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虹の彼方 210





心配しつつ待っていると…
何時も話の早い恭弥さんにしては大変珍しい事に、
結構長い時間を費やし、ようやく戻って来た。



そして、ソファーの隣に座ると同時に話し掛けて来る。


「…優衣…。」



「…はい。」


ドキドキしつつ返事をして、
隣の恭弥さんに視線を向ける。






「ボンゴレ側は、君を沢田綱吉の義妹にしたいらしい。」
「お互いの組織の未来の為にも、僕と君の為にもその方が良いという判断らしいが…」
「正直言って、僕にとってはどうでも良い話だ。」



「……はい。」



そうだよね。
恭弥さんの側から見れば…
私の立場なんてきっとどうでも良いんだろうな。

相手の身分を見て決めた政略結婚ではないのだし、
私に身寄りがない事なんて、最初から解っていた事なんだしね。



「君の為に家族を作ってやりたいというが、」
「…僕が家族になるのだから、それで十分だろう。」
「それでは…君の立場が弱くなり、イザという時に頼れる実家もないのは可哀相だとも言われたが…」
「僕は、そんな事で君が引け目を感じたりするような事には絶対にしない。」



「…………。」




恭弥さんの言葉は本当だろうと思う。
でも、ここで賛成をしたら…計画が台無しになってしまう。

今の所…私がボンゴレに暫くの間、
堂々と在籍出来る為のアイデアは他にないのだし…
迂闊に、恭弥さんの話に賛成の意を示す事も出来ないので
…つい無言になる。









「他にも色々な事を話したが…」
「要するに、ボンゴレ側は今直ぐに君を手放したくないので、」
「その為なら、どんな手段でも取る…という事なんだと僕は理解をした。」



…やっぱり…
この話の“真の目的”の部分に恭弥さんは気が付いているみたいだ。

まぁ当然と言えば当然だろうか。
“あの雲雀恭弥”が見掛けの大義名分に惑わされる事など
…普通はないだろう。

ここまでは、ツナやリボーン達とも話した“想定内”の反応だ。









ところで問題は、この先…
ボンゴレ側の真意を知りつつ、恭弥さんがどんな判断をしたのか
…という部分だ。

固唾を飲んで…恭弥さんの次の言葉を待つ。



「その事を話して、向こうの提案を突っぱねたんだが、」
「…今回はやけに粘って来てね…」
「君の為でもあるから、何とか納得して欲しいと必死に言って来て煩かった。」



なるほど…
あんなに時間が掛かっていた理由が少し解かった。
ツナは、相当に粘り強く頑張ってくれたようだ。








「僕の気持ちはハッキリしている。」
「ボンゴレ側も今回ばかりは譲れないと、何時になく頑固な態度だ。」
「…このまま平行線では、何も決まらない。」

「話しをしつつ、僕は内心で…」
「“最悪の場合は、君を無理に拉致してでも僕の所に連れてくれば良い”」
「…と、思っていたんだが…それを沢田綱吉に気が付かれてね、」
「“頼むから、優衣の気持ちを考えてやってくれ”と何度も言われたよ。」




「…………。」




「まぁ確かに…折角のお祝い事に水を差すのも良い気分ではないし。」
「ボンゴレ側と揉めて…君がボンゴレ内の友人達と会えなくなるもの…可哀相だしね。」

「色々と考えた末、君が希望していたように…」
「もう少しボンゴレに在籍したいという気持ちを尊重する事にしたよ。」




(……っ!……)

「有難うございますっ。」


すごい!
恭弥さんが…譲歩してくれたんだ!

