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虹の彼方 34




さて…と、静かに立ち上がり、
ある程度まで雲雀さんに近づいて聞く事にした。

お部屋が広くて離れているので…
この場所から尋ねたのでは、大きな声を出さないといけないし…
集中している雲雀さんに、
遠くからいきなり尋ねるのはどうかと思う。





雲雀さんの視界にしっかり入りそうな位置まで来て…
一度座り直し、
仕事中の雲雀さんの方を見詰める…

と、それに気が付いた雲雀さんが、
こちらに視線を向けてくれた。



…良かった。
気が付いてくれた。






「お仕事の邪魔をして申し訳ありません。」
「…あの、お茶は…何をお淹れしましょうか?」

そう声を掛けると…




「茶菓子は何?」



「“ねりきり”と“塩がま”が用意されています。」

…お菓子の確認をしておいて良かった…
と内心で胸を撫で下ろす。






「…塩がまを頼むよ。」



「はい。…数は一つでしょうか二つでしょうか。」



「ひとつで良いよ。」



「分かりました。…お茶の種類は、どれが宜しいですか?」



「甘味を感じて香り高いお茶が良いな。」
「…茶葉と産地の選択は、君に任せるよ。」

と、サラリ言われる。






「……はい。…分かりました。」






軽く頭を下げて、その場から下がり…
お茶道具のある場所まで戻ったが…どうしよう。

…まさか…
あんな風に、返事が来るとは思わなかった。


てっきり茶葉の種類と産地を指定されるのだろうと
思っていたのだけど…






私は一応、簡単なお茶の知識ぐらいならある。

高校から大学までの間にお世話になった…
父方の藤宮家の祖母は日常的に和服を着こなし
華道の師範でもあり、日本的な文化に詳しい方だった…

礼法も…小笠原流を修め、
煎茶道と茶道の両方に通じていた。


なので…私も折々に祖母の教えを受けて、
一応、一通りの作法は身につけた。





けれど、ボンゴレに来てからは
そのような知識が役立つような場面はあまり無かったし
…正直、ここ数年このような世界とはご無沙汰している。

要するに…あまり自信がない。




…が、ああ言われた以上は仕方ない。
やってみよう。








取り敢えず…
まだお昼を頂く前だし、普通の煎茶系が良いよね。

で…甘味がある茶葉…となると、
この中では玉露が良いだろうか…

玉露の産地を見ると…色々と用意されている。




茶葉を入れたケースには
産地と茶葉を摘んだ時期の記載がある。

が、しかし…
産地の違いによる味の違いにまでは…詳しくない。

揃っているのは有名な玉露産地の福岡の八女茶・京都の宇治茶
静岡の岡部の物に加え…三重のお茶もある。


う〜ん…どうしよう。

迷ったけれど…ここは自分の好みで良いだろうか。
という事で、福岡の八女茶を選んだ。







煎茶用のお点前道具を用意して…
急須と湯のみは小さ目の物を選ぶ。


玉露で甘味を引き出すには、
兎に角…お湯の温度が大事だ。

湯さましを使い…
用意されていた電動式のポットのお湯の温度を下げる。
(ちゃんと今の温度の解るポットで助かった)

少々の入れ方の違いで、甘味も香りも大きく違って来る。
やや緊張しつつ…慎重に丁寧に作業をする。



祖母から教わった手順通りに…
お茶の旨味が多い、最後の一滴までを注ぎ…完成。

時間を確認すると、ちょうど10時になろうとする所だった。







タイミングも合ったし、良かった…

そう思いつつ、雲雀さんにお茶を出す為に移動した。




「…失礼いたします。」


雲雀さんの直ぐ近くまで来て、
やや小声で声を掛けると…
雲雀さんが文机に置かれた書類を取り上げ外した。



“今の動作は…此処に置いて…という意味よね?”
と心の中で思いつつ

一旦、畳の上にお盆ごと置き…
予め用意していた、おしぼりを先に出す。

続けて…和菓子の塩がま。
最後に…その場で茶托にお茶の入った茶碗を
そっと乗せ…それを丁寧に置いた。








軽く頭を下げて…
自分の分のお茶とお菓子を頂こうと
茶器の置いている場所まで下がろうとしたら…



「君も、此処に来て一緒にお茶にしなよ。」


と言われ…
内心で“い、一緒に…?”と驚きつつも…





そもそも
『雲雀さんに慣れる為に、此処に来ているのだった』
事を思い出し


「…はい。」

と返事をした後…





自分の分をお盆に乗せて
雲雀さんの“やや近く”に座ろうとした所で…


「其処では遠いよ。」


と言われ…
ドキドキしつつ…かなり近くまで来て座った。





位置的には、雲雀さんが座っている場所に向かって
…横顔が見える位置だ。











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