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虹の彼方 53





ボンゴレの皆さんとの暫しの別れの挨拶を終え、
空港に向かう為に、風紀財団内の地下駐車場に行く。

約束の時間より少し早めに着いたのだけど…
そこには、もう草壁さんが車を準備し待っていた。




暫くして雲雀さんも到着し…
草壁さんの運転で車が発進した。

空港に向かって走っている車内で、
雲雀さんに声を掛けられる。



「忘れ物は、ないだろうね。」



「はい。昨夜と今朝と、部屋を出る前にも…確認しました。」



「…それだけ何度も確認したなら、大丈夫そうだね。」



若干クスリと笑いつつ言われる。

…だって、万が一大事な物を忘れていたら大変だし
慎重にならざるを得ない。







「哲が渡したスマートホンの操作には慣れたかい?」



「はい。一週間の間に隅々まで説明書を読み…実際に、色々な機能を操作して覚えました。」



「それは大事な連絡ツールだ。常に、肌身離さず持っているようにして。」



「はい、解りました。」











そこまで話した所で、
先ほどより…少し真面目な表情になった雲雀さんが口を開く。




「…これから、幾つか大事な事を言うから良く聞いて。」



「はい。」



「先ず…前にも哲が説明をしていると思うが…」
「僕は『急拡大している日本の貿易商の代表』という立場で立ち振る舞う。」
「欧州に来た目的は『今後の商売相手になりそうな人脈を作る事』」
「その為に、積極的に欧州社交会のパーティに参加をしている…という設定だ。…ここまでは…良いね?」



「…はい。大丈夫です。」









「じゃあ次に…君の立場だけど…」
「僕の恋人であり、近々結婚予定の婚約者…という立場で同行して貰う。」




(…っ!!!…)



あまりに驚いて、
隣の雲雀さんを見つつ…少々間抜けな声が出た…



「…へっ?…」









けれど雲雀さんは、澄ました顔のまま…



「3か月間も欧州旅行に一緒に同伴するんだ…秘書か、又はそんな関係の女性でないと変だろう?」
「僕の秘書役は…哲だからね。君は、特別な関係の女性という設定だ。」




「…………。」





雲雀さんの言う事は尤もな事だ。
道理に適っている。

唯の友人と3か月も一緒に旅行なんて変だし
…怪しまれない為の、普通の設定だとは思う。


単なる恋人ではなく、
婚約者である事にしたのは、きっと…
『何れ妻になる相手』という立場の女性を連れている方が
好印象であり、ビジネスに対する真剣さも
伝わり易いからではないだろうか。





うん。頭では、十分に理解できる。

…だけど…だけど…。




…あの、雲雀さんと…恋人?

この私が?


で…もうすぐ結婚する予定の婚約者?




「…………。」





頭の中でぐるぐると…色々な考えが巡る…。
恋人で婚約者設定で欧州に行からこそ…
1週間前の休日を一緒に過ごした時は、
まるでデートのような雰囲気を出していたのだろうか?

雲雀さんが、とても優しく感じたのは…
この設定の為の演技だったのだろうか?

…それだったら…とても納得が出来る。







というか、今の今まで…
雲雀さんに言われるまで『自分の設定はどうなっているのだろうか?』と
一度も考えなかった私は…どうかしているように思う。

そんなの…良く考えたら分りそうなものなのに…。
完璧に失念していた。



最初の頃に
『僕に慣れて貰わないと仕事にならない』と言われたけれど
…こういう事だったのね。






…成程、と理性では納得をした。

けれど…正直な所、思ってもいなかった展開に
心臓がドキドキしている。




いや、でも…これは『お仕事』なんだ。

仕事の為の設定であって…
本当にそうなる訳ではないのだから、
別にドキドキする必要なんてないのではないだろうか?

ここはひとつ…女優になったつもりで、
演技をすれば良いのはないだろうか?






…そうだ…

この欧州行きの任務の間…私は、女優になろうっ!




そう考えて漸く納得し…やっとまともな返事をする。




「…はい、解りました。」
「私は、雲雀さんの恋人で…近く結婚予定の婚約者、ですね。」



「態度が不自然にならないように、気を付けなよ。」



「はい。…女優になったつもりで頑張ります。」



「…女優、か。……期待しているよ。(クス)」










何故かクスリと笑われたけれど…
無理そうだとでも思われたのだろうか。

そう考えていると…




「君…誰かと付き合った経験はあるの?」




…うっ…。


聞かれたくない事を、ピンポイントで聞いて来た…。




「…あり、ません…。」


小声で渋々答える。








「ふぅん。…経験もないのに、大丈夫なのかい?」


何処となく…からかわれているような言い方だ…。
ほんのちょっとだけ…むっとする。




「お付き合いをした経験はありませんが…」
「その…映画やドラマや本等でそれなりに知識はある…と思います。」


自信がないので小さい声になったけれど、
何となく悔しいので頑張って反論してみた。





「(フッ)映画やドラマや本の知識が、どの程度役立つのか…楽しみにしているよ。」




「…………。」





やっぱり…
これは馬鹿にされているのだろうか…。

でも、ここで挑発に乗って『完璧にやってみせます!』
なんて言う勇気も自信もないので黙っていた。














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