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虹の彼方 68




何とかならないだろうか…と思いつつ参加した4日目。

周囲の人の会話の中で、
ロイヤルエンクロージャー専用のレストランの中の一角に
馬主達が大勢集まっている…という会話を聞いた。


ニックも馬主だし、もしかしたら居るかもしれない。
急いで恭弥さんと向かってみる事にした。






特設で作られたレストランの内、
ひとつのテラス席にそれらしき集団がいるのを見つけた。

この中にニックがいると良いのだけど…
そう思いつつ、さり気無く近寄って観察をする。



…と、隣の恭弥さんが、ごくごく小さな声で

「…右端のテーブル。」

と声を掛けて来た。



そう言われて、そっとそちらに視線を向けると…居た!
綺麗な金髪の髪が印象的な風貌の…ニックだ。

同じ馬主仲間の貴族の友人達と談笑中であるようだ。







恭弥さんと目配せをして…
ニックが座っているテーブルから3つ程離れていて
丁度、視界に入りそうな位置に座る事にした。


軽い食事と飲み物を頼み、ゆっくり過ごしながら
ニックの印象に残りそうな展開にならないだろうかと
頭の中で色々な算段をする。

が、無闇に馬主グループに話し掛ける訳にも行かず、
そのまま時が過ぎて行く。






そうこうしている間に、そのグループの数人が立ち上がり、
どうやら他の場所に移動するような事を話している。

…どうしよう。
流石に、移動先にまで付いて行くと怪しまれるだろう。

でも、まだニックがこの場を離れるかは判らないし、
様子を見るしかないだろうか。





そんな事を考えていた時、
隣に座っていた馬主のグループの全員が立ち上がり、
移動しようと動き出した。

…あぁ、今日はここまでだろうか…。


と、そう思っていたら…
隣グループの中の1人の男性が大きくよろめいて…
椅子に手を掛けた途端に、椅子ごと…ガタッーン!!と
大きな音をさせて倒れてしまった。

どうやら飲み過ぎで、酔いが回っているようだ。




周囲にいる
その男性の友人らしき人達は大笑いをして見ているだけ。

それを見て可哀相になり…


尻餅をついた格好で
うなりつつ腰の辺りを摩っている…その男性に近寄り、
ハンカチを差し出しつつ声を掛ける。



「…大丈夫ですか?…宜しければお使い下さい。」



と、その男性は驚いて…急いで立ち上がりながら
…服をパッパッと手で払い


「…有難う、優しいレディ。」
「僕は大丈夫です。お騒がせしてすみません。」


そう言って、急いで背筋を伸ばし
軽くシルクハットに手を添えて挨拶をする。

うん、流石…紳士の国イギリスだ。



それを見て、さっきまで男性を笑っていた周囲の友人達も
同じように、私に軽く挨拶をし
騒がせたお詫びをして…去って行った。






その後、一連の騒動を見ていたニックのいるグループも立ち上がり、
移動して行ったが…席を離れつつ、
こちらをチラリと見ていたニックと…軽く目が合った。

長く視線を合わせる事は無かったが、
先ほどの騒動のお陰で
…何とか、少しは印象に残る事が出来ただろうか。









結局、4日目はそれで終わり…

次の日の5日目は、遠くにいるニックを見つけはしたが、
ニックのいるテラス席に移動した頃には
あちらは別の場所に行ってしまっていて会う事は出来なかった。



でも、恭弥さんからは…4日目の接触で

「少しの間でも、あれだけ注目を浴びれば十分だ。」
「…あれは良い行動だった。」


と、倒れた男性を心配し
ハンカチを差し出した行為について評価して貰えた。




実は、あれは印象に残る為に計算して行動した訳ではなく
…ごく自然に取った行動だった。

結果的には、周囲に居る人達の印象に残る事になったのだけれど。

でも、まぁ…取り敢えず、第一段階としては良し
…という事だろうか。









ロイヤルアスコットが終わってから2日目の日に…
ニックが女友達と一緒に、
『ロイヤル・オペラ・ハウス』にバレエの観劇に行くという情報を、
草壁さんが伝えてくれた。

そんな情報…、一体どうやって掴んだのだろう?

まるでスパイ映画のようだ。




そう驚いていると、更に…

ニックが予約しているグランド・ティアーボックス席の
隣のボックス席の予約が取れたと連絡が来たので
私達もそのバレエを観に行く事にした。

にしても…都合良く隣のボックス席が空いていたのだろうか。

…それとも…。


…まぁ、深く考えるのは止めておこう。




私の役目は、草壁さん達バックヤードで仕事をしてくれている人達が、
苦労して作ってくれたチャンスを生かし…成果に結びつける事だ。

余計な詮索をしている暇があったら
…自分の役割について考えるべきだろう。












バレエ観劇の当日…
目立つ為に着物でバレエの観劇に行く事にした。

派手過ぎない柔らかい優しい色の振袖の着物。
色柄的には目立たないが、
着物というだけで充分に目立つ場所だし、これで充分だろう。

恭弥さんはディナージャケット(タキシード)で
バッチリ決まっている。




行ってみると、事前情報通りに
隣のボックス席にニックが女性連れで観劇に来ていた。
でも二人で来てる訳ではなく、
ニックの友人男性と、その連れの女性も居て…全部で4人いる。

区切られているボックス席同士なので交流はないが、
お互いに隣の席に誰がいるのか、
チラリと見る事が出来る程度の壁の仕切りになっている。


ボックス席に入った時と帰る時に、
わざわざニックと連れの女性に目を合わせるようにして
軽く会釈をして挨拶をして印象つけた。






ニックの表情からは、
先日のロイヤルアスコットで逢った時の事を覚えているかどうかは
…読み取れなかったけれど

取り敢えず、バレエの観劇に
“東洋人カップルが来ていた”…というぐらいには
印象に残す事が出来ただろうと思う。











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