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虹の彼方 45



オードブルから始まり、スープ、魚料理、肉料理と
時間を掛けゆっくり味わいつつ頂く。

どれもこれも…煌びやかなお皿に、
溜息が出そうな程に美しく芸術的に盛られている。

そして、
フランス料理の特徴でもあるソースが、本当に美味しい。



魚料理の時も肉料理の時も、
とても丁寧に作られているのが良く解るソースを
残すのが勿体なく感じられ…
一緒に出されたパンを使い、出来るだけ残すことなく味わった。








ワゴンで運ばれて来たチーズの山の中から
好きなチーズを指定し、ゆっくりとそれを味わっていると…


「昼も、そして今も…ずっと君の食事作法を見て来たけれど、」
「…しっかり、食事のマナーは身に付いているようだね。」



と言われ『え?マナー?』と思いつつ…
雲雀さんの方に視線を向ける。
と…あの鋭くも美しい瞳と目が合い、少々ドキッとする。

でも…直ぐに目を逸らす事がないぐらいには慣れた。
雲雀さんの透明で曇りの無い蒼灰色の瞳に、
ちょっとキョトンとした表情の私が写されている。


そうか…
今日、昼も夜も洋食にしたのは、洋食のマナーチェックも兼ねていたのね。
先日の買い物の時は昼も夜も和食、財団に行った時はお茶の淹れ方…
そして今日は、
昼と夜の両方の食事で洋食のマナーについて確認をしたようだ。





欧州に行った時に、マナー知らずな女を連れていると
恥を掻くのは雲雀さんだもんね…。
当然と言えば当然だろうか…

そんな事をぼんやりと考えつつ返事をする。




「幼い頃から両親に…私が恥を掻かない程度には、仕込まれました。」



「…そう。君は…ご両親が素晴らしい人達だった、という生きた証拠だね。」



(…っ!…)





思い掛けない事を言われ、
驚いて雲雀さんにジッと視線を向ける。





「だって、そうだろう?」
「君は、しっかり教養もマナーも身に付けた立派な女性に成長したんだ。」
「ご両親の子育てや教育方針が良かった、という事だ。」




(…………。)








言われた言葉に胸が熱くなる…。

まさか雲雀さんから、
こんな風に私の両親の事を評価し褒めて貰えるとは思わなかった。

勿論、間接的に私の事を褒めてくれた事も理解しているが…
それより何より…大好きだった両親を認めてくれ、
わざわざ言葉にして言ってくれた事が、とても嬉しかった。



単純に私のマナーチェックをするだけでなく、
私の背後にある育った環境や
亡くなった両親の事までをも見てくれていたのだと…
感激をし、同時に感心もした。




「…有難う、ござい、ます…。」


嬉しくて言葉に詰まりながら、何とかお礼を言った。








…あぁ、…心が…暖かい。

良く解らないけれど…何かが癒されて行く感じがする…


両親を同時に失くし、
その後次々に祖父母までをも失くし…天涯孤独になり
心の中にポッカリと空いてしまった穴が
…柔らかい物で…埋められている感じがする。








雲雀さんと一緒に居て、
こんな風に思ったのは初めての事だ。

ツナと一緒にいて、
癒される事、慰められる事、励まされる事は度々あった…



けれど、まさか…
あの雲雀さんに“癒される”なんて。

雲雀さんの事を殆ど知らなかった頃は、
周囲の人には冷たい氷のような対応をする人だと
勝手に思い込んでいただけに…このギャップは大きい。


『雲雀恭弥という、良く解らない相手に対して』
警戒心や、緊張や慣れない為に…私が『心の中で作っていた壁』が…
ゆっくりと…融けて行くのを、心の隅で感じていた。











その後…デザートとコーヒーを頂き、
ゆっくりと時間を掛け、
穏やかな会話をしつつ過ごした夕食の時間が終わった。

心地良かった時間が終わる事に、若干の寂しさを感じつつ
お店の外に出ると、
既に車が回されており…草壁さんが待っていた。




雲雀さんがエスコートしてくれ、
車のドアを開けてくれる。

それに従って乗り込むと、
雲雀さんも回り込んで隣のシートに座った。




草壁さんが、静かに車を発進させ…
アジトに向かって走り出す。

つい先ほどまで、楽しく会話していたのが嘘のように
車内は静かな音楽が流れているだけ。



…どうしよう。
声を掛けてみようか…。

チラリと隣に座っている雲雀さんの方を見た。

今日は…寝ていないようだ。









そう思っていると、先に雲雀さんの方から話掛けられた。



「…二日連続で、君の休日を潰して悪かったね。」



「いいえ、そんな事はありません。」
「寧ろあの、…今日は、とても楽しかったです。有難うございました。」




雲雀さんは、私に向けた視線に、
ほんの少しだけ意外そうな色を浮かべた。




「…そう。…楽しめたのなら良かった。」




「連れて行って頂いたドライブも公園の散歩も、とても気持ちの良いものでしたし…」
「お食事も、本当に美味しかったです。」

「それに…今日は沢山お話も出来て、楽しい時を過ごせました。」
「本当に有難うございました。」





最後の言葉に…先ほどのレストランでの
雲雀さんの言葉への感謝の気持ちを乗せて言う。




私の言葉を静かにじっと聞きながら…

「うん。」と一言。



そして、ゆっくりと視線を窓の外の車外に移した。





私も同じように、窓の外を眺めながら…
今、雲雀さんは何を考えているのだろうかと…
ふと、そんな事を考えていた。









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