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虹の彼方 35


おしぼりを使いつつ、
待って居たのであろう雲雀さんが
私が座ったのを確認して、お茶を飲む為に手を伸ばす…



私も、自分のお茶碗を手に取りつつも…
…心の中ではドキドキ…

“私のお茶の入れ方を、気に入って貰えるだろうか”
『不味い!』なんて言って怒られたら…どうしよう…
と、気が気でない。

自然と身体が緊張し…
雲雀さんの事を、じっーと凝視する事になってしまった。






そんな様子の私に気が付いたのだろう…

一口、お茶を味わった後…
スッと私の方に…雲雀さんが視線を向けた。


…っ!…


心臓がバクバク言っている…

雲雀さんから視線が外せないまま、固まってしまった。







「八女の玉露…しっかり甘味も旨味も出ているね。」
「…合格…。」


…!!…

よ、良かった!…合格と言って貰えた!



「…あ、有難うございます。」

心の底からホッとしつつ答えた。







にしても…凄い。
一口飲んだだけで…玉露と解るのはまだ理解できるけど
…産地の八女まで当てるとは。

感心しつつ雲雀さんを見ていると
極度の緊張から解放された、私の嬉しそうな顔を見て
“一瞬だけフッと”笑みを零し…お茶菓子に手を付ける。

…!…

う〜ん…今のは…
優美で色香漂う瞬間だった…
何だろう…様になり過ぎてて怖いぐらい。





雲雀さんの“笑み”は滅多に見られない。

大笑いする所は誰も見たことがないみたいだし
“強敵を目の前にした時の嬉しそうな笑み”以外の
今のような微笑みは、大変にレアなのではないだろうか?


つくづく…
この人の所作は、うっとりする程美しい。

お茶を飲んでお菓子を食べているだけなのに…
こんなに絵になるなんて。

そんな事を思いつつ…安心した私もお菓子を頂いた。









私は…煉りきりを選んだ。
甘さ控えめの上品な味で…とても美味しい。

久しぶりに食べた美味しい練きりを味わいつつ頂いていると…



「君は、お茶の淹れ方を知っているようだね。」
「…何処かで習ったのかい?」

と聞かれる。



「お茶の淹れ方は…祖母に教わりました。」



「…茶道の心得もあるの?」



「はい。簡単にではありますが…一応、煎茶道と茶道の両方を教わりました。」



「ふぅん。…煎茶道も一緒にとなると、小笠原流かい?」



「はい。」



「そう。じゃあ…来週の休みに着物で来て、お茶を点てて。」






…!…

あぁ、やはり…
此処には着物で来るべきだったのだろうか?

迷った末に、“何処かに出掛けるのかもしれないし”と考えて
…今日は洋装で来てしまったのだけど…




「…はい。分かりました。」
「…あの、明日も…お着物の方が宜しいですか?」



「いや、明日は洋服で良い。一緒に外出するからね。」
「でも今後は…洋服で来て欲しい時は事前に連絡をするから、それ以外の日は和服で来て。」



「はい、解りました。」

と、返事をしたが…

注意はされなかったけれど、
本当は今日も着物の方が良かった、という事なのだろう。









“風紀財団で雲雀さんに面会する時は、なるべく和服の方が良い”…と
噂で聞いた事はあったけれど、
今まで…数度来た時は、
全てツナの秘書として、仕事の途中に此方に来たので…
何時もの仕事をしている時の私服…つまり洋服で来ていた。

だって…
その為にわざわざ着物に着替えるのは面倒だったのだ。



でも、それを注意された事は一度もなかったし、
草壁さんも背広姿で出入りをしているので
別に洋服でも良いのだろうと…勝手に考えていた。

それに…来てみたら、
背広姿の雲雀さんがこの部屋で仕事をしている事もあったし。



だけど、良く考えたら…
その時はきっと外出する用事がある日だったのだろう。

今日のように、外出しないでいるつもりの日には
雲雀さんは和服で過ごすのではないだろうか?




やはり…この純然たる和の空間では、
和装の方が断然に合う…よね。

それを考えると、洋装でも、苦情を言われる程ではない
(そこまで絶対に拘らない)けれど…
ここの雰囲気を壊さない為にも
出来るだけ和装が良いという事なのだろう。

…今度から気を付ける事にしよう。








…再びお茶を頂く。
自分で淹れたお茶だけど…うん、美味しい。

そもそも、茶葉もとても良いものだったし
…茶道具類も完璧だったしね。


にしても…雲雀さんはお茶関係にも詳しいようだ。
煎茶道と茶道を軽くだけど、
一緒に祖母に習った事を告げただけで…
流派を小笠原流だと当てるなんて、
お茶や茶道系の知識がないと…出来ない事だ。

お茶道具類が完璧に揃っているのは…伊達ではないようだ。



普段は、どうしているのだろうか。

草壁さんがお茶を淹れているのだろうか…?
それとも…もしかして雲雀さんが自分で淹れるのだろうか。

…うん。どちらのケースもありそうだ。






来週は…お茶を点てる事になったけど…
もう随分とやっていない…

この分だと雲雀さんは茶道にも作法にも詳しそうだし
誤魔化しは出来そうにないし…
此処に来る前に一度、見直しをしておこう…
そう心の中で誓った。








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