[携帯モード] [URL送信]
虹の彼方 46




バタバタ仕事をして、追われるように日々が過ぎ…
あっと言う間に休日前夜。

草壁さんから連絡が入り、
明日は何時もの時間に待ち合わせだと言われる。



…あれから数度、着付けをやってみて確認をした。
久しぶりに着るので少し時間が掛かったが、
ちゃんと着付けは覚えている。

お茶の手順やお作法も再度確認をした。



…うん。
たぶん…大丈夫。

発表会の前日の子供のように…ドキドキしつつ就寝した。






+++++
+++







翌朝、何時もより少し早めに起きて着物の着付けをする。
順調に着る事が出来て、
予定通りの時間に財団の雲雀さんの公務室に到着した。



雲雀さんも和服。
今日のは…かなり黒に近い濃紺の着流しのようだ。

一見、普通のシンプルな単色物に見えるが…
よくよく見ると
大変に凝った文様が同色の糸で織り込まれている。

なかなか粋でお洒落な一品だ。






先日のお食事のお礼等を改めて言った後は…
最近、世間を賑わせている
時事的なニュースの話題で、一通り会話をした。

随分と広範囲で様々な話題が出たけれど…
流石というか、やはりというか…
雲雀さんは、どんな話題にも詳しかった。


経済は勿論、政治にも、国際関係にも、軍事や宗教にも…
各国の学力差や教育の特徴、
平均結婚年齢や平均的な子供の数なんて事にまで
詳しい数字を知っていて驚いた。

特に、これから仕事で向かう欧州の事情には…かなり詳しい。





「欧州出発前までに…」
「ここ半年分ぐらいの欧州で報道されたニュースをチェックし、頭に入れておいて」


と告げられたけど…
これは…私も本気で勉強をしておかないと!




参加予定のパーティでは、
お天気の話題だけで乗り切れる筈もないし…
各国のトップクラスの人材と会うとなると、
それなりの会話内容である事は容易に想像出来る。

変な所で躓いて、
雲雀さんの仕事の邪魔になるような事にでもなったら大変だ。

早速今夜から、ネット等で行く予定の国々のニュースを中心に、
欧米全体の時事問題について調べて…
ある程度の事は頭に入れておこうと誓った。







こうして午前中があっと言う間に過ぎ…
先日と同じように、
草壁さんと一緒に調理場に用意されている
お昼の食事を受け取りに行き…雲雀さんと一緒に頂く。

食後は…飛んで来たヒバードを遊ばせながら、
先ほどの続きの会話をした。







そして…
いよいよ…お茶を点てる事になり、
少々緊張しつつお道具の用意をしていたら…




「…そんなに緊張しなくても良いよ。別に、粗探しをしたい訳じゃないんだし。」
「単純に…君の点てたお茶を飲んでみたいだけだから。」



と…私の心を見透かしたような事を言われ、
一気に肩の力が抜けたように感じる。



「…はい。」

とだけ答え、…最後の準備を終えた。







手順通りに進めていると…
ヒバードが直ぐ近くに飛んできてじっと私のする事を眺め出した。

時々小さく首を傾げつつ、
つぶらな瞳で興味津々で見ている。

その可愛らしい仕草を微笑ましく思いつつ…
自然と笑顔になり、リラックス出来た。






事前に手順を再確認していた事もあり、
思ったよりスムーズに出来た…と思う。



やや緊張しつつ…
雲雀さんがお茶を味わっている様子を見詰める。


…ど、どうだろうか…。

満足して貰えるのだろうか。






やたらと広いこの和室で、
無言の状態というのは…まだ慣れない。
何時もより更にピンと張っている背中。

サワサワと…庭木がゆっくり揺れる音がし…
カコンッ…と、獅子嚇しの雅な音が
静寂な空間に沁み渡るように響く…。




そのまま絵になりそうな落ち着いた優雅な所作で、
お茶を味わっていた雲雀さんが
ゆっくりと、私の方に視線を向ける…



「…うん。良いね。美味しかったよ。」




(…!…)


…あぁ、良かった。

緊張の為、堅くなっていた全身の筋肉が、
徐々に解れて行くのを感じた。











ホッとし、傍で見ていたヒバードと
目を合わせ微笑んでいたら…



「今度は、僕がお茶を点てよう。」




「…え?」

雲雀さんの言葉に驚いてじっと顔を見ると…




「君に…お茶を点ててあげる。」

と、再度…言われる。




予想外の言葉に戸惑いつつも、場所を代わり…
今度は雲雀さんが私の為にお茶を点ててくれる様子を、
少し不思議な物を見るような感じで見る。




(…………。)




元々、男性がお茶を点てる仕草は…
何とも言えない男性特有の色気があると…
勝手にそんな感想を持っていたけど…


…うん。

この人がお茶を点てている姿は…凄い。

…凄すぎる。



本気で動画に撮っておきたいと思う程に…本当に美しい。





普通に…お茶の道具を前に座っているだけで
充分に絵になる人が…
優雅な所作でお茶を点ている姿は、完璧な動く芸術作品のようだ。

きっと、これを動画に撮ってネットで配信でもしたら…
世界中で大絶賛の嵐になり、物凄い話題の動画になる事…
間違いなし!という感じだ。

…大袈裟ではなく、それ程までに「綺麗」なのだ。



感動すら覚える程の美しい所作に釘付けになる。

…優雅さの中に漂う大人色香。
でも、それは決して背徳的な物ではなく…
高貴さを感じる色…だ。

大人のゆとり、とでも表現するような感じのもの。
ゆったりした美しい動きは…観る者を惹きつけて止まない…。







半ば恍惚と…幾分、茫然とした表情で見ていた私に、
お茶が差し出された。

夢心地のまま…ゆっくりとお茶を味わう。



…うん。

当然のように…美味しい。


「…美味しい、です…。」


ポツンと…つい、その言葉だけが口をついて出た。



「…そう。」


それだけ言った雲雀さんが、
穏やかな表情で見ているのを感じつつ

最後まで、ゆっくりしっかり味わいつつ…頂いた。














[*前へ][次へ#]

17/22ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!