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虹の彼方 21


来た時と同じように、
お見送りをされて店外に出ると、草壁さんが待っていた。


「…お疲れ様でした。」

そう労うように声を掛けてくれて
ドアを開けてくれる。






再び、車中の人になり
今度は何処に行くのだろうかと考えていると…

着いたのは…某有名ホテルだった。


…ホテル?

と疑問顔でいると…


「此処で、食事をするよ。…そろそろお腹が空いてるだろう?」

と雲雀さんに言われて…気が付いた。




先ほどまで慣れない空間に居て
緊張もしていたから気が付かなかったけど…
凄くお腹が空いている!


「…はいっ。…とてもお腹が空きました。」


正直にそう告げると…僅かにフッと笑われた?
…気がする…

もしかして…ガッついて見えたのだろうか…
…かなり恥ずかしい…。





「…行くよ。」

そう言うが早いか
既に歩き出している雲雀さんの後を追って
ホテル内に足を踏み入れた。







ホテル最上階まで行き、
黙って雲雀さんの後を着いて行く。

其処のフロアには、有名店ばかりが数店舗あり…
後はホテルのバーがある。

高級フレンチや中華のお店の前を過ぎ、
着いたのは…創作和食のお店だった。




先に連絡が来ていたのだろう…
お店の前には
女将さんらしき人と料理長らしき人が、既に待っていた。

「いらっしゃいませ、雲雀様。」
「ようこそお出で下さいました。」



流石、雲雀さん…。
何処に行ってもこの出迎えなんだ…。

一番最初の呉服店の店主が
『雲雀様のお陰で商いが出来る』と言っていたけど
並盛を牛耳っているという噂は…本当のようだ。





そんな事を思いつつ、案内されて、
奥の特別室らしいお部屋に通される。

座って落ち着くのを待って女将さんが、
メニューを出すでもなく

「…本日は、如何なさいますか?」
「何か、ご希望はございますでしょうか。」

と聞いて来る。





雲雀さんが私の方を見て…


「食べられない食材や、嫌いな物はあるかい?」



「いいえ、アレルギーもありませんし。好き嫌いもありません。」

そう答えると…





「そう。じゃあ旬の物を中心にして、献立は君達に任せるよ。」



「はい。畏まりました。」



女将さんは、そう言って一度下がり、
程なくして手書きのお品書きを持って来て、雲雀さんに確認する。
了解を得ると…順にお料理が運ばれて来た。


創作和食のお店、という事だけど…
和食に少し洋食の良さも足したような…そんな感じ。




伝統的な和食も美味しいけれど、
こんな風に現代風和食とも言えるお食事も美味しい。
どれもこれも、とても手が込んでいる。

何より、食材が素晴らしい。
きっと旬の物の中でも、
特別に良い品を食材に使っているのだろう。






半日経って…漸く少しだけ、
余裕を持って雲雀さんを見る事が出来るようになった。

でもまだ…
オドオドした不自然さが残っているけど。


最初の着物を選ぶ時以外は、
不機嫌にさせにせずに済んでいる事で、
少しだけ心の余裕が出来た…気がする。

まぁ、まだ…
完全に緊張が取れている訳ではないけれど…ね。






お腹が空いていた事もあり、
私はランチにしては少し多めのお料理を
残す事なく頂きつつ
チラチラと雲雀さんを見る…を繰り返していた。


にしても…
流石にずっと無言というのは…辛い。




ここは勇気を出して…
話し掛けてみよう、かな…。



「…どれも、とても美味しいですね。」


おずおずと、小さめの声で…
向かい合って座っている雲雀さんに言ってみた。





私が声を掛けた事で、
チラリと私の方に視線をくれてから、雲雀さんが答えてくれた。


「此処は、食材に拘り、且つ腕の良い調理人が丁寧な調理をするからね。」



「はい、素材の味を生かしてるし…とても凝ったお料理ですね。」




「…君、この料理の繊細さが解るのかい?」

少し意外そうな顔で言われた。





特別にお料理に詳しいわけではないけれど…
いくら私でも“かなり美味しい”というぐらいなら解る。



「詳しい事までは解りませんが…でも、とても美味しいと感じます。」




「そう。…連れてきた甲斐があったようだね。」


そして、小さくフッと微笑をしつつ…
真っ直ぐに私を見て来た。





…っ!!…



…時が…止まる…



今まで、こんな風に真正面から
しっかりと視線を交わした事のなかった私は…

その強烈な視線に囚われて、言葉が出て来ない…。















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