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虹の彼方 207






プロポーズを受けた直後のふあふあした幸福感の中で
クルーズ船内での、最後のお別れパーティにも参加した。

恭弥さんと、こんな風にダンスを踊るのも
きっと最後になるだろうと思い参加したのだけれど
最後のパーティとあって、殆どの人が参加するので凄い人数だった。



こんなにも人が多く、混雑しているし…
恭弥さんは嫌がるだろうと思ったけれど、意外にも彼は終始上機嫌で
最後まで、穏やかな気分で気持ち良く過ごす事が出来た。






++++


++











そんな訳で
たった2日前に、正式に恋人になったと思ったら…

怒涛の勢いで、
気が付いたら、正式な婚約者にもなってしまった翌日…
このクルーズツアーの最後の寄港地である
アテネのピレウス港に船が到着した。



ギリシャにいる間はずっとお天気が良い日が続いてくれて…
最終日も、海と空の青が融け込んでいるように見える程の
素晴らしい快晴だった。



お世話になったスタッフや、
船長に丁寧にお礼を言って下船をした後は
夕方の飛行機の時間まで、ゆっくりとアテネ市内で過ごす事にした。

前の晩に、今まで買ったお土産なども確認したので
足りない分も買うつもりだ。







“気分は新婚さん”
…とでも表現できる程の浮ついた気持ちで
アテネの有名観光地である、
パルテノン神殿やアクロポリスなどの遺跡を巡り
たくさんの博物館などの定番の場所をを簡単に観光しては、
お土産を買ったりカフェで休憩したりする。






見る物、接触する物の全てが…
輝いて見える程に溢れんばかりの幸福感で一杯の私。

プライベートジェットの出発時間までは、
十分に時間があった筈なのに
あっという間に時間が過ぎて…
はっと気が付いた時には…もう夕刻を過ぎていた。


“愛しい人と過ごす時間は、あっという間に過ぎる”
と小説などで読んだ記憶があるけれど、
本当にそうなんだなぁ〜という事を
今回のギリシャの3日間で身を持って体験した。

それだけ…
“二人の世界”に嵌り込んでいる、という事の証拠なのだろう。






今まであまり経験をした事のない、
ふんわり夢心地に感じる時間を少し不思議に思いつつも
幸せな思いを噛み締める。

好きな人と両想いになり恋人になり、更には求婚までされるという
人生の最大の見せ場のひとつを、
この数か月で一気に駆け抜けるように体験をし
…正直な所…まだ確かな実感がない。



ベタなようだけど
『本当は全て夢なのではないかな?』という気持ちが
時々出て来る位には信じられない。



だが、心は正直な物で…
実感はなくても、ふあふあとして地に足が付かないような
何とも形容が難しい幸福感はしっかり感じている。

それに、隣で常に超上機嫌で
笑顔を見せてくれる優しい恭弥さんを見ていると
『あぁ本当に私達は恋人なんだ。この人と結婚の約束までしたんだ。』
という気持ちが出て来る。













そんな風に幸せいっぱいな時を過ごした後、
プライベートジェットに予定時間の夜の時間帯に乗り込むと
そこには草壁さんと数人のスタッフが待っていてくれた。



機内に入ると直ぐに恭弥さんが…

「…優衣。…おいで。」

と声を掛けて来て


草壁さん達が見ているというのに、
恭弥さんはそれに構う事になくスッと私の手を取り、
しっかり握って飛行機の中を移動する。

照れつつプライベートジェットの中に作られたリビングに移動し、
ゆったりしたソファーに座った。










暫くして飛行機が飛び立ち、飛行が安定した所で…
離陸の時はスタッフ用の部屋に居た草壁さんが、
再びリビングの私達の所に来た。

そこで改めて…
今回の欧州旅行の労苦を労うように声を掛けて来てくれる。



「この度の欧州で得る事が出来た成果は、当初の予定を遥かに上回る素晴らしい内容の物でした。」

「途中で色々な事がありましたが、終わってみれば全てが丸く収まりましたし…」
「大成功であったと言えると思います。」
「長い期間、本当に…お疲れ様でございました。」

「そして昨日は…恭さんと優衣さんのご婚約が決まるという…」
「大変おめでたい知らせが入り、風紀財団中が喜びと祝福で沸き立ちました。」
「この度は…本当におめでとうございます。」





あまり見る事のない
草壁さんの…とてもとても嬉しそうな満面の笑顔。
私達が婚約をした事を、もう風紀財団の人達は知っているようだ。

昨日の今日なのに…
恭弥さんは、何時の間に草壁さんに伝えたのだろう?




恭弥さんが…

「…うん。」

と簡潔に言った後に



私も軽く頭を下げながら

「…有難うございます。」

と答えたが…まだまだ慣れないし、どうにも照れてしまう。






今の草壁さんのお話では…
どうやら風紀財団の皆様は、私の事を受け入れて下さって
恭弥さんとの婚約を喜んでくれたようだし…とてもホッとした。


そして同時に、照れてばかりではなく、
ちゃんと草壁さんに挨拶をしなければ!と思い直し
顔を上げ、しっかり草壁さんの方に視線を合わせ…



「私は、まだまだ未熟者ですし…」
「きっと今後も、草壁さんや風紀財団の皆様にも色々とお世話になると思います。」
「これからも…どうぞ、宜しくお願いします。」



挨拶をした後、ゆっくり丁寧に頭を下げる。

私が頭を上げると、今度は草壁さんが…




「こちらの方こそ…、お世話になる事が増えると思います。」
「今後共、宜しくお願いします。」



と、丁寧に頭を下げてくれる。

それを見て…慌てて私も、もう一度頭を下げる。




…と…
お互いにぺこぺこ挨拶をしている私と草壁さんを
黙って見ていた恭弥さんが…



「…哲、…例の件はどうなったの。」



と声を掛けて来た所で、
ピタリッと草壁さんの動きが止まる。









そして、やや言い難くそうに…


「…それが…、予想通り…かなり難色を示しています。」
「約束の話と違うという事で…到底了承出来ないと言われました。」



草壁さんの言葉を聞いた恭弥さんのオーラが途端に不機嫌になる。

一体、何の話なんだろう?






憮然とした言い方で…恭弥さんが


「向こうに配慮して下手(したて)に出てあげたのに…。」
「了承出来ないなんて言うのなら…当初の予定通り、強硬手段で行く。」



「…しかし…。」
「それで、もし関係が悪化してしまったら…後々こちらが困る事になるのではないでしょうか。」



少し困ったように草壁さんが言いつつ、
チラリッと私を見た。







…ん?…

もしかして…私に関わる事なのだろうか?




気になって、恭弥さんの方に視線を向けじっと見る。

その視線に気が付いた恭弥さんも私をチラリと見たけれど
…何も言ってくれない。



何なんだろう…気になるな…。


















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