…しかも、その理由は私の為だなんて…
こんなに嬉しい事はない。









「結納式をしたり、結婚準備の為に最低で1年位は必要だと言われたが、」
「…流石にそんなには待てない。」
「だから、お互いに条件を出し合って妥協点を探った結果…」
「8ヶ月間はボンゴレ在籍という事で決まった。」



(……っ!……)

なんと!
8ヶ月間もボンゴレに居る事が出来るようになったらしい。
それは大変に有難い。


「8ヶ月間もあれば、ボンゴレを退職するまでに色々な準備をする事が出来ます。」
「…とても嬉しいです。ご配慮に感謝致します。」


嬉しくて、つい満面の笑みで答えたら…



「僕の所に来るのが遅くなるというのに…そんなに嬉しいのかい?」

と少し不満顔で聞かれる。


慌てて…


「あ、いえ…そんな意味ではありません。」
「何時も恭弥さんと一緒に居たい気持ちはありますが…」
「でも、同時にボンゴレの皆様に迷惑にならない去り方もしたいので…」
「その…立つ鳥跡を濁さず、と言いますし…ええと…」
「そ、それに…その後はずっと恭弥さんと一緒に居られるのですから。」
「…あの…ええと…」



必死に言い分けをする私の言葉を聞いた恭弥さんが、
フッと笑みを零しつつ…

「…解ってるよ。」

と穏やかな顔で言う。








それを見て、別に怒っている訳ではないし…
寧ろ、どちらかと言うと恭弥さんも嬉しそうだと気が付く。


「…もしかして…恭弥さん的にも、」
「8ヶ月間は私がボンゴレ在籍の方が良い理由があるのですか?」


と聞いてみると…ニヤリとしつつ…



「やはり君は勘が良いね。…その通りだよ。」
「8ヶ月という期間は…ボンゴレ側の都合と僕が譲れるギリギリのラインを調整した結果なんだ。」

「本当は日本に帰国後に直ぐにでも、君と入籍してしまいたかったのだが…」
「沢田綱吉に…」
「“女性は結婚式や新婚生活に夢を見ているし、準備したい事も多い筈だ”…と説得されてね。」

「彼の言う事も分かるし、君の気持ちも考えると…」
「2、3カ月なら譲ってやっても良いと、最初は考えた。」




「…2、3カ月…」











「君がボンゴレを去る為には最低限それ位あれば、何とかなるだろう?」



「…はい…たぶん、ギリギリ何とか出来る…かと。」




「それを沢田綱吉に言ったら、」
「“優衣は、仕事だけではなくて…」
「結納式や結婚式までの準備も同時にしないといけないから、」
「それを考えると最低半年は必要だ”…と粘られたんだ。」

「結婚までの準備の期間というのは…」
「女性はエステなどに数か月通って自分磨きをしたいから時間がかかる…とね。」




「…あぁ…ブライダル・エステなどの事ですね。」
「今まで、あまり考えた事は無かったのですが…」
「一般的には、出来ればそんなのに通いたいと言う人は多いですよね。」
「確かに、そんなのも準備の中に入れると…半年位は、あっという間に過ぎてしまいそうです。」




「…うん。」
「6カ月位の最低の時間しかないと優衣が忙しすぎて可哀相だと言われ…」
「…更に…」
「もし8ヶ月待ってくれるなら僕の出した条件も呑むというから…」
「良く考えた上で、その条件で妥協する事にしたんだよ。」




「恭弥さんの出した条件とは、どんな内容ですか?」




「…その内に解かるよ。」



とても嬉しそうな表情で言う所を見ると
…余程、恭弥さん的に喜ばしい内容のようだ。

一体、どんな交渉をしたのか気になるが、
兎に角、これで私は8ヶ月間はボンゴレに在籍出来るようだ。










上手く行って良かった…とホッとしていると…



「沢田綱吉は…何時の間にあんなに交渉が上手くなったのかな…」
「なかなか粘り強かったし…正直、今回は驚いたよ。」



少し感心したように、恭弥さんが話すのを聞いて
…とっても頑張ってくれたツナを想像した。



「今まで一番ウルサクない“外野”だと思っていたのに、」
「…案外、彼が一番ウルサイのかもね。」



「…外野、ですか…?」



「今日話した沢田綱吉は…既に君の“義兄としての意識”だったよ。」



(…!…)



