虹の彼方 28
運ばれて来るお食事は、どれもこれも素晴らし過ぎて、
思わず感嘆の声が出そうになる…
が、はしたないので…当然ながら声に出すのは我慢する。
細部にまで拘って、
時間を掛けて作っているのが伺い知れる内容。
とても美味しい本格的な会席料理コース。
見た目にも大変に美しく…
一皿一皿が、さながら芸術作品のような一品だ。
そのお料理を盛り付けているお皿も…見るからに素敵だ。
伊万里焼や備前焼、萩焼に益子焼などなど…
お料理毎に違う器に、芸術的に美しく盛られて来る。
恐らくは、どれもこれも…
有名陶芸作家の物だろうと思う器を惜しげもなく使用している。
お皿だけで、芸術品として飾る価値のありそうな品々ばかり。
人間国宝や、様々な賞などを取っている作家達の
陶芸作品であると…思う。
お食事の内容も、器までも…
全てが芸術の域に達している。
普段であれば…
食べるのが勿体無い！なんて思いそうだけど…
雲雀さんは、ごく普通に頂いているし…
お食事する為に来たのに、食べない訳にも行かないし
何より、実際問題としてお腹が空いている。
…という事で…ひとつひとつに感嘆しつつも、
なんのかんのと…しっかり食べていた。
食事を頂きながら、
チラチラと…遠慮がちに雲雀さんに視線を走らせる。
お昼のランチも一緒に頂いたので、
こうして見るのも…少しだけ慣れて、より詳しく観察出来た。
…………。
何と言うか…
こうして改めて見ると…雲雀さんって凄い人だ。
…うん。
美しく優雅な動作のお箸使い…完璧な和食のマナー通りの振る舞い。
食べ方は勿論、お椀を持つその姿も、
全ての一挙一動が…どことなく艶があって美しい。
…以前から思っていた事だけど、
この人の動き…所作って凄く優雅だな。
男性で、これ程に優雅さや艶めいたものを感じさせる人は稀だ。
でも、その艶は決して下品にならず、洗練されている。
品格を感じる色香、とでも表現すれば良いだろうか…
歩く姿や車に乗る動作とか、ちょっとした瞬間に…
品の良さとか艶を感じる。
元々、誰もが目を奪われる程に容姿端麗だし…
見た目の麗しさが、所作の美しさを一際引き立てている。
こうしてる所だけを見ると…
噂で聞くバイオレンスな、戦闘狂ともバトルマニアとも
言われているイメージとは…かけ離れた人物に見える。
何だか…とっても不思議な人だと思う。
絶対に肉食動物系…それも最も獰猛なタイプ、捕食する側の
頂点を極めるタイプなのに…
妙に静かで、落ち着いた雰囲気を持っている。
普通の肉食系の人って、醸し出している雰囲気も
如何にも猛々しいのに…雲雀さんは違う。
牙を向く、その直前までは…
寧ろ…のんびりしているようにさえ思う。
ライオンや豹が…
普段は、のんびり優雅にお昼寝をし、ゆったりしているのに…
イザという時には、豹変し…猛然と狩りをするのに似ている。
…雲雀さんは…
ライオンというより…より動作が優雅でしなやかな豹…
の方が似合っているかも。
…うん。
まるで…優雅な、黒豹…という感じだろうか。
静と動、陰と陽を…同時に内側に持つ人…
そんな不可思議な人だと感じる。
良家の育ちと聞いているけど…
男性で、ここまで優雅さを醸し出すという事は…
きっと、とても品のある家庭で育ったのだろうな。
何だろう…このちょっと悔しい気持ち。
こんな風に、何もかもを備えている人って…
反則だし狡いよね。
充分過ぎる程の、様々な才能に溢れ…何でも出来て
(草壁さんは天才だと表現するけど)
良家で、恐らくは何不自由なく育ち
持ち前の強さと、カリスマ性で並盛を実行支配し…
全てを、自分の意のままにして来て…
それだけでも、十分だろうと思うのに
…止めに…
この素晴らし過ぎる容姿と、品性を兼ね備えている。
この雲雀恭弥という人には、
何処か欠けた部分がないのだろうか…弱点とか、無いのだろうか…
そう思って頭を巡らすけれど…
悔しいけれど、今の所は何ひとつ浮かばない。
敢えて、無理矢理に挙げると…
“性格的にちょっと？怖い人”
“他人とのコミュニケーションを取るのが嫌い”
という感じになると思うのだけど…
それで本人は全く困らない環境なんだから、
“弱点”には当たらないよね…。
…ホント、この人の存在って、絶対に反則。
こんな人、漫画や小説の中にしか居ないと思っていたけど…
実際に…居るものなのね…。
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