のダンスだけでなく、
ディスコダンスのようなノリの良いダンスも人気で
このようなダンスパーティで、
着飾った紳士淑女がディスコダンスを踊る様子は見ていて…なかなか面白い。








今度の曲は…流石に恭弥さんは誘って来なかった。

幾ら何でも“あの雲雀さん”がディスコダンスなんて
…踊る筈がないよね…。

そう、心の中で思いつつ眺めていたら…



「…レディ…お相手願えませんか?」



(…!…)



そう、声を掛けて来たのは…なんとニックだった。

…どうしよう。
接触したいと思っていた相手から誘われたので
是非ともお受けしたいけれど…
実は、ディスコダンスはあまり得意ではない。



「…あの…私は、このようなダンスには慣れてないのですが…。」


戸惑いながら、そう返すと…



「心配ご無用ですよ、レディ。」
「僕の真似をして曲に乗れば踊れます。ワルツより、ずっと簡単ですから。」




…う〜ん…本当に大丈夫だろうか。
隣の恭弥さんの方を、確認するように見る。

…すると…笑顔で


「君なら大丈夫だろう。…行っておいで。」

と言われた。


恭弥さんにも勧められたし
ココは1つ、ニックとお近づきになる為にも…
頑張ってみるべきよね…そう決心をする。




頷いてニックの手を取り、立ち上がり
…ノリノリで踊っている皆さんの輪に入る。

一度立ち止まり、
曲を聞いて身体でリズムを取るニック。

私も真似をしてリズムを取ってみる。




「…そう、その調子です。…そのまま、曲に合わせて…」




そう言いつつディスコダンスにしては、ややソフトな踊り方を始めたニック。
きっと慣れない私に合わせてくれているのだろう。

私も真似をして一緒に踊ってみた。

暫く踊るとリズムを捉えるにも慣れて、
自然と身体が動くようになった。…ように思う。



「…レディ。とてもお上手に踊れていますよ。」


そう笑顔で褒めてくれるニック。

目の前で、金髪碧眼王子様のニックに
こんな風に真顔で褒められると…ちょっと照れるな。









途中から参加した為、慣れて来た頃に曲が終わった。
汗を掻く程ではなかったので、丁度良かった。

ディスコダンスで発散した紳士淑女が、
その場で、満足気に話をし盛り上がっている。



私もニックの方を見てお礼を言う。



「…有難うございました。お陰様で何とか踊れました。」



「いえ、たいした事はありません。」
「貴女が…元々、リズムに乗るのがお上手なので踊れたのですよ。」
「…それより…、僕ともう一曲踊って頂けますか?」



「…えっ?…」








ニックの言葉が終わる前に、次の曲が流れ始めていたのだけど…
今度は、とてもスローな曲。

…これは…チークダンスの曲だ。


先程のディスコダンスの後なので、
少し休憩的なチークタイムを挟んだのだろう。



そう考えている間に、
私の返事を待たずに、ニックがサッと私の手を取り…
その手を少し強引に自分の肩に誘って、踊り出した。


(…!!…)


ニックは如何にも慣れている風に
…何時の間にか、私の腰に手を回している。

チークダンスなので自然と身体が密着する。
それも…かなり。

…ちょっと…これは…恥ずかしいかも知れない。




とても親しい間柄の男女なら兎も角
初対面に近いニックとチークダンスを踊るのは
私的には、かなりハードルが高い。

けれど、ニックは満足そうで…笑顔一杯だ。
もう踊り出してしまって、
今更断る訳にも行かないし…仕方ない、付き合おう。










恥ずかしさを抑えて、チークダンスを踊っていると…
ニックが耳元で囁いて来た。




「レディ…お名前を教えて頂けませんか?」



「…え…。…あの…優衣です。」



「“ユイ”…ですか。美しい響きの名前だ…貴女に相応しいですね。」



「…あ、有難うございます。」





何だろう…この感じ。
何と表現すれば良いのだろう…ええと…。

……そう!
まるで口説かれているように…感じる。



ダンスをしつつ、チラリとニックの表情を見る…
とても上機嫌でにこにこしている。

う〜ん…。
流石、女性慣れしているというか…。

こういうのを“スマート”とも言うのだろうけれど…
正直、私は…こんなのに慣れていないので、とても戸惑ってしまう。





ニックのペースに乗らないように気をつけないと…
と、心の中でそう思いつつも
ドキドキする心臓を抑える事は出来なかった。











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