「可愛い義妹の事だからこそ、」
「…何時もにも増して熱心で上手い交渉術だったんだろう。」



「…………。」



実際に交渉の場面を見た訳ではないので
良く分からないけれど…
勘の良い恭弥さんがこう言うのだから、きっとそうなのだろうと思う。










…本当に…私は何て恵まれているのだろうか。

皆さんの気持ちが有難くて…じわりと涙が…出てきた。
ツナやリボーンは勿論…
多くの皆様の善意に囲まれている私は、最高に幸せ者だと
…今更ながらに実感する。


「…優衣…?」


私が涙ぐんでいるのを見て、
恭弥さんが訝(いぶか)しげに声を掛けてくれる。










「……数年前……、」
「リボーンが家に来て…私をボンゴレに勧誘して来た時は…、」
「もう…この世の終わりのように感じていました。」

「マフィアなんかに関わったら、私の人生も終わりだと…」
「もう一生幸福とは縁の無い生活になりそうだと…」
「そう思って…暗澹(あんたん)たる気持ちになりました。」




「…うん…。」




「でも、実際にボンゴレに連れて来られたら…皆さんが、とても良くして下さって。」
「暖かく迎えて貰えて、本当の家族のように接してくれて…。」
「ツナをはじめとして…」
「皆さんがとても気を遣って下さる事が、とても有難かったです。」




「…………。」




「それだけで、もう十分だと思っていたのに、」
「ボンゴレを去ろうとしている今回も、こうして私の為に皆さんが色々して下さって…」
「とても幸せだと感じて…心から嬉しくて、感謝でいっぱいになったら…」
「嬉し過ぎて、幸せ過ぎて…感極まって泣けて来ました…。」




私の言葉を聞いた恭弥さんが、
静かにその大きな手を頭の上にポンポンと乗せて来る。

そのまま、ゆっくりと私を引き寄せ
…壊れ物を扱うように柔らかく抱き締めてくれる。








恭弥さんと両想いになれ、求婚までされた喜び…

それを我が事のように喜んで下さった風紀財団の皆さんの気持ち…

少しでも私の為になるように動こうと、
一生懸命なボンゴレの皆さん…





今の私を囲んで下さっている方々の想いが…
優しくて、有難くて、嬉しくて…
とても幸せだと感じるし…
深い深い感謝の気持ちが出て来る。




不思議な運命の巡り合わせに導かれ…
私が出逢った方々は、
きっと過去世から…深い縁のある方々なのだろう。

こんなにも皆さんの事を愛おしく感じるのだから、
きっと間違いなく“縁生の友人達・仲間達”なのだと思う。



恭弥さんだけでなく…

皆さんとの出逢いも必然だったのだと

…心の深い所で感じる。











恭弥さんに軽く抱擁されたまま…


「…恭弥さん…私は世界一の幸せ者だと、本気で思います。」


と告げると…


「そう…それは困ったな。」


(…?…)


「世界一は…優衣を妻にする事が出来る僕だと思っていたんだけれどね。」
「…仕方ないから、今だけ君に一番を譲ってあげても良いよ。」



少しだけ面白そうに言った恭弥さんの顔を見上げると
…とても優しい柔らかい笑顔が見えた。






「…二人で一緒に、世界一でも良いと思います。」



「うん。…その方が良いね。」



お互いに微笑んで視線が合った後
…ゆっくりと優しく唇が重なる。












私が心から愛する国・日本の国土が窓の外に見えて来た頃…
飛行機の中から…ふと窓の外を見ると…

薄い雲海が拡がる中に
七色に光る…美しく大きな見事な虹が見えた。




…まるで…

私と恭弥さんの未来を祝福してくれているかのように感じる
大きくて綺麗な七色の虹の架け橋だ。






…その…

あまりにも美しい七色の虹を見て…


…恭弥さんと二人…穏やかに微笑み合った。










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第8章 <未来への選択> 本編・完




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以上、第8章はここまでです。



『虹の彼方』<本編>はこれで完結しました。

長い物語をここまでお読み下さり有難うございました。




※この後に第9章として、<後日談>が続きます。

※9章は「後日談」「小話」の他にも補足説明や後書きなども織り交ぜて書きます。

※<虹の彼方>全体としては、9章の最後が完結となります。




※8章の最後まで読んだ後の「ツナ達からのご挨拶」を
『過去拍手の部屋』で公開しています。

宜しければ、そちらもお読み下さい。




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